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移りゆく町

作者: 中矢 龍侑

 人間の発想は実に面白い。

 私は、丘の上に立つ神社で、神として人間達を見守っている。もう200年もだ。

 特にここ最近は町の発展が素晴らしい。新しい市長がとても有能だそうだ。

 昔は丘の下に人など住んでいなかったのに、この数年で立派な住宅地が出来上がった。

 道が網目のように広がり、駅が増え、ショッピングモールが立ち並ぶ。

 この神社も大規模な工事をし、恋愛成就の神社として宣伝するそうだ。

 私には到底考えつかぬ。200年間、人間達の発想には度々驚かされてきた。

 外が騒がしいのでふと見ると、ちょうどその市長が談笑しながら鳥居をくぐり、こちらに来るところだった。


「少し暗いな。もっと照明をつけて明るくし、夜も気軽に来れるようにしよう」


 なるほど。それは良い考えだ。

 大勢の取り巻きから部下の1人が言った。


「それにしても市長、今やこの町は全国でも有数の都市へと、成長しつつあります。全て市長のお陰です。」


 市長は羽振り良く賽銭箱に札束を入れながら言った。


「私は、ここをもっと大きな都市にしてみせる。昔はこの丘の上のあたりに村があったそうだ。」


「なぜ、こんな使い勝手の悪い所に住んでいたのか...。私がその時村にいたなら、さっさと引っ越して、発展させ、今頃もっと大きな都市となっていただろうに。」


 大勢の部下が笑った。


「おっしゃるとおりです」


 よく見ると私は市長の顔に見覚えがあった。

 市長は200年前、ここに私を呼んだ男の子孫だった。顔が良く似ている。

 私は200年前のことを思い出した。

 あの時、この神社はまだ、男が作った小さな(ほこら)だった。貧しく、賽銭でさえ村人で集め、ほんの少しだけだった。

 男は不器用だったが、真面目だった。

 村人を全員連れてやってきて、その先頭に立ち、たどたどしく神主の代役をしていた。

 私は恋愛成就の神ではないので、誰か他の神に代わってもらわねばならない。

 あっという間の200年だった。ここに来たのが昨日のようだ。

 男の言葉を、今でもはっきりと覚えている。


「数百年に一度の火山の大噴火。その溶岩の最高到達地点を後世に伝え、安全を願い、ここに厄除けの神様を...」


 人間の発想は実に面白い。




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