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1話:付き合ってください!!

……夏。


今年の夏は、ひときわ暑かった。

毎年うるさかったセミくんも、今年は少しばかり減った気がする。

だからだろうか……あんな『異常気象』が起こったのは。



俺の名前は『泡銭(あぶくぜに)富戸(ふと)』、大学2年生の生活をエンジョイしている。ESS(他国の人と英語を使って対話する、部活動の一種)に所属している。

7月8日の午後2時、俺は同じ部活動の先輩に告白する。

俺はそのために、学校の図書館前で待っているのだ。服装も水色を基調とした清潔な服装でいるし、昨日はよく寝た。


「……ごめん富戸くん、待った?」


長く、綺麗な髪を揺らしながら、俺の方へやってきた女性こそが、俺の意中の先輩である。白いワンピースに包まれた彼女を見ていると、思わず胸が高鳴ってしまう。


「こちらこそすいません……こんな暑い日に呼び出しちゃって」


社交辞令のような返答を済ませて、いざ本題を切り出そうかと思ったときに、先輩は俺に言った。


「それで、私に何か用があるのよね……」


……さすが、察するのが早い。

俺は覚悟を決めて、練習していた言葉を口に出した。


「その……」


言いかけたところでどもってしまう。

ああ、ダメだ……

俺の悪い癖だ。どれだけ必死に練習しても、いざ本番となると『臆病者』になってしまう。

一旦空でも見て落ち着こう……そう思って、俺は先輩の後ろの空を見た。


(あれ……なんだ、アレ?)


夏の青空に、オーロラが浮かんでいた。季節外れもいいところだ。俺が知っているオーロラは、そもそも夏には出ないし、日本よりも寒い所で見ることができるはずなんだけど……


「どうしたの?」


俺の動揺を見かねて、先輩が声をかけてきた。

……そうだな、そんなことを考えている場合じゃない。


「……先輩」


俺は自身の恐怖心を掻き消すため、ありったけの声で叫んだ。




「先輩、好きです!!付き合ってください!!」




先ほどまでうだるような暑さが襲っていたのに、言い終わると、穏やかな春の風が俺を包んだ。これが恋の力というものなのだろうか。

……が、いつまで経っても返事が返ってこないので、俺はゆっくりと顔を上げた。


「……え?」


俺が間抜けな声を上げたのには理由がある。

さっきまで学校にいたはずなのに、顔を上げたら青々とした草原の真っ只中にいるからだ。

何を言っているかわからないと思う。だが文句を言うな。俺だってわかってないのだから。

目をこすってからもう一度辺りを見回す。

……変わらない。


「何も変わらないじゃないかぁーーい!!」


なんだ?ここは夢か??それとも振られた(かどうかは知らないが)ショックで参っているのか??

だが、春先特有の暖かい風が妄想であることを否定した。

そして、ズシンズシンという大きな足音と背後から唸るような大声も、妄想であることを否定し……え?


恐る恐る後ろを見ると、馬鹿でかい筋肉質のウサギが、ヨダレを垂らしながら俺の方を見ていた。こんな動物が地球上に存在しただろうか……

そんなことより、この光景を他人(ひと)がみたらどう思うだろう。


……俺ゼッタイ餌やんけ!!


「ウオォォォォォウ!!!」


バケモノから発せられた怒号を聞いて、俺の生存本能が再起動する。逃げなきゃ……俺は辺りを見回し、走って数十秒のところに木々が生い茂っているを発見した。




……自慢ではないが、俺は走りが速いわけではない。

ゼェゼェと息を切らしながら、化け物ウサギから全力で逃げる。しかし、森の木まであと数メートルのところで転んでしまった。

まずい、力が入らない……ああ、ああと情けない声を上げながら、後退りする。

……ふと俺は気づいた。

化け物ウサギが、ある地点から俺の方へ寄ってこない。足もとに生えている草を食べ出した。……その見た目で肉食じゃないのかよ。

じゃあもしかしてコイツ、自分の領域(テリトリー)を守っていただけじゃないのか?

……まあ怖いから、俺は森の中に隠れさせてもらうぞ。





「……暗い」


外から見た限り、木はそこまで生えていないのかと思っていたが、中に入ると予想以上に木々が生い茂っている。

森の中に入ってから数時間歩き続けていたので、夜になってしまった。頼りの綱でもある僅かな月明かりさえも、木々によってしっかりと遮られている。


「なんだろ、アレ……建物か?」


夜になってからもしばらく歩き続けている(あんな化け物どもがいる所で野宿できるわけがない)と、遺跡のような建物を見つけた。

外よりはマシだと思い、外壁に空いていた穴から遺跡内へ入っていった。


「カビ臭いな……管理人とかいないのか?」


頭についたクモの巣を取りながら、遺跡を進んでいく。

真っ暗で、壁を伝いながらじゃないと歩けない。

そんなこんなで、俺は最奥の部屋に辿り着いた。


「あのー、すいません……」


椅子に腰掛けて、後ろを向いている人に話しかけたが、全く反応がなかった。

反対側から顔を覗くと……その人は、骸骨だった。


驚きのあまり、骸骨の頭を落としてしまった。

わかってたんだ。

そりゃあ被ってるフードにクモの巣が蔓延ってたり、埃が被っていたら、つまりそういうことだったんだろう……


「帰ろうかな……」


そう思って出口に行こうとしたが、遠吠えのような声が外から聞こえてきたので、やめておいた。

最奥の部屋の端っこで、眠りについた。

疲れていたし、起きたら戻っているパターンだろうと思ってグッスリ寝られた。






「知ってたよ」


目が覚めた。

カビ臭い臭いや、とてつもなく硬い石畳。まあ元に戻るわけないよねと、その虚しさったらありゃしない。

遺跡の壁の隙間から、太陽光と風が入ってくる。

この明るさなら……と思い、遺跡の探索を続けることにした。


このローブを羽織った白骨死体が、この遺跡の主なのだろうか。

死体の側にある本棚には、ギッシリと本が詰まっていた。

そのうちの一冊を手に取り、表紙をめくる。

……この文字、妙に英語に似てるな。というよりスペルも英語そっくりだ。

ペラペラとページをめくると、『魔王』やら『魔力』やら、読み慣れない単語が複数ある。


「……書き直してみるか」


遺跡の探索よりも、この謎の本の内容が気になってしょうがない。

幸い英語に似ているので、一旦英語に書き直してから、日本語に翻訳することにした。


何時間たったのか、集中力も切れて腹も空いてきた。

昨日の探索で見つけた、白く小さな丸い玉入りの巾着袋をポケットから取り出す。

……なんだろ、これ。

正露丸??e-maのど飴??ブレスケア??

匂いはなかった。

意を決して、一粒口の中に放り込む。噛み砕くと、苦味と甘みと辛み、そしてスースー感が同時に襲ってきた。例えるなら、チョコミントアイスに柚子胡椒をのっけて、抹茶の粉を大量にふりかけたような味わいだ。

……不味い、不味いのだが、腹は膨れる。

そのおかげで、翻訳作業が捗った。


しかし最終的に気づいたことは……『もう、こっちの世界の英語を覚えた方が早い』ということだ。

そして、その日は丸々、こっちの世界の英語(命名:偽英語)を覚えることに費やしたのだった。





その後、2日かけて本棚の本を読破した。

その本でわかったことを紹介しよう。

・この世界には、『魔力』だとか『スキル』だとかが存在している

・なんか大戦があって、『魔族』と呼ばれる種族の大半は『魔界』という場所に幽閉されている

・あと色んな種族がいる(獣人とか亜人とか魔族とか)


……結論としては、ここは異世界である(・・・・・・・・・)ということがハッキリとわかった。


だって地球にあんな筋肉ウサギはいないし、魔界とかないし。

と、ここで白骨死体の足もとにあるタイルが少し浮いているのを見つけた。

そのタイルを押してみると、ゴゴゴという音とともに地下への階段が現れた。


地下へ降りると、そこには……


「う……うそ、だろ?」


俺は絶望した。

見たくないものを見てしまった気がして、身震いが止まらない。

……そこには、あそこの本棚にあった本とは比べ物にならないほどの本が置かれていた。

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