33特訓、リリカ(1)
しばらくは平和な日常のお話が続きます。
あれから3日ほど経ったが、意外にというかやはりというか、めちゃくちゃ平和である。
まるでこの前のことが夢だったんじゃないかと思えるくらいだ。
もしかしたら絵のモンスターって大人しい子もたくさんいるのかも……?
よくよく考えれば何しろあのモンスターたちのもとは私なのである。
みんながみんな攻撃的だとはとても思えない。
話せば分かってくれる子もいるんじゃないかな……?
「それはありえないよ」
けれどもそんな私の考えは、カルト君にピシャッと否定されてしまった。
「あら、どうして?」
「……うーん。説明は難しいけど、何かこの村に邪悪な気配を感じるんだ。前に倒した雑魚もかなりのものだったし」
邪悪な気配なんてずいぶんとファンタジーみたいな話だなと思う。
「それと俺とトリーちゃん撃ったやつも、おそらく絵のモンスターだろうし……」
「そういえば……そうね……」
もうカルト君もすっかり元気だし、私も傷がふさがっていたせいか忘れていた。そうだ。奴らは間違いなく、私やカルト君たちを狙ってるんだ。
私ってば平和ボケしすぎてたみたい。反省しなくては。
「ごめんね。のんきなこと言っちゃって」
「いいよ。そういうところもトリーちゃんのいいところだと思うし」
「……それってどういう意味?」
「すれてないって言うか……」
「あんまり嬉しくないなー」
言い方を変えれば単に世間知らずってことじゃないかなと感じるからだ。
「あ、でもそれ以外にも一緒に住んでてさ、トリーちゃんのいいところたくさん見つけたと思う」
私を怒らせたと思ったのかカルト君が慌てて言葉をまくし立てる。実際には全然怒ってなかったけど。
「……例えば?」
そんなカルト君の様子に面白くなって私はちょっと背伸びして、上から目線で聞いてみたりする。さしずめ気分は姉さん女房だ。
「すごくお父さん想いだし……リリカに対しても、面倒見が良くて……あとすごく家庭的でびっくりした。それと……」
「それと?」
「髪の毛を下ろすとすごく大人っぽくなるなって。き、綺麗だと思ったよ」
「……っ」
お風呂上がりのことを言っているんだろうか?カルト君は……。こっちはそんなこと意識してなかったので不意打ちだ。
私は自分からグイグイ聞いたくせに言葉に詰まる。
「あ、ありがとう」
「うっうん」
お互い赤面してしまった。恥ずかしいけど不思議と気まずいとか……居づらいって思わないのよね、こういう時。
しかし心地いい空間は長くは続かず、ガラガラとガラス戸を開ける音とともにライバルのピリピリとした声が聞こえた。
「私も──」
「え?」「きゃ」
「──私も頑張りますわ」
「そっかリリカもいたんだっけ……」
そうだったそうだった。今日は休日でパパはお昼寝。それでもってリリカに聞かれてはまずい話だったから、30分ほど前にカルト君をベランダに呼び出していたんだった。
けどリリカとしてはそんなに長時間私たちを2人きりにしたくはないから、途中から様子を伺っていたわけね。
私は状況を整理するとともに、自分の迂闊さを呪った。まずいなぁリリカ、どこまで話を聞いていたのかしら。
「いたんだっけ?とは失礼ですわね」
リリカは眉間にシワを寄せてプンプンとでも擬音が聞こえてきそうだった。
最近表情が豊かになったなぁリリカ。
よく見ると学校に通うようになってからというもの、基本的にまとめるようになっていた髪を下ろしている。
なんて分かりやすいのかしら、リリカ……。
この様子じゃ絵のモンスターについての話までは聞かれてないわね、と少し安心する。
「カルト様はその……やっぱり家庭的な女性がお好きなんですね?私も頑張りますわ」
「えっ、いや、そんな……」
カルト君は両手を横にブンブンと振りながら否定するがリリカには見えなかったようだ。
燃えてるな、リリカ……。




