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4話:壊滅させますよ

日がだいぶ落ちてきている。

俺は、ところどころ砂が混じっている平原を走る馬車に乗っていた。

その前に本を売り飛ばしたので、当分金に困ることはないだろう。

さて、ここでひとつ問題がある。

俺は『別行動』という言葉につられてやってきたのだが、この状況を見てみよう。

最初に馬車に乗った状況から、1人増えただけである。

このことについて質問したら、


「素材の数が奇数だから、ひとつはみんなで取りに行こう」


ということなので、渋々ついていくしかなかった。


「勇者さん……」


「僕は勇者さんじゃないよ。名前は『ガリック』、ガリック・ランジーナだよ」


へぇー、と感心しながら俺は話を戻す。


「別行動って、どういうことですか?」


俺が一番気になってたのは、別行動についてだ。

それをガリックさんから聞きたいのだ。


「フト君を入れた5人を、二組に分割するんだ。そしたら素材集めが半分の時間で終わるだろう?」


「どういうチーム分けで?」


「僕とカーヴォロ、タンカンちゃんのチームと、フト君とプリコットのチームだよ」


へぇー……は?

あのブラコン魔法使いと?二人きり??

予想外の一言に、俺は疑問を隠せなかった。


「な、なんでそのチーム分けなんですか?」


「そうですよお兄様!!何でこんな弱小と一緒なんですか!?」


そこまで言うことないと思うが、まあそういうことだ。

ガリックさんは俺を荷台に連れて行き、カーヴォロに《防音》というスキルを発動させた。


「……さて、理由を話そうか」


ここまでするのか?する意味あるのか??


「フト君も知っているとおり、プリコットは僕が好きなんだ」


いや、好きとかそういうレベルじゃないんだよ、兄さん。もうあれはブラコンだよ。


「なら、ガリックさんと一緒にいたほうが……」


「プリコットには、綺麗なお嫁さんになってほしいんだ……ほら、プリコットは今14歳だろう?可愛いだろうなあ、お嫁さんになる姿」


あ、あの魔法使い14歳だったのか……つーか、このお兄さんはマトモなんだな。妹を送り出す献身的な姿、みたいな感じで。


「それで、僕と一緒にいたら甘えちゃうだろ?だから、彼女には僕がいない旅で、いい男性を見つけてほしいんだ……君には、それを見守ってほしい。そういうわけなんだけど、頼めるかい?」


優しいお兄ちゃんだな。

『見守ってほしい』というのも、おそらく悪い男を寄り付かせないように、ということなのだろう。

初対面の相手にここまでの信頼を寄せるというのは、正直すごいと思う。

こんな聖人の頼みは、断ることができない(というより、断るとその後の旅路が面倒なことになる)。


「わかった。できる限りの手助けはさせてもらう」


俺はガリックと共に頷き、馬車の中に入っていった。





「旦那方、橋が見えてきましたで」


しばらく走ると、馬車の運転手がこちらを向いて言ってきた。

俺は荷台の窓から顔を出し、崖にかかっている橋を見た。

木でできた橋で、よく耐えられるなといった構造をしている。


「そこの辺りで、一旦休憩しましょうか」


ガリックの言葉に、運転手含む全員が賛成した。


馬車を降りて、背伸びをする。

風に吹かれた砂が身体に当たって痛い。



「いたな……」


複数人の盗賊が、砂山の影から富戸たちを見ていた。


「今日こそは……!!」


視線を感じると、盗賊たちはすぐに砂山から消えていった。



「どうしたんだ、フト?」


砂山をじっと見る俺を見かねて、カーヴォロが話しかけてきた。


「いや、なんか人の気配が……」


疑問の表情を浮かべるカーヴォロ。

まあ、そりゃそうだよな。

眠くなってきたので仮眠を取ろうとしたその時、マルテが話しかけてきた。


『おい、寝るんじゃない』


あと少しで眠りかけていた。

なんだ、俺の邪魔をしたいのか?


『違う、人の気配がするんだ……2、3人の気配だ。今、あの魔法使いの方に行っ……』


……急に黙って、どうしたのだろうか。

俺はプリコットの方を見た。が、プリコットは崖を眺めており、周りに人の気配なるものはないと思う。


『走れ!!魔法使いが眠らされる(・・・・・)ぞ!!』


言われた通りに、俺はプリコットの方に走っていった。

すると、プリコットは意識を失ったように、崖に落ちそうになっていた。

すんでのところで、俺はプリコットの腕を掴んだ。

しかしながら、俺は貧弱であったために、プリコットごと崖下に落下してしまった。


「プリコットォォォォォ!!!」


ガリックの呼び声は、崖に反射して自分の元へ帰ってきただけだった。


「……出てこい」


カーヴォロが砂地の方を向いて、『盗賊たち』を招集した。

すごすごと男たちは出てきて、カーヴォロの前で正座をした。


「……お前ら!!どう落とし前つけてくれるんだ!!」


「カーボロ、そんな怒らなくてもいいんじゃないの?」


崖下を覗いていたタンカンが、怒髪天のカーヴォロに向かって言った。


「タンカン……わかってるのか!?仲間が、2人も……」


「ねえカーボロ、こっち見て〜」


「すまないが、今構ってやれる余裕はないんだ!!」


タンカンはため息をつき、崖下に向かって言った。


「せっかく今昇ってきてる(・・・・・・)のにねー、カーボロはおっちょこちょいなんだから」


……まったくだ。

俺は眠ったままのプリコットを抱えながら、大きなシャボン玉に乗って浮かんできた。


「ど、どうやって戻ってきたんだ……?」


カーヴォロが、驚いてこちらを向いている。

どうやって、といわれても……シャボン玉の中に《浮遊(ホバー)》っていうスキルを組み込んで浮かばせただけであって。まあこのシャボン玉は固有(ユニーク)スキルなのだから知らないのも無理はない、か。

しかし、この組み合わせは中々使えるな……

名前でもつけておくか。


「……《芸術創作(アートクラフト):風船(バルーン)シャボン》」


崖下に落下しないように地面へ向かい、シャボン玉を割った。

プリコットはこんな非常事態でさえ眠ったままである。こいつ、図太いと言うべきか。

カーヴォロは俺の方を向いて、頼み込んできた。


「俺たちは、こんな事態を引き起こしてくれた盗賊の団長に会ってくる。フト、悪いがプリコットを見張っててくれ」


一瞬嫌な顔をしようかとも思ったが、多分今やったら俺に明日がこないのでやめておいた。

それだけカーヴォロは怒ってるらしい。

というかカーヴォロは盗賊団に面識があるのか?盗賊のひとりに道案内させてるし……

やることもないので、おれはプリコットの寝顔を見た。

寝てれば可愛いんだけどなぁ……寝てれば。

そんなことを考えていると、プリコットが起き上がった。どうやら目が覚めたようだ。


「……あれ、お兄さまたちは??」


「あー、盗賊の団長に会いに行くってさ」


プリコットはそれを聞いて立ち上がり、俺に言ってきた。


「お兄さまは、おそらく眠らされた私を庇って連れて行かれた……そして、それを悟らせまいとフトさんに嘘の情報を言わせた」


何をどう解釈したらそうなるのか、小一時間問い詰めたい。まあ、思想の自由は認められているし……行動に移さなければなんの問題もない。


「フトさん、盗賊団を壊滅させますよ」


問題しかない。平然とした顔で何言ってるんだこの魔法使いは。

まずい、どうやったら説得できるのか……

一時はそう思っていたが、すぐにその考えを取り消した。

だって、あんな鬼神のような表情をしている人を諭すほど俺は口が達者ではない。


『意気地なしめ』


腹の中からそう聞こえたが、無視しよう。



俺は、プリコットを盗賊団のアジトまで案内した。

だってあんな顔されて断れる男はいないよ……

俺とプリコットは、洞穴の近くの岩陰に隠れていた。

洞穴の入り口付近には、門番らしき人物が2人、ナイフを携えて立っていた。

それを見て、プリコットは杖を立てて、ブツブツと何かを言い出した。


「……『其れは灰、万物の終わり。眼前の全てを破壊する、怨嗟でできた火薬庫……」


「ストッッップ!!!」


プリコットは不服そうな目でこちらを見ながら、仕方なさそうに展開させていた魔法陣を閉じた。


「……なんですか?」


なんですか?じゃねーよこのブラコン!!

……いや、冷静になれ俺。詠唱がやばかったからってそんなビビることはなかったじゃないか。


「なあ、さっきどんなスキル撃とうとしたんだ?」


「爆発魔法です」


一瞬でもコイツを信じた俺がバカだったよ。こいつはただのブラコンじゃない、兄のためならどんな犠牲だって厭わない。

名を冠するなら……『災害級ブラコン』だ。

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