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ドラテン  作者: 夏目彩生
18/21

18説明(2)

「なに、いっ、て──? 」


 ────。

 動揺し呆然と立ち尽くす私を、彼なりの優しさなのだろう、カルト君はあくまでも淡々と説明をはじめた。


「──余程の達人でない限り、一度で二種類の魔法は使えない。……トリィちゃんは既に魔法を使っていたから、他の魔法をコントロールする事が出来なかったんだ。

 ……昨日屋上で魔法が成功したのは恐らく、トリィちゃんの魔法の一部であるリリカ・ガーディナさんが協力したからこそ、魔力のコントロールが出来たんだよ」

「──っ」


『何せこの私がサポートするのですから……』

 ……昨日のリリカの言葉を思い出す。

 ──あれだけ自信ありげに魔法が使えると言っていたのは、……そういう根拠があったからだというの?


「……」


 ……だけどカルト君の言うことは、やっぱりおかしいところが沢山あると思う。


「……カルト君。もし仮にリリカが二日前に魔法で造られたものだったとしても、やっぱりそれは私の力だとは思えないよ。

 ……だって私、その時は呪文も魔方陣も全く使ってなかったもの」


 ──そう、私にそんな力があるのかは取り敢えず置いといたとしても、魔法と云うものは──呪文や魔方陣、魔道具などを使い、正しい手順を踏まなければ出来なかったはずだ。

 当然絵を描いていた当時も絵の具とキャンパスで普通に描いていただけだし、あの時だって、魔法の手順なんて一つとして踏んでいない。

 ……だから、そんなことはきっとあり得ない。

 私はそっと彼を訝しげに見つめる。


「……確かにトリィちゃんからしたらそう思うだろうね」


 カルト君は左手で頭を掻きながら「何から説明しようか……」と小声で呟いた。


「……まず魔法っていうのは、必ずしも呪文と詠唱が必要なものではないんだ。

 たとえば、これはあくまで一部の例だけど攻撃魔法なんかは当然、戦闘中に使うわけだから魔方陣を書いたり呪文をとなえたりする時間なんてないだろ? ……だから術者の頭の中で正確に魔方陣と呪文を思い浮かべる事で、魔法を発動させるんだ。……かなり難しいけどそれは可能なことなんだ。

 究極、あくまで魔法の源は魔力と、各々の術者の思い、──みたいなものだからね。……だから本当に、ここでは説明しきれないくらい魔法のかけ方ってのは様々なんだよ」


 ……確かに、昨日リリカが指を鳴らすだけで、色々とトンデモな魔法を使っていたのを思い出す。……あの時は他にもつっこみどころが多すぎて思いいたらなかったけれど、それは魔法の考えを根底からくつがえす、かなり衝撃的な事実だ。


「私そんなの、聞いたことっ……」


 戸惑う私にカルト君は「学校じゃ習わないからね」と微笑し、話を続ける。


「──うん。もうひとつ説明をつけくわえると、その魔法そのものの難易度、使う人の実力やパワーによって、発動するまでの期間が長くなる魔法もあるんだ。それこそ十年とか……。いくつかの条件を満たさないと、永遠に発動しない魔法もある。

 ……これはあくまでも仮説だけど、トリィちゃんの魔法は原因はともかくとして、長い間発動できていない状態が続いていた。

 ……けれど昨日のあの瞬間がきっかけになって、はじめてトリィちゃんの魔法は完成したんだ」


 ……カルト君は口では仮説と言っているものの、きっと彼の中ではもう確信があるのだろう。

 そんな口ぶりに、感じた。


 ……信じたくは無いけども、実際カルト君の言っていることは、道理としてはかなっている気がする。本当に信じたく、ないけれど。

 それに私も、初めてリリカ会ったときに確かに思っていたじゃない、……『自分の一部が現れたみたい』だって。


「とはいえ僕もそんな魔法があるなんて全く聞いた事がなかった。

 描いた絵を実体化させる魔法自体は存在するんだ。だけどそれはあくまで術者の命令通りにしか動かない人形に過ぎないし、一目で本物の生物と区別がつく代物だ。

 彼女達はまったく実際の生物の様で、そして自らの意思を持って行動している。

 もしこれが魔法によって創りあげられたモノならば――……そして本当に彼女達が限りなく人間に近いモノならば、間違いなくその魔法は超最高位魔法に達しているだろうね」

「……! 超最高位魔法!? ……って言ったら、もう……」


 ──それこそ神や悪魔と変わらないくらいの力だ……。そんなの……。


「…………実際、やってる事は造物主とかわらないからね」


 カルト君は言いよどむ私の心中を読みとったのか、やはり淡々と、そう答えた。


 …………。

 そんな……、私が……? どうして……?

 ……。


「……怖い」


 思わずそんな言葉が口に出る。──けれども本当に、私は心底恐ろしいと思ったのだ。


「────っ」


 カルト君は微かに震える私を見て辛そうな顔をする。



 ────。


「……それで、聞きたいんだけど」

「うん……」


 私は力なく答えた。

 ……カルト君の歯をくいしばっている音が、微かに聞こえた。



「トリィちゃん、この力──コントロール、出来そうかな? 」


 そう言ってカルト君は朝から右手で持っていた、麻袋の中身を出したのだ──。


「──っ……! 」


 ……麻袋の中には、今では絶滅してしまっているモンスター『ザビルビ』が、カルト君の手に捕まれてキーキーと鳴いていた。

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