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3話:君はまさしく勇者じゃよ

俺たちは、魔法使いたちを迎えに来た馬車に乗って、彼女らの目的地である町へと向かっていた。

生まれてこの方、馬車というものに乗ったことなど一度もなかった。だから俺は、馬車って楽しいんだろうなぁ……と、そんな妄想をしていた。

実際に乗ってみると、授業で習ったことをひとつ、思い出したのだ。


「……めっちゃ揺れる」


そうだった。道路が整備されていないのもあるから、馬車はすごい揺れるのだ。

幸い酔わない体質なので何とか耐えているが、もし酔いやすい体質だったらと考えると……ゾッとする。


「みてみてカーボロー!」


そう言うタンカンの方を見ると、馬車の出口がある、後ろのほうで飛び跳ねていた。

……危なっ!?

そう思っていると、やはりといったところか……バランスを崩して頭から落っこちていった。

慌てて二人の方を見ると、全く焦る様子を見せなかった。


「だ、大丈夫か!?タンカンちゃぁぁ……何アレ」


地面に落っこちたはずのタンカンが、寝そべったままこちらに向かってきていた……うん、ありゃゴキブリだな。

つーかどうやってこっち来てるんだよ、怖っ……


「なあ、アレどうなってるんだ……?」


俺の質問に、チャラそうな男は鍵をいじりながら答える。


「すぐにわかるさ」


仲間が落っこちたってのに、素っ気無いな、おい。

そう心の中で思っていると、タンカンが寝そべったままで馬車に飛び込んできた。

寝そべった状態で、タンカンがカーボロの方を向いて言う……駄目だ、怖い。


「ねーねーカーボロー、このゴーレムちゃんたちはなんなの?」


ゴーレム……そういえば、タンカンの身体が少し浮いている気がする。

よくよく見ると、タンカンの下に赤黒い小さい人形がたくさんおり、その全員がタンカンを必死に支えていた。


「お前がこの前……たしか10日前、そこら辺にばら撒いてたぞ」


そうチャラ男が言うと、タンカンはすくっと起き上がり、自分の服の左袖をめくり上げた。すると、タンカンのほっそりとした、白い雪のような腕が現れた。

その腕には走り書きのような字が書かれていた。

『フスラン草原軍隊式ゴーレム放す』……そう書かれているように見えた。

あぁ!といった表情で、タンカンはゴーレムから離れた。

そして、タンカンはゴーレムの一人に人差し指を差し伸べた。


「ありがとね、ゴーレムちゃん!」


ゴーレムは、差し出された指を力強く握った。

そして、チャラ男に一礼をしてから、馬車から次々と飛び降りていった。


「あのー、カーボロさん……」


俺はゴーレムについて、チャラ男ことカーボロに聞いてみた。しかし、予想外の答えが返ってきた。


「俺の名前はカーボロじゃない、カーヴォ(・・)ロだ。ビーの音じゃない、ヴィーの音だ」


カーボロは唇を動かして、ビーとヴィーの違いを強調してくる。


「で、でもタンカンちゃんがカーボロって……」


「アイツは特別だ」


俺の抗議も虚しく、カーボロ……カーヴォロに軽くあしらわれた……そういや聞きそびれたな。


『ゴーレムっていうのはだな……』


「うわっ!?」


腹の中から急にマルテが話しかけてくるもんだから、ビックリして声が出てしまった。

……痛い、視線が痛い。とても痛い。


「……ちょっと風に当たってくる」


俺は馬車の荷台にあるヘリ?のような部分に腰掛けて、マルテに向かって静かに怒りを露わにした。


『なんか、すまない……』


申し訳なさそうに謝ってくるマルテを想像して、だんだん俺の怒りは収まっていた。


「……続けてくれ」


『……ゴーレムというのはだな、石だとか鉱物だとかを加工した人形のようなものに魔導回路を仕組んだやつのことだ』


ようは、ゴーレムってのは動く石ころなのか……そう言うと夢がないな。


『普通は命令を出されて動くはずなんだが……どうやら、あのゴーレムたちは自主的に動いていたらしい』


そんな凄いのか?元の世界ならルンバとかあった気がしたが……


『その……ルンバとかいうやつは知らないが』


ここでさらっと心を読まれたのを後で確認したら、俺が強く念じた事柄は、マルテにも聞こえるらしい。


『主人はこいつらを忘れていたようだし……何より、あの量が意味不明なんだ』


言われてみればたしかに。

あのとき、タンカンを支えていたゴーレムが、ゴキブリに見えたレベルで大量にいたのを覚えている。

じゃあ、タンカンちゃんの力がヤバいっていう認識でいいのか?


『間違いない……それにあの女、どこかで見たことあるような……』


マルテが考えごとをしているうちに、何やら街のようなものが見えてきた。


「遺跡の方、フスラン国の首都に着きましたよ」


魔法使いの女性が、荷台にいる俺に話しかけてきた。


「首都……そんな所まで送ってくださったんですか」


謝罪と敬意を表そうとしたが、魔法使いの女性はそれを止めた。


「私たちも、ここに用事があったので」


用事のことを聞こうとしたが、馬車の運転手に急かされたので、聞くに聞けなかった。何を急いでいるのだろうか。


本入りのリュックを背負って魔法使いの女性たちについて行くと、街の中心に大きな人だかりができているのを見つけた。エプロンを着たおばちゃんに、鍛冶屋の旦那みたいな人、町の荒くれ者って感じの大男まで揃い踏みだ。


「こんどはランジーナ家の坊ちゃんが抜くらしい」


「ああ、勇者って称号が似合いそうな人だな」


そんな声が、人だかりのあちこちから聞こえてきた。


『……まさか』


あの(・・)マルテが不安視しているので、その現場をよく見ようと人だかりの中に身体を入れていった。


『おいバカ!!今すぐ街から出るんだ!!』


はじめ、俺はマルテが怖がっていたのかわからなかった。

しかしその直後、何故マルテがあんなに焦っていたのかがわかった。

荒れ狂う歓声、怒号、悲鳴にも似た何か。

それと共に、輪の中心にいた青年が……


『……チッ、やはりか』




地面につき刺さっていたと思われる、輝かしい剣を引き抜いていた。




これ、あれじゃん。

村の青年が『聖剣』を抜くやつやん。そりゃあマルテも裸足で逃げ出すわ……足ないけど。

その数秒後、民衆が一斉に道を開け、青年の前にかなりいい見た目をした老人が現れた。

すると青年は老人の前に跪き、深々と頭を下げた。

もしかすると、この老人はとても偉い人なのかもしれない……例えば、フスラン国の国王とか。

そんなことを考えていると、国王が青年の頭に手をかざして言った。


「君はまさしく『勇者』じゃよ……さあ、仲間を集めて魔界へ行き……魔王を討ち取ってくるのじゃ!!」


人々の歓声のボルテージは上がっていき、ついには狂乱にまで達した。



まずい。

あんな対魔族決戦兵器みたいなのを相手にしてられるか……本屋によって本を売ってからこの街を出よう。

俺が逃げるのを勇者さんには見られるが、どうせ関わりないことだろうし、まあ知ったこっちゃない。

パーティ勧誘の集団から抜け出して、そのまま離れようとした。


「……どこへ行く気ですか?」


誰も俺のことを見ないであろう中、魔法使いの女性が俺を引き止めた。肩においた右手に力を入れて。


「い、いやぁ〜……ね?」


冷や汗をかきながら、俺ははぐらかそうとした。


「ね?じゃないですよ。お兄様の雄志を見ずにどこかへ行くなど……まるで正気の沙汰じゃありませんよね」


お兄様(・・・)ってことはこの魔法使い……あの勇者さんの妹かよ!?

なおさらそんな奴に構ってられるか!!

どうにかこうにかして逃げようとする俺を、魔法使いの女性は必死に食い止める。


「ごめんなさい!!」


突然背後から、勇者さんの謝罪が聞こえてきた。

その一言で、場は一気に静まり返った。


「僕には、もうパーティがいるんです!!」


なんだどうでもいいや。だって俺のことじゃないもん。


「あんちゃん、どこにいるんだ??そのお仲間とやらは」


大男が尋ねると、勇者さんは俺と魔法使いの女性のほうを指差した。


「彼らです!!」


人々が、一斉にこちらの方を向く。


「……え?」


しんと静まり返る中、屈強な大男が考察を始めた。


「魔導士2人と盗賊、それにゴーレムマスター、か……頑張れよ!!」


最後の一言で、再び民衆の歓声が蘇った。

みんな、人々の歓声に飲まれてはいけない。

今、あの男はなんと言ったのだろうか。

盗賊……はカーヴォロで、ゴーレムマスターってのがタンカン。

……魔道士2人??


彼には幻覚が見えているのだろうか。


「白いローブのヤツは白魔導士か……ふむふむ」


ふむふむ、じゃねーよ!!やっぱり俺入ってるんじゃねーか!!

勇者さんがこっちにやって来た。


「プリコット、見ててくれたかい?」


そう言ってやってくる勇者さんに、魔法使いの女性(プリコットというらしい)が駆け寄って行った。


「もちろんです、お兄様!!あの勇姿を見ない者など、よほどのバカしかいないですよ!!」


そう言って、プリコットがこちらを見てくる。悪かったな、よほどのバカで。


「カーヴォロ、タンカンちゃんを守ってあげているのかい?よほど好きなんだね」


そう言って勇者さんはカーヴォロのほうを見てニヤリとする。


「う、うっせ……!」


そう言いつつも、カーヴォロは少し顔を赤らめている。

じゃ、じゃあ、俺帰るから……


「君は……ってちょっと、顔を見せてくれよ」


そう言って勇者さんは、ヒッソリと立ち去ろうとする俺の肩を掴んだ。

今俺の額を流れているのは冷や汗とかいうレベルじゃない。これはもう滝だ。


「大丈夫かい?すごい汗だけど……もしかして具合悪いんじゃないのか?」


こいつ……優しいな。


「い、いえ大丈夫です……」


俺は勇者さんに、あらかたの事情(異世界転移のこととマルテのことを除く)を説明した。


「そうか……僕の妹が迷惑かけたね」


そう言って謝罪しようとする勇者さんを止めて、プリコットが弁明し始める。


「迷惑などかけていません!この人がここに連れてこいと言ったので、てっきりお兄様を見たいのかと……」


おまえ余計なことしかしないな?


「そーいやどうしてここに来たかったんだ?」


黙ってくれカーヴォロ。

まずいな、どんどん悪化していく。下手に口を滑らせて公開処刑など、万が一でもなりたくはない。

これ以上転落しないように、こっちからも仕掛けないと……


「えー、と……調べ物をしようと思って」


ナイス判断、俺!

マルテがあちゃー、みたいなことを言ってるが気にしない。


「なに調べようとしてるのー?」


タンカンちゃぁぁん……

マルテがほらみろ、みたいなことを言っている……ごめん。


「ま……魔界に行きたいな」


言いかけたところで、人間と魔族の最悪な関係を思い出した。『魔界に行きたい』だけでは証拠不十分だろう。理由をすぐに言わなきゃすぐバッドエンドだ。


「ま……魔界に行って僕も魔王を倒したいな〜と」


今、プリコットの視線が鋭くなった気がしたが、まあセーフじゃないのか?


「じゃあ僕たちと一緒に来ないかい?目的は同じだろう?」


しかし、俺は自分がバカなのだと改めて気づくはめになったのだ。


「で、でも一人だけ初対面なのは……気が重くて」


勇者さんは少し考えたあと、俺にこう言った。


「じゃあ、僕らとは別行動でいいからさ。魔界に行くための素材を集めてくれればいいから……それなら入ってくれるかい?」


魔界に入るための門には、9つほど素材が必要らしい。

それよりも、『別行動』……それほどまでに素晴らしい言葉があったとは。


「……よろしくお願いします!!」


マルテに相談するよりも先に、言葉が出ていた。

俺は、腹の中に魔族を飼いつつ勇者パーティに入ることとなった。

ーー黒炎ーー

触れた物を永遠に燃やし続ける、黒が混じった炎を出すスキル。ちなみに大気の魔力も燃やせる。

狙ったところに発火させるのは、なかなかの努力が必要。

現在、マルテの固有スキルとなっている。


魔導書さくいんーー256F・25pーー

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