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ドラテン  作者: 夏目彩生
16/21

16 屋上にて(3)

「……二人とも」


「え」

「まぁ」


 ――急に声がして私とリリカは一瞬驚く。この声は……。


「カルト君」

「カルト様」


 私とリリカ、同時に声をあげる。

 そして声の方に目を向けると、カルト君が屋上の外側に、フェンスを掴んで立っていた。この位置から察するに、恐らくカルト君は壁を登って屋上まできたみたいだ。

 子供の頃は気がつかなかったけれどカルト君てば、何気にずいぶん人間離れしたことをやってのけているなぁ。


「……えーと」

「……? 」


 カルト君は何故か顔を赤くしてぽりぽりと頬をいていた。

 ……? どうしたんだろう?


「――――」

「……きゃ! 」


 ドン、と衝撃がはしる。それで遅ればせながら私もカルト君が赤くなっている理由を理解する。……ちょっとだけ虚しいけども。 


「…………っ」


 私を突き飛ばしてくれたリリカは、もじもじしながら身だしなみを整えていた。


「申し訳ありません。カルト様以外の人にこんな……いくら同性同士とはいえ……」

「え? い、いや、僕は別に気にしないけど……、その、ほら別にただのスキンシップぐらい」

「……スキン――シップ? 」


「……」


 ……あえて口には出さないけども、間違いなくカルト君は虚勢を張っていると思う。

 カルト君はフェンスに二、三回足を引掛け飛び越え、ストンと屋上内に入ってきた。


「――よくここがわかったね、カルト君」

「うん、正直少し探したんだけど、その、物音が聞こえたからさ」

「……もしかしてうるさかったかな? 他の人にも聞こえちゃってるくらい? 」

「いや、そこまででもないから大丈夫。だけど明日からはしばらく、夜更けまで出歩かない方がいい」

「あ……」


 ……それでカルト君は心配で探してきてくれたのだとわかった。私は嬉しさやら自身の迂闊さの恥ずかしさやらで頬が少し紅潮する。


「……わかった、有難う。確かに軽率だったね」

「そうだね、やっぱり女の子二人では……」

「うんうん、そうよね。女の子ふた……――」


 ――――。

 ……ふと私はここで、リリカがさっきから全く会話に参加していないことに気が付いた。……見ると、どうやらリリカは先程からずっと無言で俯いているようだった。


「……スキンシップ……、ですか」

「……リリカ? 」


  不意に、リリカが口を開く。……何だか嫌な予感がした。

 リリカは顔を上げる。その顔は少し切ないようにも、……何故だか艶っぽいようにも見える。

 リリカはゆっくりとカルト君に向けて歩を進める。


「――え」


 ――それでカルトも、リリカの異変に気が付いたようだった。


「えと……、君……? 」

「――抱きしめあうこと位は只のスキンシップだとカルト様は仰いました。けど、私は昨日スキンシップのつもりなんてありませんでしたのよ」


 リリカは一歩一歩と前に進み、カルト君の真正面でピタリと止まる。


「……それにカルト様ならそれ以上だって……私……」


 ……そしてリリカは両手でカルト君の頬をつかみ、そのまま――


「ん……」


 ――口付けをした。


「――――――――!!!! 」


 私は声にならない悲鳴をあげる。鏡はないけれども、多分私は今そうとうにおもしろい顔をしてしまっているに違いなかった。だって()()()は未遂で終わってしまったから……、――私だって「まだ」だったんだもん!



 リリカはそっと唇を離し、


「これでもまだ只のスキンシップですか……?」


 ……とカルト君を見つめた。


「う…………」


 固まりこそはしないものの、おもいっきり赤面してどもるカルト君。……まぁこれは無理もないけども。

 ……と、いうか今のは流石に私だって黙ってられないわ!

 私はリリカを睨み付けビシリと指差した。


「なっなんてことするのよ! あなたは常識ってものはないの!! 」

「……さあ、自分ではわかりかねます」

「…………」


 ……舐めたことを言ってくれる。

 こうなったら……、本当はこんなかたちでは嫌だけれども、私も――。

 私もカルト君に、歩み寄――――。


「……あれ? 足が、動か……? 」


 ――ま、まさかリリカ。魔法で私に金縛りを――!?


「リ……リ……カ――」

「…………」

 

 せめて声で糾弾しようとしたら、それさえも出なくなる。

 リリカはなに食わぬ顔をしてカルト君に、今度はハグをしていた。


「――――っ」


 ……やっぱりこの人……いや、こいつ! 絶対好きになんてなれないんだから! ……そう思いながらも私は、ただ指を加えて見ていることしかできなかった。



 ――――――――。


 その後私の金縛りが解かれ、カルト君も平静になり、私達は自宅まで送ってもらえる事になった。

 送ってもらい別れ際にカルト君は「明日朝、迎えに行く」と私に耳打ちをした。あの様子だと何か、今の状況に対するヒントが見つかったのかもしれない。

 ……何にせよ、二人きりになれるのは良いことだ。


 そして私は寝ることにする。


「ふぅー。今日も疲れたー」

「……ねぇ」

「ん? 」

「やっぱりこの服、胸がきついわ」

「――知りませんっ! 」 


 ……とにかく私は、寝ることにしたのだ。

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