23提案
「学校? 」
「……学校、ですか? 」
二人はポカンとした顔で私を見つめた。
……注目されるのにはあまりなれていないので少し面食らうが、私は負けずに話を続ける。
「私の友達のトトって子が理事長の娘だから、融通がきくのよ。だからお願いすれば明日から転入する事だって、出来る筈よ」
これは本当の話だ。トトってば意外にもお嬢様なのである。
私は「どう? 」となるべくにっこりとしてリリカを見つめた。
「うーん……」
どうもというか、やっぱりリリカは躊躇しているようだったけど、ここは多少強引にでも推していきたい。
何も今のは話をそらすために思いつきで言ったわけではないのだ。
学校も一緒に行けることになったら私達はほとんど三人一緒に過ごすことになる。
私と、それと純粋な被害者であることが確定したリリカをも守ろうとしてくれているカルト君の負担も、だいぶ減ると思うのだ。
それにこの学校はそれが売りと言ってよい位、村のなかで、一二を争う程安全だったりする。
侵入者を入らせないように、レベルの高い魔法や剣技を使える警備員さんが何人もいるし、図書館よりも強力で、かつ最新の結界もはってあって、部外者はまず入れない。
カルト君が言うにはこの家の中も安全らしいけども、どうしたって毎日お留守番だと、リリカだって可哀想だし、息抜きに一人で外出だってしたくなるかもしれない。
そういった事を考えると、いっそのこと毎日一緒に外へ出て学校に通う日々を過ごした方が良いんじゃないかと思ったから。
「……僕もそれが良いと思うよ。せっかく生まれてきたのだから学校でもなんでも楽しむべきだよ。
……確かにこの間僕を撃った犯人はまだ捕まえられていない訳だから、君も外に出るのは不安かもしれない。実際一人での外出や夜中の外出も、これから暫くは避けて欲しい。だけど、それ以外は心配することはない。
僕が君のことを、ちゃんと守るから──」
どうもカルト君も同じように考えてくれたのか、私の意見に同意する。……うんそうよね、同意してるだけよ。
「そう、ですか。……カルト様がそうおっしゃられるのなら、──是非。
……実を言うと、私もカルト様と学校へ、通ってみたかったんです」
案の定というか、リリカはカルト君が進めたとたんにうっとりとした笑顔で、了承したのだった。
「──良かった。じゃあ今からリリカは私とトトの家に行くとして、……──カルト君」
「なに? トリィちゃん」
「……ちょっとこれから一緒に寄って欲しいところがあるの」
「え……? 」
「な、ト、トリィ!? 」
リリカは嫉妬と動揺が含んだ声をあげる。
カルト君も話の意図を図りかねているようだったので、私は『これは真面目な用事だから』とアイサインをした。
「────っ」
カルト君は頷く、どうやら伝わったようだった。
「……わかった、行こう。でも──」
「で、リリカ。今夜はトトの家に泊まってね」
「……な、なんですって、いきなり! というかどなたですの!? 」
あ。リリカがツッコんでくるのって初めて見るかもしれない。
ちなみにトトの家はお嬢様故、学校以上に手厚い警備で安全だったりする。我が家も悪くないけど今日に限ってはより安全な方が良い。それにトト家にリリカの転入をお願いするなら、直接会わせるのが一番だからね。
「送るから」
「──悪いけどトリィちゃんの言うことを聞いてくれないか? 」
「……ぅ」
私はなるべく有無を言わせない体で言い放つ。それにたじろぐようなリリカではないけれど、今はカルト君が同意している手前、強くは言い返せないようだった。
「……今日のトリィはおかしいです。なんだか無性に腹がたちますわ……」
リリカは困ったように言いながら、パパへの置き手紙を書いていた。……すっかり仲良くなっちゃって、まぁ……。
――――――――。
「おっ、誰この美人はー? ……どっかで見たことあるような……? 」
「急に家にまで来ちゃって申し訳ないのだけれど、細かい事は後で話すから、今夜彼女を泊めてあげて欲しいの」
トト宅の玄関前で私は両手を合わせてペコペコと頭を下げる。
……トトは何が可笑しいのか、ふにゃふにゃと笑っていた。
「ん? 良いよー。あんたも泊まんの? 」
「有難う! トト!
私……? ごめん。……ちょっと用事があるから……」
「ん、じゃあ終わったら来なよ」
「……えぇ勿論。ありがとう」
まぁパパには私からもちゃんと置き手紙を書いておいたし、問題は無いかな……。
「……うーん……?」
トトは少しの間首を傾げた後、
「……トリィ、忠告したばっかりなのに……まさかもうカルト君と夜中にデートなんて──」
と私に耳打ちする。
「ちょ、そんなことないんじゃないかな? 」
私はテンパって微妙に変な言葉使いをしてしまう。リリカの視線が痛い……。
「ふーん、そっ、そんなら別に良いけど」
あっさりと引き下がるトト。……トトのこだわらない性格は、時々有難い。
「じゃわかった。──いってら」
トトは玄関までお見送りをしてくれ、ひらひらと手を振ってくれる。
「うん、じゃあ──」
「……」
トトの隣に立っているリリカは、意外なことにとても不安そうな顔をして私を見ていた。
パパとのこともあって、リリカってば一切人見知りしないものだと勝手に思っていたけど、さすがに今日のは急すぎたんだろうな……。
「大丈夫よ。トトは凄く良い人なの! 」
私はちょっと心を痛めながらも、小さくガッツポーズをつくってリリカを激励する。
……あ。ますます嫌そうな顔してる。
「そっ、私は良いやつよ! リリカちゃん! 一緒にボードゲームでもしよっ」
「……? げえむ、ですか……? 」
「そ、ゲーム! 」
「そ、そんな急に引っ張らないで下さいませっ」
でもそこはコミュ力お化けのトト。さっそくリリカと仲良くなる気まんまんのようだった。
リリカはトトに手を引っ張られて奥の部屋に入っていく。
これなら心配いらないわね。私は「後でね」と言ってドアを閉めた。
「ごめんね、待たせて! 」
公園の木の上にいるカルト君に声をかける。
カルト君にはトトの家の近くにある公園で待ってもらっていたのだ。……さすがに二人で歩いてるところを見られるのは、色々と問題があると思うし。からかわれたりとか……。
「ううん別にそんなことは──それより」
カルト君の言いたいことは明白だ。私は「うん」と言って頷く。
「森の奥の方にこの村の村長で、長老様でもある人が住んでいる家があるの。……今からその家まで行って、何か助けて頂けないか、頼もうと思うの」
「なっ……」
カルト君は目を見開いて驚いている。
当然だろう。……だって彼は私の立場上の身を案じて、それが出来るはずのない事だと思っていたからこそ、一人で何とかしようとしてくれていたわけだし。
「大丈夫。カルト君の思っているようには、ならないよ」
「……どういうことなんだ? 」
カルト君は訝しげに私を見つめる。……私は小さく深呼吸をした。
「うん。それはね、その長老様っていうのが……私の──おばあちゃん。だからなの」




