1 二十年目の黙祷
携帯のアラームが鳴った。外はまだ暗い。杉山小百合はむっくりと起き上がった。午前五時。少し伸びをした後、昨晩用意した服に着替える。寒い。エアコンのリモコンのスタートボタンを押す。部屋は段々暖かくなってくる。
顔を洗って基礎化粧品をつけた後、メイクをする。メイクと言っても、ファンデーションを塗り、口紅をつけるだけの簡単なものだ。
布団を畳んで押入れに放り込む。そうこうしているうちにどんどん時間は進んで行ってしまい、あっという間にあの時間が来た。
午前五時四十六分。阪神淡路大震災発生の時刻だ。今日は一月十七日。この日は毎年早起きして黙祷することにしている。今年で二十年。十八歳の高校生だった小百合は三十八歳になっていた。
時計の針が五時四十六分を指すと同時に小百合は黙祷した。
「六千四百三十四人の犠牲者の方々が、安らかでおられますように」
「自然災害が起こったら、この地震で得た教訓を活かせますように」
そして何よりも
「裕美が天国で幸せでありますように」
と強く願った。一分間はあっという間だった。
黙祷が終わるとすぐに池上初子からメールが来た。
「黙祷したよ。裕美のこと、祈った」
小百合もメールを返信した。
「私も。もう二十年も経ったんやね」