34特訓、リリカ(2)
「というわけで私に料理を教えてくださいっ」
カルト君がどこかへ出かけた途端、リリカがそう頼み込んできた。
どうやらカルト君がいない間に特訓して驚かせたいようである。
変なところで子供っぽいところがあるわよねリリカは。
まあリリカに言わせたら好きな人を少しでも喜びに驚かせたいと思うのは女性として当然の考え方よ!なんて言いそうだが……。
「いいよ」
「よかった。ありがとう。トリー」
私は2つ返事でOKする。魔法の時の恩もあるし実は昔トトに料理を教えていた経験があり、教え方にはちょっとばかり自信があるのだ。
「じゃあ今日はとりあえずカレーにしようか。ちょうど材料も揃ってるし」
それに初めて作る料理はカレーと相場が決まっている。
「えぇ!」
やる気満々だ。よしよし、こちらもやりがいがある。
「ところでカレーって何なの?」
ピーラーの使い方を教えているとリリカがそんなことを言ってくるものだから、私はこけそうになってしまった。
「知らないの?カレー……」
「え、えぇ……」
リリカは若干オロオロしながらも断言する。
「だって今まで作るどころか私は食べることすらできなかったんですよ、仕方ないでしょう」
しどろもどろで反論してくるリリカだったが確かにリリカの言い分は最もだった。
この場合私の方は無神経だったかもしれない。
「そうね。よし、じゃまずは道具と材料から……と思ったけどカレーに説明からね」
これは少し骨が折れるわと私は腹をくくって1から説明することにした。
「わぁ……」
リリカは感嘆の声をあげる。リリカに見せたのは写真付きの料理本だ。
「あなたやトトの家の料理を見て、世の中っていうものはいろんな食べ物があるのだなと思っていましたが、本当にすごいですね」
「国によっていろんな食文化っていうものがあるのよ。最近はよその国同士も情報が共有できるようにもなってきてるしね」
「このカレーというもの、何か粉を炒めて黒くドロドロとさせないといけないようですわね。なんだかとても工程が多いですわ」
「あーこれはね、少し昔の本なのとこだわりを持ってる人向けの本でもあるから、実際はここの工程は省いていいの。今はカレールゥっていうものが売っていて、それを溶かすだけでいいから作り方についてはそんなにしっかり読まなくても大丈夫よ」
「ふーん……」
ついにリリカは黙り込んで本を集中して読みふけってしまった。短めの本だから良かったけれど、リリカってこんなに読書が好きだったなんて……、
意外でもないけれど。
「ありがとうございます」
リリカはパタンと本を閉じた。
「これから料理を教えてもらうというのに、読書に時間をかけてしまって申し訳なかったですわ。あの塔の図書館の中にはこのような本なかったから少し興奮してしまいました」
リリカがわずかに頭を下げた。
「確かにあそこの塔は、歴史書と魔法の本ばか──え?ちょっと待って、
リリカって図書館の本読んでたの?」
あまりにもさらっと衝撃の事実を言うものだから、もう私の目はカラコンが取れそうなほどまん丸だ。
「ええ確かにあの頃は体がありませんでしたが図書の本の中では思念を使えば読めるものもありました。逆に魔法の本なんかは普通に読むのではなく、思念じゃないと読めないようなものもあったと思いますわ。……トリーは気づいていませんでしたね。というかずっと絵ばかり描いていたから」
「そうね、たしかにあの塔に住んでいる割に、そんなに私は読書はしてなかったかもね」
読んでいる本といえばもっぱら絵の資料になりそうな歴史書ばかりだったっけ……?
なるほど。あそこの塔のてっぺんて一般人が立ち入ってはいけないほどまずい本が置いてあったというのに、特に私は何も言われていなかったのはそもそも読めないと判断されていたからだったのね。思念じゃないと読めない本なのかぁ。
つまりそういう禁書をリリカは読みまくっていたということになるのだけれど……私は深く考えるのはやめた。
*
「ねぇ……」
「ん?何ですの?」
改めてした一通りの説明も終わり、リリカには人参、私はジャガイモの皮をむいていたとき……ふいに私は、リリカにとあることを相談したくなった。
「最近、昔の夢を見るんだ……」




