32同居開始
「ギャーッ獣遣いじゃあ!ハンターじゃー!!トリーちゃんワシを狩る気かぁー!?」
「パパ、落ち着いて……」
カルト君を連れて家に一歩入った途端、パパはパニックに陥って部屋中跳ね回った。やっぱりというか案の定というか……。
ちなみにパパみたいな純粋なモンスターというのは、ハンターの匂いを嗅ぎ分けるものなのだそうだ。
「こんにちは、初めまして。カルトと申します」
カルト君はやや緊張した面持ちでパパに頭を下げた。
「出て行けぇ!!塩撒いちゃるぞ!!」
クワッと一喝して台所に向かって走って行くパパ。どうも本当に塩を探しているみたいね……。
「お……おじ様……?」
パパが怒っている姿は初めて見たリリカはオロオロしっぱなしだ
「はぁ……」
私は頭を抱えてため息をついた。そりゃあ、そうよね……。
自分の娘が獣遣いと付き合うなんて、モンスターのパパからすればとんでもない話なんだろう。
私ももう少し早くにパパに説明して、ワンクッション置いておけばよかったなぁ。
「ごめんねカルト君。リリカも、びっくりさせてごめんね」
私は頭を抱えながら台所へ向かう。
「一体何者なんじゃぁ!こやつはぁ」
「はぁ。ごめんねパパ」
そして怒り狂うパパをなだめながら、私は事情を説明することにしたのだった。
もちろん説明すると言っても全てのことを話せるわけはなくて。
やっぱりリリカが絵から生まれた存在だっていうこととか、その絵から悪いやつも現れて、狙われてるかもしれないってことは省いてだから、どうしても少しの嘘を混えざるを得なかった。
具体的にはリリカはカルト君の旅の途中に好きになって、追っかけてこの村まで来たっていう設定にさせてもらった。
「……というわけなの。だからあの日カルトくんや私を狙っている拳銃を持った何者かがいて、それのボディーガードをするために家に泊まろうとしてくれてるってわけ」
「ふむ……」
パパは神妙な顔立ちになって……。
──暴れた。
「貴様ぁ!!ハンターのくせにトリーちゃんがそんなに小さな時かから唾つけておったのか!?しかもリリカちゃんまでっ……許せん!マジで塩撒いちゃる!!」
「わ!よしてください。おとうさん……あっ」
「貴様にお父さんと言われる筋合いはないわー!!」
「パパッ」
「お、おじ様……っ」
パパはもう取り付く島もなく、お部屋中塩まみれになってしまった。
けれども敵に狙われているかもしれないという事実はパパにも見過ごせなかったようだ。
パパは各所に電話してから、塩まみれのカルト君に向かってピシッと指さし。
パパと同じ部屋で寝泊まりするという約束で承諾してくれた。
「何よぅ。何もパパと同じ部屋じゃなくたっていいじゃない。一応この家他にも部屋あるんだから」
「バカ言っちゃいけないぞトリーちゃん。この家でワシがあいつから目を離すわけにはいかないんじゃ!わしの目の黒いうちにはトリーちゃんにもリリカちゃんにも変なことはさせないからな!」
「別々のお部屋ですか……」
リリカはなぜかカルト君と同じ部屋で泊まれると思っていたらしい。すっかり落胆してため息をついていた。
カルトくんとしてはお父さんの監視が入って予定より動きづらくなったことが気になるのか、先程からブツブツと自分の世界に入って独り言を言っている。
「なんじゃわしを悪者みたいにっ。当然のことを言ってるだけだもん!」
パパはうろたえたように反論する。
「いや、わかってるんだけどねパパ」
「おじ様の言うことですもの……」
「はい。泊めていただけて大変ありがたいと思っています」
私たち3人は、改めてパパに頭を下げた。
なんとなくその場の空気を仕切り直したくて、私は3人に紅茶を入れた。その紅茶を飲みながら、リリカはこんなことを言った。
「ともあれカルト様と同じ屋根の下で暮らせるなんて夢のようですわ」
リリカがうっとりしたようにカルト君を見つめる。
「そうよね、うん。確かにそれだけでも嬉しい……」
確かに。小さい頃を考えると夢のようだ。あの頃あの夜の時間意外でカルト君といられるなんて、想像もできなかったから。
「トリーちゃん……リリカ……」
カルト君は耳まで真っ赤になってうつむいていた。
「こらっ2人とも!こやつに抱きつくのはやめなさい!!リリカちゃんはともかく、トリーちゃんパパの前で恥ずかしくないんか!」
「パパは黙っててよ」
「すみません、おじさま……」
「うう……こいつめーまた塩まいちゃるーー!!」
「ふふふ……」
思わず笑みがこぼれてしまう。
カルト君たちと一緒なら、きっと全てがうまくいく。
「クスクス……」
それはリリカも同感だったようで
「おじ様、カルト様と仲良くしてくださいますね。平和に行きましょう。平和に──」
そう言って微笑んだ。
その笑顔は本当に朗らかで、まるでしばらくの平和な時が続くことを暗示しているかのように。




