05 再開(3)
「………………」
「………………」
取り合えず挨拶はしたものの、嬉しいやら照れ臭いやら何だか色々な感情が混ざってしまって、私はどうにも次の言葉が浮かばないでいた。
時間がたつにつれて照れ臭い気持ちの方が勝っていき、モジモジしてしまう。
すると──
「……あのっ、トリィちゃん!! 」
と、カルト君が意を決したように声をあげた。
「うんっ……」
「…………っ」
けれどまた直ぐに黙ってしまう。直立不動、めちゃくちゃ無表情で。
ははぁ……、さてはカルト君上がってしまってるなぁ。うん。
だんだんと思い出してきたけれど、カルト君は意外と緊張しぃで極度に緊張すると、ああして却って無表情になってしまうのだ。固まってしまうとも言える。
――何だかそれが妙に懐かしくて可笑しくて……。
「ふっ……」
私は少しだけ笑ってしまった。
「──ねぇ、せっかくここに来たんだから、あの場所に行かない? 図書館の、頂上のところ」
昔からカルト君がこうなると、いつも私が何かに誘ったり話題を変えたりしていた。……そうしないとカルト君は結構、いつまでも黙り混んでしまったりしたから。
「えっ……! あぁ、うん」
カルト君は一瞬ハッと驚いたような顔をしたけれど、直ぐにこちらを見て頷いてくれた。
────その場所は、塔の最上階。立ち入り禁止ゾーン内にある隠し通路からでしか入れない所。私達はその部屋を頂上と呼んでいて、秘密基地のようにして遊んでいたっけ。
そこには、私が小さい頃に描いた絵が飾って置いてある。
「一応、ここは電気を付けても外からはわからないようになってるから」
「あ、うん。覚えてるよ」
「…………」
……覚えてる、か……。
カルト君は上を見上げながらぐるりと円転する。
「……昔っからプロ級の絵だったよね、トリィちゃんは」
「……ふふ、有難う。今でも美術部で頑張ってるのよ」
「あ、これとこれは新しく描いたやつだね」
「うん、他にも沢山あるんだけど……今は学校においてあるの」
「そっか……。うん、凄いや……」
言いながらカルト君は、部屋の中の一番大きな絵の方に向かって歩いていった。
「僕はこの絵が一番好きだったな」
「あぁ、これ……。古代ガーディナ国の……」
この絵は千年ほど昔の時代の、いわゆる歴史画で、その当時の偉人達の中でも特に有名なのをピックアップして描いたものだ。
────絵の中には四人。
──左端にあるのはカルト君と同じ獣使い。色々なモンスターを使い、特に戦争で活躍したらしい。彼の周りには、今ではもう絶滅して存在していないモンスター達をちりばめて10体ほど描いてある。
──右端には、盲目の大魔道師。右から二番目には私と同じでモンスターのハーフだったという逸話(本当かは不明みたいだけど……)があるけれども、私と違って魔法が達者だったらしい大魔道師。どちらも王室に遣えていた。
──そして真ん中に大きく在るのが、古代ガーディナ国の姫様、「リリカ姫」だ。
絹のような漆黒の黒髪をもち、女神や天使の様に美しかったとされる。
そんな逸話を幼い頃の私は素敵に思い、彼女にだけは歴史と異なるアレンジを加えた。――背中に白く大きな翼を生やして彼女を描いたのだ──。
────。
「こんな綺麗な絵、生まれて初めて見たって思ったんだ……。それにこの絵はまるで、生きてるみたいだ……」
「そんな、誉めすぎだよ……」
……………………。
彼と話しているうちに、私はどんどんと細かい思い出がよみがえってきていた。
……カルト君はおだてでも何でもなく、本当に素直に人誉める事が出来る人だった。
当時の私は彼のそういうところに何度も救われ、好きで、きっとそんな彼こそが一番凄いんじゃないかと思っていた。
そして、彼と話すほど、昔の記憶を思い出していくうちに、私は────