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ドラテン  作者: 夏目彩生
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07 告白(2)

 ……カルト君がまた会いに来てくれた。

 私との約束を守ってくれた……。

 私は……、私は……──


「────」


 ──────嬉しい!!




「……あっ、あのっ。……トリィちゃん? 」

「はっ……! 」


 いけないっ、つい小さな時みたいに平気で抱きついてしまった。

 いけない、いけないけど、でも……。

 ギューー。


「う、うわ……」


 ……離したくないと思ってしまう。

 ずっと離れていたぶん、いっぱいに彼を感じていたいって……そう思ったのだ。


「………………」

「……………」


 次第にカルト君は私の目をじっと覗きこみ……。そして彼も背中に両腕をまわし、……力をこめた。


「トリィちゃん……」

「…………カルト、君」


 ……こう言う時、女っていうのはやけに現実的だなって思う。

 ……だってこんな時だっていうのに、明日の朝帰ったらパパへの言い訳はどうしよう、なんて考えちゃうんだから……。


 ──カルト君が優しく私の頬を撫でる。私はそっと目を閉じた。

 そして……そして私達は口づけを――……。


 ────。


  ────バッキューン!! 


「──えっ? 」

「危ない!! 」


 ──寸前、突然暴力的な音がした。──まるで、さっき私が撃たれた時と同じ音が……。

 そしてすぐもうひとつ、ガラスが弾けたような音がして――おそらくは照明が割られたのだろう、部屋が真っ暗になった。


「カルト……君? 」


 ……次第に私は冷静になり、状況がつかめてくる。

 さっきのは銃を撃つ音で、今撃たれたのは……。

 ……私を庇って、撃たれたのは…………!!



「……カルト君!! 」

「くっ……!! 」


 ──撃たれた衝撃でカルト君は壁際まで飛ばされようとしていた。

 けれど、カルト君は飛ばされながらも宙でクルリと回転し、バランスを保って着地をする。――しかも床ではなく壁の上に。

 へたな曲芸よりも無茶苦茶な彼の動きに、私はただ呆然と見上げていた。


「……っ」


 「シュ――」と、おそらくは矢か短剣を投げるカルト君。……動きが速すぎて、私には良く見えない。

 見えないほど、速かったけれど────、


「……だめだよ……」


 ──こんなの不味い、と云うこと位は私にもわかった。だって、彼はたった今撃たれたはずなのだ。こんなに激しく動いて良いはずは、ないのに……。

 私の顔はサッと青ざめ、手足もガクガクとみっともなく振るえだしていた。



「ちっ、仕留め損ねた!! ……くそっ! そもそもこんな所まで来るなんてっ……、完全に油断だ!! 」


 カルト君は今度こそ床に着地し、悔しそうに窓の方を見つめた。

 私は蹴躓(けつまづ)きながら彼に駆け寄っていく。


「カルト君!! 怪我は……? 怪我は、大丈夫? …………ああ!!」



 ────それは怪我なんてものではなく、最早穴と言って差し支えないものが(そこ)にはできていた。血も、映画やドラマで見た時のように、現実的に感じられないほど溢れている。


「…………コボ……」


 カルト君は膝を付き、……吐血をした。


「嘘!! カルト君っ!! 待って、待ってて!! 今、病院にっ!! ……病院に……」

「……」


 …………………。

 そうは言っても、これは今から連れて行ったところで間に合うようなものでは無い。おまけに羽根がこんなのでは今は彼を運んで飛ぶことすら出来やしない。

 ……どうして私は魔法が使えないんだろう。その事をおそらく今人生の中で一番、悔しく思った。

 

「……ごめんね、カルト君。私を庇ったせいで……」


 せめてハンカチを押し当てて止血をする。

 視界が歪んで……。

 涙が……、止まらない。


「…………」


 カルト君は私の腕をそっと握った。


「良いんだよ、トリィちゃん。今僕がこうなったのは僕のミスのせいだ。君は悪くない。……まだ奴が近くにいるだろうから、はやく逃げるんだ……! 」

「そんなっ!カルト君、今はしゃべっちゃだめよっ!! 」


 私は涙声で格好悪く叫ぶ。


「大丈夫だよ……、僕は簡単には死なないから。はやく行くんだ。 それに、もし万が一の事があっても、子供の時この仕事を選んだ時から……心のどこかで覚悟はしているんだ……」

「カルト君のバカ!! 」


 カルト君はもう諦め、受け入れてしまっている。

 だけど私は、そんなに物わかりなんてよくない……! 絶対にここから離れたりなんかしないし、そんなの許せない!!

 …………せっかく再会して、告白されて……それでいきなり死んじゃうなんて、そんなの……嫌……。


「……」

「え……?」


 ふとカルト君の目が閉じる。彼の顔色はみるみるうちに土気色になっていった。


「…………うそ……」


 ──────。

 ──心臓が、やけにドクドクいって……。

 ──そのまま失神してしまいそう……。

 薄れる意識と自我の中、ただこれだけは思った。

 ──カルト君を助けたいって──


「い……」

「いやぁーーーー!!!! 」



 ──叫ぶと同時に、何かが光った。

 これ……は……?

 ────。



「リ……リカ……?」

 

 カルト君が呟く。

 光はやがて弱くなっていき、彼女の姿がはっきりと浮かび上がる。光が無くなる頃にはカルト君の傷はすっかりと治っていた。


「…………」

「…………」

 

 ────リリカ姫、約千年前の姫さまで、歴史上のなかで最も美しいとされた女性。しかも女性には天使の羽根が生えていて……、これではまるで……、けど……。

 同性だというのに見とれてしまう。今まで生きてきて、現実でこんなに綺麗な人見たことない。そう思った。


「…………」


 女性はツカツカと近づいてくる。……不思議、この人の事なにもわからないのに、何故だかほっとする。……まるで自分の一部が現れたみたいな……。

 私は自然と笑顔になっていく。

 女性はツカツカと私……を通り過ぎていき……?

 カ……ルト君のところまで……?


 女性はカルト君の手をふわっと掴んだ。カルト君は驚き、声をあげる。


「わわっ!! 」

「……」

「あ、あの……?」

「……愛しています」

「「へ? 」」


 声が、私とカルト君できれいにハモる。


「────(わたくし)を……、妻にして下さい」

「は……」

「な、なな……!?」


 私はもう、本格的に──何が何だかわからなくなっていた。


ようやく主要キャラが出揃いました。

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