初めての婦人会
子どもの成長は早い。
優乃も来年には卒園し、四月からは一年生。
卒園を三ヶ月後に控えた年末、新生児のときの服を処分しようと出したところ……、小さい。かわいい。人形に着せるようなサイズ。あのころは、これでも大きめだったんだよねぇ……と思い出し、結局捨てられず納戸に戻してしまった。小さな靴や靴下も以下同文。
入園したときにはあんなに小さかったのに、今では堂々の一一〇センチ! 大きくなったものだ。
とは言え、年長さんでは真ん中より少し大きいぐらいの身長。未就園児の頃は月齢の割に大きい方だったのに、今は人並みだ。
優乃が小学生になる年から、私は婦人会に入ることとなった。慶一さんも、公民館役員の育成委員――『こども会』――だ。
組織の位置づけは、町によって違っているが、私が住んでいる町では、町内会の下部組織として公民館と婦人会がある。
小さい町だと、町内会の一部として公民館や委員――育成とか総務とか――と同列で婦人部がある。一方、ここのように婦人会や公民館が別組織になっている町もある。
初年ということで私はお客様扱いだが、いずれ『班長』が回ってくる。慶一さんも公民館役員で同様だ。町内会・公民館・婦人会各々に班長が在る。
昨年の活動報告を見ると、婦人会主催の行事はほとんど行われていない。文化・教養活動の参加希望が少なくて企画倒れになっている以外は、公民館の清掃、あとは『花いっぱい運動』で花を栽培したりだ。
実際のところ、婦人会の主な仕事は町内行事の補助で、有り体に言えば女性を動員するための組織のようだ。三役(会長・副会長・会計)と各班の班長が、町内会行事に参加させられる。
正直、始める前から、面倒くささが先に立つ。
先日、婦人会の集まりに初めて行って、挨拶がてらいろいろと話を聞いた。
町内向けの仕事以外に、会長は地区(学区)の婦人会にも出る必要がある。副会長も市の女性ナントカ協議会だったか、まぁそんな集まりに出る必要があるそうだ。どっちも面倒くさいらしい。
それだと三役の引き受け手がいないのでは? と思ったら、これをした人は班長のローテーションから外れることになるらしい。
班長はいろいろと行事に動員される。面倒なのが敬老会――老人会を最近はこう呼ぶ――の行事補助や、運動会の参加だ。しかもこの運動会、似た行事が町内だけでなく学区でもあるのだ。これで日曜が潰れるのはイタい。
でも、過去の名簿を見る限り、三役をした後も班長を受けている人がいる。一方、会則には免除などの文言は無い。
この辺は明文化されていない『不文律』的な扱いだが、適用されるかどうかが人に依るようだ。
……ということは、上手く免除を勝ち取った人は、婦人会において要注意人物なのだろう。
それ以外にもいろいろ訊いてみたが……要領を得ない。
「大体、三役やった人は『上がり』だから、総会以外はほとんど来ないのよね」
「そうそう。「自分はもうやったから、やってない人にさせるのが平等」って、以前のこともちゃんと教えてくれないし……」
「分からないのは「出てないのが悪い」って態度なのよ。そのくせ、会議で決まったことに後から文句を言うし……」
うーん。『出てないのが悪い』はそうだが、議事録を残したり周知したりが不十分だと思う。これも面倒くさそうだ。
「私も手伝うから、何かあったら遠慮無く言って」
一応、連絡先を交換した。もちろん、教えたのは対外用のだ。
最近は学校との連絡もスマホアプリを使う。これだけ携帯電話が普及しているから、持っていない人は居ない前提だ。
本当は格安SIMとタブレットで十分なのだが、電話の連絡先が無いのは不自然だろうということで、対外用と個人用との二台持ちになった。
以前から使っていた端末には、『比売神子』に関する情報――メールや通話履歴――が入っているから、こちらの電話は『神子』関係者以外は、家族とごく親しい友人意外には教えられない。
帰宅して慶一さんの公民館役員会資料も見ると……、こちらは会則もきちんとしている。改正した年も書かれている。運用も、名簿を見る限りはおかしなところも無い。
正直、婦人会の会則を整備したい。人間関係に依らず、公正に運用されるようにしたい。
とは言え、会則の文言、送り仮名の間違いや表記揺れすら修正していないということは、これを修正するにもいろいろと横槍が入るのだろう。
公民館役員は、小中高の父親で構成されている。育成委員は小学生の保護者、体育は小中学生、それ以外の委員と三役は中学生以上の保護者が中心だ。末子が高校を卒業するか、遅くとも五十五歳前後を目処に三役のいずれかを経験してから引退する。
引退後は自動的に町内会役員へ移行することになっている。
対して、婦人会は引退の歳がバラバラだ。子どもが小学生のうちは絶対だが、中学生辺りで抜ける人が出始める。明確なルールが無いので、ガバガバの運用が続いている。
五月末の町内運動会は、小学校の運動会と日程が重なってしまったので、私を含め小学生の保護者は不参加となった。
実際のところ、この行事は年々縮小されている。現在は半日で行われ、昼食のお弁当を貰って解散――役員は後片付け――だ。
慶一さんはなぜか打ち上げにだけ参加していた。私も誘われたけど、子どもたちを連れて行くわけにはいかない。夕食の支度もあるので、不参加だ。
面倒くさくなったのは、敬老会からだった。
当然これも初めてなので、婦人会の集まりに公民館へ。
来ていたのは婦人会長と会計、あとは班長が三分の一ほど。班長の過半と副会長が不在のまま、敬老会の打ち合わせが始まる。
敬老会は、初めにどっかの住職の講話を聞いて、その後昼食、お土産にお菓子を渡して解散という流れになる。
例年、昼食は弁当をオードブルの店で作って貰い、汁物とデザートのゼリーを婦人会で作る。お土産のお菓子は、個包装のクッキーや煎餅など。
今年も例年通りで、という流れで会は進んでいく。
私は手を挙げた。
「汁物はいいとして、ゼリーはどのタイミングで作るんですか?」
「毎年、前日か前々日の夜に公民館で作ってた……、よね?」
婦人会長も、自信無さそうに会計のママに訊く。
コレはヤバい。ゼリーとか寒天なんて、バイ菌の培地じゃないか。よく今まで食中毒が出なかったものだ。
「衛生管理とか、難しくありませんか?
汁物は当日に作るから良しとしても、ゼリーとかは粗熱が取れるまでは放置だし、六月は食中毒がものすごく増える時期です」
「冷蔵庫に入れておくから、大丈夫じゃない?」
大丈夫じゃないだろう。
冷蔵庫は温度を下げることで菌の増殖をちょっぴり遅らせるだけで、鮮度を保つ魔法の箱ではない。まして素人が作るのだ。
「ゼリーや寒天などは、市販の衛生管理がしっかりしたものの方が間違いないと思います。お歳を召した方にお出しするのですし」
当日に加熱しないものは論外だろう。……と思う私は神経質なのだろうか?
最終的に、ゼリーの手作りは止めることになった。
責任問題はもちろん、食中毒が出た場合にどうするとか、町内会行事で事故があった場合の保険はどうなっているのか、あるいはその保険の範囲で衛生管理の不備――十分に想定される――に基づく食中毒がカバーされるのか、この指摘には誰も応えられなかった。
半ば脅しを意図して強めに言ったのはナイショだ。
ゼリー作りが面倒くさいとか、そういうことは少ししかありませんから。
でも、前々日や前日の作業を減らしたのは好評だった。こういうのは一度始めると、変えたり止めたりが難しい。
会長が議事録――その日の議題と議決事項――をまとめ、婦人会のSNSで一斉送信して、その日の会合は終わった。
横槍が入ったのは、二日後だった。




