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ドラテン  作者: 夏目彩生
8/21

08 一夜開けて(1)

 ぶっすーーーー。

 朝からどうにも私は機嫌が悪く、膨れっ面で机に突っ伏していた。


「どしたん? トリィ、なんか変な顔して」


 心配してくれたのか単に好奇心からか、トトは私の顔を覗きこむ。……ていうか変な顔って……。


「トト。どうしたもこうしたも……、別になんでもないわよ」

「本当ー? あの転校生と、何かあったとかじゃないのー? そういや今日転校生くん登校二日目にして休んでたけど、どしたんだろうね? 」

「……」

  

 ……ぐさりとくる。トトってどうして時々変なところで鋭いのかしら――?

 そうなのだ。昨日、あの女性(ひと)が現れて、それから―――


 ──────。

 ────。  


「……ただいまー」

「……遅かったですね」

「ほんとにのー」

「…………」


 ……もうすでにパパと馴染んでる……!!

 私は脱力する。……そうなのだ。あの女性(ひと)──リリカ姫は、よりにもよって私の家に住むことになってしまったのだった。

 ……どうしてこうなってしまったのか、事の次第を話すとつまりは────




 ──────。


(わたくし)を、妻にして下さい――」

「な、なな……」

「え、えっとその……」


 ────その女性(ひと)に手を掴まれ、いきなり逆プロポーズもされ、カルト君は固まりこそしないもののかなり混乱し、言うべき言葉が見つからない様子だった。

 ……それはそうだろう、私も先程から続いているあまりにもな出来事に、同じく大混乱の真っ只中にいた。


「…………はっ! 」


 けれども私の方が先に我に帰る。……冷静になったところで意味のわからない状況(こと)にはかわりはないけれど、……とにかく!こんなの私だって黙ってはいられないわ!

 私はすくっと立ち上がって彼女を見上げた。


「ちょっ、ちょっと……私達を助けて下さったのはお礼を言いますけれど……、貴方は誰なんです? それに……」

「…………」


 ジッ……とこちらを見つめる女性。

 その目は、興味が無いものを見つめるようにも睨んでいるようにも見えた。……それでもそこまで不快に感じないのは、彼女があまりにも美しいからだろうか。


「………………」


 女性は私を見つめたまま……。

 ──ギュ……。

 ぎゅーっとカルト君に抱きついたのだった。


「わわっ! 」

「なっ……! 」

「お黙りなさい。先ほど危うく、カルト様を見殺しにするところだったくせに……。貴方は、カルト様に相応しくありません」


 話終わるやいなや、女性はより強くカルト君を抱きしめる。


「む、むむ……」


 た、確かにそれはそうなんだけど……。けど、だからってそんな……!


「だっ、だけど────」 

「ごめん、腕、ちょっと良いかな? 」


 私が言い返えそうと声を上げようとする前に、カルト君が女性を制止する。

 その声色は少し怒っている風にも聞こえた。


「…………あ……」


 女性は急にしおらしくなり、腕をほどく。

 カルト君はいつもよりかは少しだけ冷たい表情をし、


「助けてくれたのは有難う……。けど、君は誰でどこから来たんだい? 」


 と聞いた。


「…………」


 女性は一時黙りこみ、困ったような、悲しそうな顔をする。


「……私のことは覚えていて下さいませんか……。えぇ、そうでしょうとも、仕方がありません」

「う……」

 

 カルト君は女性の様子に困ってしまったみたいだ。

 ……女性は気を取り直したかのようにふっと息をはいた。


「私の名はリリカ。リリカ・ガーディナです。今は、それ以上のことは……」


 そう言って両手でスカートをかるくつまみ、女性……リリカさんは会釈する。

 その姿は凛としていて、変な話上品っていうのはこういう女性(ひと)に使う言葉なのだろうな……と思った。


「…………はぁ」


 カルト君はまた少し混乱しているようだった。


「リリカ・ガーディナねぇ……、とうの昔に亡くなったって話だけど……」


 そしてなにやらブツブツと独り言を言い、どうやらそのままカルト君は自分の世界に入ってしまったようで、――それは暫くの間つづいた。


 ────。


 ……で、唐突にカルト君は言った。


「えー、君は今、住むところは有るの? 」

「へ? 」

「はぁ……」

 

 私とリリカさんはほぼ同時にに声をあげた。

 リリカさんは暫く考えこんだ後──


「今日はここで寝ようと思っています」


 ──と、言った。


「え……! 」

 

 カルト君は驚いている。かくいう私もだ。……あんな、さびしい場所で布団も無い、加えてさっき明かりも壊れてしまったこの部屋で寝泊まり出来るとは到底思えない。


「それは不味いよ! 僕ならともかく女の子がこんな所で一人なんて……! 」

「まぁ……」


 リリカさんはうっとりしてカルト君を見つめた。……ほんのちょっとだけ、イラつく。


「…………」


 リリカさんは暫く考えこみ──っと、どうもこの人は何か話をする前に考えこむ癖があるみたい。表情もよく観察しないと読み取れないし、全体的に掴み所がない。

 私はかつて女性のようなタイプの人とは、出会った事がないなと思った。


「──では、カルト様のお宅へお邪魔しても宜しいですか? 」

「……へ? 」

「な、なななな……!! 」


 ……しかも、言うこと言うことがいちいち爆弾発言ときているのだから、始末に終えない。

 


「だめよっ! ダメダメダメーー!! そんなの、ダメに決まってるわー!! カルト君だって────」

「…………」


 ……カルト君にはあまりにも刺激の強い一言だったのだろう。今度こそ直立不動で、固まってしまっていた。……もうっ!!


「あら、ダメですか? 」

「だめに決まってるじゃない!! 常識で考えなさいよ、貴方! 」

「…………」


 挑発的な目をしてこちらを見据えてくる。……けど、どうあったってそんなの認めないわ!!

 私も負けじとジト目で対抗する。


「…………うーん、ですが困りましたわ。それじゃあ私は今日どこへ寝たら良いのでしょう? 」

「うっ……」


 た、確かに……。さすがに「貴方、やっぱりここで寝泊まりしなさい!」とも言えないし……。だけとここで引き下がるなんてそれこそもっての他だし……。

 ……うーんと、えーと…………。

 ────。


「……じゃあ、私の家に泊まりなさい……」


 ……そして気が付くと、私はそんな事を言っていた。


「……あれ……? 」


 言ってからずいぶん大胆な提案をしてしまったことに気が付く。

 というか、墓穴掘っちゃったみたいな……。


「そうですか。では暫くの間、泊めて下さい」

「えっ、ちょ、ちょっ……」


 ──暫くって……、今日だけじゃないの?


「そうか、まぁそれが良いだろうね」

「──! 」


 いつの間にか平常に戻っているカルト君にもそう言われてしまう。

 ……うぅ。自分から言ってしまった手前、もう引き返せないか……。


「……わかった。パパには上手く言っとくし、ちょっとの間くらいなら泊まっても問題ないわ……」



 ──そしてそれからカルト君と別れ、私はリリカさんを連れて我が家に帰っていって……、……と、まぁそんな事の次第なわけです……。

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