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ドラテン  作者: 夏目彩生
10/21

10 カルト視点(1)

今回はカルト君視点です。時々視点を変える予定です。

 俺、カルト・ベルノルトは解放されているエリアのほうの図書館で、とある人物について調べている。

 その人の名は……。


「リ、リ、カ……」

 

 ………………。

 ────十数年前のある日、俺は一人少女に熱烈に一目惚れをした。

 当時、あの塔に人形(ひとがた)のモンスターがいるという噂を聞き付けた俺は、その噂が親父の耳に入る前に自分で捕まえようと意気込み、図書館に侵入したのがきっかけだった。


「…………! 」


 彼女を見た瞬間、俺は目を奪われる。

 ……何というか、こんなに可愛い女の子はそれまで見たことがなかったのだ。

 とたんに俺はモンスターの事など忘れ、彼女に近づきたい気持ちでいっぱいになったのだった。


 その日から俺は昼は親父の仕事を手伝い、夜は彼女に逢いに行くという、そんな生活をはじめた。

 彼女は最初こそ心を閉ざしていたものの、どんどん今のような輝きを見せ、俺が来ると笑いかけるまでになってくれた。(ここまでが大変だった……)


 しかしそういった日々は長く続けられることはなかった。親父が本格的に獣使いの修行をするように薦めてきたのだ。

 俺はトリィちゃんのことが大好きだったが、自分には獣使いになる以外の選択肢など存在しなかった。


 しかし、ヘタレな俺は彼女に直接事実を伝えることがどうしても出来なく、結局、置き手紙で伝えることにしたのだった。

 ……あの後、トリィちゃんが追いかけてきてくれた時は本当に嬉しかった。

 

 ──そして十数年がたった。

 俺はいくつかの困難を乗り越え、多少だが名がしれるようにもなった、

 ……もう彼女の事は忘れるべきだと思っていた。それぞれ別の道を歩いているのだから。

 けれど、事あるごとに頭にちらつく。

 やがて俺は、彼女に会いに行く決心をした。いや、我慢できなくなったというほうが近い。

 彼女はもう自分の事など覚えていないかもしれない。けれども、言おう。

 やりたい事をやるだけやってから会いたくなるだなんて、我ながら勝手だと思うけれど。……似てないと思いながらも、やはり俺もあの親父の子ということなのだろうか?

 とにかく俺は玉砕覚悟で、彼女の住む土地へ行くと決めた。

 自分の中でのけじめという意味もこめて。

 ────。


「…………ふぅ──」


 ページをめくる。



 ……………………。

 ──……実際に彼女に会い、はっきりと忘れられていることがわかった俺は、驚いた。

 忘れられた事に驚いたのではない。俺は旅をしていた時、どうせ向こうから返事がだせようがないということと、単純に住所がわからなかったために手紙すら送っていなかった。もとからそんな状態で覚えもらっていたら奇跡みたいなものだと思っていたから。

 そうではなく、『絶対にまた振り向かせてみせる』と、自分が決心していることに気が付き、それに驚愕したのだ。

 俺は自身の諦めの悪さに心底呆れた。修行していた頃、見込みのないモノはさっさと諦めろと散々教わったけれども、これだけは割りきりれないものだったらしい。そもそも狩りと恋愛を一緒くたにするものではないのかもしれないが。

 ──きっと、それだけ彼女が魅力的だということなのだろう。

 よしっと俺は腹を決める。待とう。彼女が思い出すまで、もしくはまた振り向いて貰えるまで。幸い彼女には特定の相手はいないと、彼女の友達が言っていたし。

 ……本当は彼女が俺を覚えてなければ、適当に理由をつけるなり周りの記憶を消すなりして、さっさとこの町を去るつもりだった。とりあえず俺は滞在期間の予定を一年ほど伸ばすと決める。

 獣使いとしての活動が一年も出来ないのはきついがもう決めたことだ。

 いっそのことここ住居をかまえるのも悪くない。俺はこの村も嫌いじゃなかった。



 その日の夜、外を飛んでいる彼女を見た。

 ああ、彼女はもうあんなに自由に飛べるようになっていたんだなと感慨にふける。

 ──その時、殺気を感じた。

 殺気(それ)は、俺に向けられたモノではなく──……。


「──っ」


 俺は、咄嗟にそいつがいるであろう方向にナイフを投げる。恐らく届く距離にはいないが、威嚇くらいにはなるだろう。

 ナイフを投げたとほぼ同時に、銃声が鳴り響く。

 だが威嚇の効果はあったようでそいつは目測を誤り、弾は羽根を掠っただけで済んだようだった。


「──キャー、落ちるー! 」


 しかし突然のことに驚いた彼女はそのまま落ちていく。

 俺は撃った奴を追いかけたい気持ちを抑え――、


「危ない!! 」


 ──彼女をキャッチした。


「…………っ」


 ……顔が熱くなる。白状すると俺は彼女と別れてからほとんど女性に縁がなかった。さらに言うとここ数年は話すことすら殆ど無かったし、幼少気を除いて今が一番物理的に、女の子に近づいているとすら思う。

 よくもそんなざまで彼女を振り向かせるなんて言えたものだと思う。

 ……正直、今彼女が目を覚ましても、まともに話せるかどうかも自信がないくらいであった。

 彼女は意識を失っていた。ちょっと顔をまじまじと見てみる。彼女は相変わらず……綺麗だ。そして、なんだか凄く良い香りがして……落ち着く。


「…………カルト……さん? 」

 

 パチリと目が開く。彼女は気が付いたようだった。俺は慌てる。


「あっあのっ……」

「………………はっ! 」


 彼女は逃げようとした。当然だ、俺だって彼女の事情はわかっている。恐らく本来はこんなこと、あって良いはずがないのだ。

 ──けれど、ふと寂しいと思ってしまう。

 気が付くと俺は咄嗟に彼女の脚を掴んでしまっていた。


「え?」


 彼女は驚いている。だけど俺は彼女以上に驚いていた。


「あっ、あの………。………………」


 それでも、俺は彼女の脚を離せなかった。離したくなかったのだ、きっと。

 俺は脚を放す代わりに、


「羽根、怪我してるじゃないか……」


 もっともらしい、言い訳をした。


 昔遊んでいた場所、図書館で俺は彼女の手当てをした。

 特にこれといってねらっていた訳ではなく、単に確実に人がいないところを選んだ結果だった。しかしそれが幸いしたのか――?


「カルト……君……」


 彼女は、俺の事を思い出して暮れたのだった。

 ────。



 パラリ、本を読み進めていく。

 その後の事は俺は細かく覚えていない。

 俺はあの後頭が真っ白になってしまっていた。あまり見苦しい事を言ってなければ良いが……。

 そして信じられないことに彼女に受け止めてもらえて……、そして……。


 …………………。

 銃声が図書館内で鳴り響き、弾は俺の腹を貫いていた。あの時は本当に不覚だったと思う。

 彼女をまた泣かせてしまった。本当はあれは死ぬ傷だった。俺は死ぬはずだった……。

 そうして助けてくれたのが……、リリカ姫(あの子)だ。


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