29ライバル、言い争い
握手をした直後、トトは急にお酒が回ったのか、失神するように、ばたりと床に伏せて寝てしまった。
私は取り合えず廊下に待機しているメイドさんに声をかけ、布団を持ってきてもらうようお願いする。
「全くもう……」
「私、もう少しトトさんとお話ししたかった気がするわ」
リリカは残念そうにトトと握手した手を胸に当てた。
「リリカ……」
そうよね。きっとリリカとしてはさっき握手をした直後こそ心を許した瞬間だったのだ。そこから一言も会話を交えずこうなっては、それは残念よね。
「本当、握手した途端眠ってしまったからね……。けれど明日から学校も行けるようになったし、お話できる機会はいくらでもあるわよ」
私としてはリリカがトトともっと話したいぐらい好印象に思ってくれたのは、とても嬉しいことだ。つい顔がほころんでしまうくらいには。
最初から心配はしてなかったけどね。
──。
しかしリリカは私の言葉に返事をせず、しばらく黙っていた。
こんなに黙り込むだなんて、さぞ明日の学校のことを心配でもしているのかと思ったら──
「明日からが本当の勝負なんですね」
「……っ」
リリカは正面から私を見据え、私は一歩退く。
……まさかこのタイミングで宣戦布告されるとは思わなかった。
「……そうね」
けど、まさにリリカの言う通りだと思った。
だってあそこの学校に通うのはトトだけではなくカルト君もなのだから。
正直に言うとリリカは私にとって、今は友達だと思える。
それは彼女は知り合って間もないし、何もかもが不思議だけれど。そういうのは多分、理屈じゃないから。
けどやっぱりリリカは友達であっても、あってたとしても、一番は恋敵。
恋敵、なのだ。
「けど……」
けど、とやっぱり私は思う。
「リリカがカルト君のことを大好きで、勝負すると言うのなら、私はライバルとして受けて立つわ。
だって私だってカルト君を思う気持ちは負けてないもの!
だけど……
──あなたはどうしてそこまで邪魔をするの? さっきだって──」
トトから貰った風船で邪魔をされてしまった。
あんなやり方……。
「あなたがカルト君ににアタックするぶんには勝負だと言えるけど、あんな邪魔の仕方がひどいよ、卑怯だわ! 」
そう、私はリリカの戦い方が出し抜くようなやり方で、そのフェアじゃなさがどうにも見過ごせなかったのだ。
それはリリカに友情を感じているからこそ、そんな風にされるのが辛かったからなのかもしれないし。
それともリリカみたいな綺麗な子にそんなやり方をされたら、もしかしたら本当にカルト君を取られてしまうかもしれない、なんて不安になってしまってるからなのか……。
自分でも、よくわからないけれど。とにかく私は思わず声を荒げてしまうくらいに、止まらなかった。
「あなたはカルト様とはふさわしくありませんもの」
「なっ──」
だけどもそれ以上のカウンター。リリカにピシャリと言われてしまう。
普段の私ならきっと怖じけずいてしまうところだけれど──。
「そんなことないわ、私は小さい頃からカルト君のこと好きだったもの。……だから今こうして……」
「私だってずっとお慕いしていました」
「……けどその時あなたは絵だったじゃない! 助けられたと言っても、カルト君からしたら私の絵を拾っただけにすぎないのよ!」
だけども今日の私はそうはならずに、生まれて初めてかもしれないぐらいに私は頭に血が上って。
そして。絶対に言ってはいけないと思うことさえ口に出てしまった。
リリカが私を睨んだ。
「……けれど待ってました」
「リリカ……? 」
「私はずっと待ってました。カルト様が旅立ってからの十数年間、何もできないとわかっていても片時も諦めようとなんてしませんでした。
あなたは忘れていたじゃないですか。
──私はあの日、カルト様が戻ってきたことよりも、それが驚きでなりませんでした」
「……っ」
「……あなたは想いが足りない。あなたはカルト様にふさわしくありませんわ」
「……」
……言い返す言葉なんて、あるはずなかった。
それは本当のことだったし、──何よりその時のリリカの顔が、今まで見た何よりも悲しいものだったから。
「ふさわしくありませんわ……」
リリカは自分にも言い聞かせるように、もう一度呟いた。




