14 屋上にて(1)
──しまった……。
私は余計な事を言ったな、と慌ててリリカから目をそらした。
――が。
「……何故そんな言い方をするの?──もしかして貴方、初級の魔法すら使えていなのじゃ……」
「う……」
時すでに遅し。……案外鋭かったらしいリリカに、あっと言う間に図星をつかれてしまう。
「……はーぁ」
私は降参よ、とがくりと肩を落とした。
「──そうよ……私は生まれてこのかた、初級どころかレベル超超超初級魔法すら使えたことがないの。それどころか教室を破壊しちゃったり、かなり無茶苦茶やっちゃってたり、してます……」
私はそっぽを向いて半ばやさぐれ気味に答えた。
「……」
リリカは私の話を聞いてから黙りこんでしまっている。
自分からムリヤリ聞き出しておいてずいぶん自分勝手な話だ。
尤も彼女が自分勝手なのはもうこの二日で骨身に沁みてわかっていることだが。
……そして私はというと何だかとてつもなくばつが悪かったりする。
だって、しょうもない事かもしれないけれど、私は恋敵であるリリカにはなるべく、欠点とかコンプレックスを内緒にしておきたかったのだ。
……それなのに彼女のことは何か聞き出したいと意地になった挙げ句、墓穴を掘ってしまうだなんて、我ながら自業自得としか言えないのだけれど。
私はリリカは今どんな顔をしているのだろう、と気になりそうっと顔を向きなおした。
「……――そう……なんですの……」
「……? リリカ……? 」
……意外なことに、リリカは辛そうな顔をしていた。信じられないけれど、どうやらリリカは私に同情しているようだった。
「それはさぞや苦労されたのでしょうね……」
「え……! そ、その、大変だったのは、学校の先生とか、クラスメイトだと思うけども……」
「そぅ……」
「…………」
リリカは俯いてまた黙りこんでしまう。
……どうしよう。こんなの、あんまりにも予想外だ。
私はてっきり「魔法を一切使えないなんて、ますます貴方はカルト様に相応しくありませんわ」とでも言ってくるのだろうと思って身構えてすらいたというのに。
それをこんな、しかも普段何を考えているのか解らない風な彼女がこんなにあからさまな表情をするだなんて、いくらなんでも反則じゃないか。
……これではかえって、ものすごく困ってしまう……。
私はどう声をかけようかと思案する。
「あの、リリ──」
意を決して声をあげたものの、私は思わずズッコケそうになる。
何故ならリリカと言い終わる頃には、彼女は一転して表情を変えていて、花の開いたような笑みでこちらを見ていたのだから。
「──ヵ……? あのー? 」
「そうですわ! 」
な……何その落差? 動揺する私を余所に、彼女は両手の手のひらを合わせ、フワリと声をあげた。
「ねぇ、トリィ、私にとても良いアイディアがあるんです」
「あ……アイディア? 」
「えぇ! 」
そしてリリカはすーっと私に顔を近づけ──
「……ねぇ、だから昨日失敗した魔法、もう一度ここで使ってみない?」
――と、相も変わらず突拍子もないことを言いだすのだった。
「……ふぇ?」
一瞬、何を言ってるのか理解できなく、思わず間抜けな声をだしてしまった。
だって……リリカは……今、何を言ったの?
「──だって、今日ならきっとできるわ。きっとできるんですわ。トリィ……」
…………。
「──屋上だから何かが壊れる心配はないけど、貴方は怪我しかねないのだから離れて見てるのよ」
あれから私は教室まで忍び込み、いくつかの魔道具をそろえた。
昨日授業で習ったのと同じ魔法陣を書き、魔法石を置く。……ちなみに成功すると、魔法陣の中心置いてある魔法石が浮く仕組みになっている。
「大丈夫です」
リリカは断言するように言う。
彼女の表情は基本的にとても読み取りづらいのだけど、よぅく観察するとほんの少しだけ眉毛を吊り上げているのがわかった。つまり、それだけの自信があるということなんだろう。
「……」
……だけど「大丈夫」って、いったい何が大丈夫なんだろう?
アイディアって何のことなのかと何度聞いても「直前になるまで教えません」一点張りだった。
色々とツッコミたい気持ちは勿論あったのだけど、どうしても先程の彼女の辛そうな表情が頭にちらついてしまい、ついされるがままになってしまっている。
……またしても振り回されてしまっている自分自身に、私は少し呆れる。彼女の押しが異常に強すぎるのもあると思うが、結局は私自身流されやすいというのが一番の問題なのかもしれない。
「……じゃあ、取り敢えずやってみるわ」
私は溜息まじりに魔方陣の前に膝をつくと、何やら急に背中が暖かくなるものだから、私は不思議に思う。
……振り向いて見てみると、理由はすぐにわかった。
──リリカが私の背中にピッタリと手をあてていたから……。
「──はい、ではやってみて下さい」
「なっ……」




