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ドラテン  作者: 夏目彩生
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27帰り道のドタバタ

 最後のたちの悪い冗談はさておき、おばあちゃんは「出来うる限りの事はしよう」と約束してくれた。村の警備の人を増やしてくれるらしいので、だいぶカルト君の負担も減っていくのではないだろうか。


 良かった! 意外と協力的でいてくれて……。でも……。


「……やっぱり緊張したなぁ」


 帰路の終わりに差し掛かり、私は「う~ん」とおもいっきり伸びをする。緊張の糸がプツンと切れてしまった。

 

「はは、お疲れ様」


 カルト君はいつもの笑顔で元気付けてくれる。


「でも僕はあのおばあさんは嫌いじゃなかった……。なんだかあの毒のある話しかたとか、少し親父に似てる気がする」


「おやじ? ……って、カルト君のお父さんよね? 」



 カルト君が「親父」なんて呼び方をしてたのが意外で、私は思わず当たり前の事を聞いてしまう。 

 カルト君は「あ! 」と口をつぐんだ。


「……やっぱり子供の頃と違って、年相応に言葉遣いが荒くなっちゃっててさ。何となくトリィちゃんの前だと昔のしゃべり方に戻していたんだけど……もし嫌だったら気を付けるよ」


「……! そうだったんだ……! うぅん、そんなのは全然嫌じゃないから気を使わないで欲しいな……。だから今のカルト君の口調で話しかけてくれたら嬉しいよ……」


「そう、か。そう言ってくれるのなら、有難いのだけれど……」


 カルト君はばつが悪そうに頭をポリポリ掻いている。

 私はというと、まさか話し方まで気にして変えていたとは思ってなかったので、ちょっとびっくりした。

 確かに昔から年のわりに細かく気を使う人ではあったけれど……。


 

 ……。ふと、口調のことはもとより、考えてみれば私ってカルト君の事何にも知らないんだな……と思った。

 会っていない期間も相当あるし、お父さんの事だって話には聞いていても、顔すら知らないし……。


「……」


「……トリィちゃん?」


 突然私が黙りこんだものだから、カルト君が不思議そうに首を傾げた。


 私はすっと立ち止まってカルト君を見つめた。そして半ば思いつきの願望を、口にする。


「会ってみたいな……。カルト君のお父さんに」


「──えっ! 」


 私の言葉にカルト君は、何故か驚いた声をあげた。

 良く聞こえなかった様なので、私はもう一度同じことを口にする。


「お母さんは確か亡くなっていらっしゃるのよね……。……お父さん、会ってみたいな……」


「…………っ。えっと、まぁ親父は確かに生きてるけどっ……。……そのー──」


 カルト君はしどろもどろになりながら、みるみる顔が赤くなっていく。


「──! 」


 それで私も、自分で言った事の大胆さというか、恥ずかしさにようやく気がついた。


「えっと、いやその深い意味じゃなくてもっとフランクな……。いや、お父さんに私を紹介して欲しい気持ちも、無いわけじゃないけどっ……。そう! 結婚の挨拶とかそう言う意図では無かったの! や、でもその……」


 慌てて言い訳をするものの、何だかますます墓穴を掘り、恥ずかしいことを言ってしまっている気がする。


「……ごめんなさい」


 結局、羞恥に耐えられなくなり私は謝って俯いてしまった。


「──っいや……! 」


 それを私が落ち込んだんだと誤解したらしく、カルト君は慌てたように口を開く。


「いやっ僕は全然かまわないよ! ……ただうちの親父は風来坊なところがあるから、ちょっと難しいかなって思っただけでっ……」


「──そうなの? 」


「そう! 」


「そう…………」


 ……うちのパパも大概変わり者だと思っていたけど、カルト君のお父さんも相当なものなのね。


「……全部終わったらさ、連れて来るよ」


「……全部? 」


「──うん。僕たちを狙う敵を全部やっつけて。そしたら親父を探してここに連れてくる。どうせうちの親父は派手なことしかしないから、どこにいるか噂でわかるし直ぐだよ」


「……」


 ……それはとても大変なことのような気がするけども、カルト君はまるで町へおつかいにでも行くみたいに、簡単に言ってのける。


「そっか、……そうだよね。全部、終わったら……。うん、何とかなるよね」


 だから私も俯いていた顔を上げ、精一杯の笑顔で彼に答えた。


 ────。

 ……で、その、──あまりにも彼のさっきの言葉が力強かったものだから、私はこんな時だというのにどんどん幸せな気持ちで一杯になっていき、……なんだか、気分がとても高揚しているのが自分でもわかって……。




 ……私はその気分が興じるままに、彼にあるお願いを言ってみようと思った。


「ねえ……、カルト君……」


「ん? 何、トリィちゃん? 」


「………………。──キスして、欲しいな……」


 それはあの夜、私達の関係をより確かなものにするための誓いとなるはずだった。けど、結局未遂で終わってしまったもの。

 今度こそ、私は自分が大胆で恥ずかしいことを言ってるってわかってる。わかってるけど、それでも勇気を出したいと思ったのだ。


 私は頬を紅潮させながら彼を上目遣いで見つめる。


「──へ……? 」


 それは余りに予想外の言葉だったのか、カルト君は一瞬固まってしまったかのように見えた。

 が、やがて──


「……うん! 」


 と言って、私の肩をがっと掴む。


「…………っ」


 私は目をギュッと閉じる。


 そして、そして私達は……。




 ────!


「──きゃ! 」

「──うわぁ!! 」


 突然の「パーン! 」という大きな破裂音に、お互いのけ反って飛び上がったのだった……。


「敵かっ……?」


「ちょ、ちょっと! 今のは何……? 」


「何、はこちらのセリフです」


「──えっ……? 」


 声のする方向に目をむける。

 すると私達の五メートル程手前のところで、どうしてだかリリカが大きな風船を大量に持って立っていた。今の破裂音は風船を割る音ね!


 ……何で?


 理解の範疇外だったようで、カルト君は目を点にして、別の意味で固まってしまう。

 ……しかし私はと言うと悲しいかな、リリカのはちゃめちゃぶりにはすっかり耐性が出来てしまっていたのだった。


「リリカ……! 」


「やはり気になったので付いてきてしまいましたわ、トリィ……」


 リリカはあからさまにム~っとした顔をしている。


「な、何よ……」


「……ふぅ」


 ……こっちは先にやられた方だというのに大変不服だが、リリカはこれまたあからさまに大きなため息をつく。


「いつ敵がいるかもわからないなか、そう呑気なことをしていて良いんですの? 」


「「──! 」」


 で、またもや爆弾発言。私とカルト君は言葉を失う。──付いてきたって一体それってどこまで……!?


「……家の中まで、付いてきた? 」


 カルト君が問う。


「……」


 ふるふると首を振るリリカに、取り敢えずホッとする。リリカの答えを疑わないのは、やっぱりリリカはカルト君相手には嘘をつかないと思うからだ。


「今の話しを聞いていただけですわ。だから敵と言っても、(わたくし)には何がなんだか……。まぁ、例のカルト様を撃った者のみを差してるわけではないこと位は(わたくし)でも察しはつきますが。

 ──だけど、無理に聞く気もございません」


「……? 」

 

 リリカの言ってることはちょっと不思議だ。だって、無理に聞く気も無い程気にならないのだったら、何故わざわざ付いてくる様な事をしたのだろう?


 ……私とカルト君が二人っきりになるのが嫌だったから?

 …………。リリカの表情、行動はいまいち読み取りにくくて良くわからない。


「……君は、気にならないの? 」


 カルト君も同じく疑問に感じたようだった。けど、きっとその質問はするべきじゃない。リリカに本当のことを話せない以上は。

 カルト君は言った後にそのことに気がついたようで少し後悔した風だった。



 リリカはス……とカルト君に近づきその頬に触れる。そして一言、


「……カルト様を信じているんですわ」


 と言ったのだった。

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