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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

毒魔法を極めた毒殺剣士、魔法勇者の子孫を支配する 〜全てを殺し、全てを許す世界最強の英雄譚〜 前編

作者: 黒虎猫

 毒魔法を極めた毒殺剣士、魔法勇者の子孫を支配する 〜全てを殺し、全てを許す世界最強の英雄譚〜 の前編です。中編と後編は書きあがり次第投稿していきます。

 夕暮れ時。黒いローブを纏い、顔をフードで覆い隠す怪しげな男が、人通りの多い繁華街を歩いている。

 その男の名は『毒殺剣士』――ラウル・ヴィレール。全てを殺し、全てを許す者だ。


 それだけ聞けば、暗殺者か何かだと勘違いするかもしれないが、ラウルはただの冒険者である。

 毒魔法しか扱うことが出来ないから、せめてもの足掻きで、『毒殺剣士』と名乗っているだけに過ぎない。


 ただ、全てを殺し、全てを許すということに関しては、間違いとは言い切れない部分がある。

 そして、今からそれが実行に移される。


 今回のターゲットは、成人していないラウルよりも若い少年二人。

 何故、彼らがターゲットに選ばれたのかと言うと、ある少女がストーカーの被害に遭っているためだ。


『――誰かに見られている気がするの』


 その言葉は昨夜、ラウルの妹――イリヤ・ヴィレールに相談されたものだ。

 それを聞かされたとき、ラウルは『よし、殺そう』と決意したのである。


 何故、ラウルがそう思ったのか。

 それを説明するには、一つの単語だけで十分だ。

 

 何を隠そう、ラウルはイリヤのことが大好き過ぎて、妹のためなら何でもやってしまう、重度のシスコンなのである!


 ラウルの行動理由はそれだけしかいらなかった。


「……イリヤを怖がらせたこと、後悔させてやる」


 フードの下で、口元を歪ませる。

 今までは決まった間隔で、少年達の後ろを歩いていたが、作戦を決行するために近づいていく。

 次第に、少年達の会話がラウルの耳にも入るようになり――


「――ヴィレールって、めっちゃエロいよな」

「わかる。胸とか特にやばい。でも、噂では着痩せするタイプみたいだよ?」

「マジ? あの大きさで? ヴィレール、脱いだらどれだけやばいんだろ」

「見てみたいよね」

「それな〜」


 ラウルは額に青筋を浮かび上がらせ、険しい表情をしていた。鬼の形相とはこのことで、少年達を見る目が、捕食者のそれであった。


 生かす価値無し。そう決めたラウルは、少年達の肩に触れた。その際に、魔力を犯して身体を動かせなくなる《麻痺毒》を流し込む。即効性であるため、今にも動かせなくなる。


「なあ、武器屋ってどこにあるかわかるか?」


 殺すことは決定事項でも、初めから敵意を剥き出しというのは、怖がらせるだけで無意味である。

 イリヤをストーカーすることが、いかに愚かなことであるかを教えなければならない。

 少年達はラウルの声と姿にビクッとしたが、安心を誘う優しい声音のお陰で平常心を保てたようだ。


 しかし。


「武器屋なら、このまままっすぐに進――」


 道案内をしようとした片方の金髪少年――モールスは、話している最中に全身から力が抜けてしまったのか、足から崩れるように倒れた。

 

 もう一方の灰髪少年――ブロアもまた同様に倒れる。

 ラウルは彼らが着ている魔法学院の制服の襟を掴み、すぐそこまで来ていた路地裏に入る。


 ここまで来れば一安心だが、誰かに姿を見られることはないように、さらに路地裏を進む。


「……ここらでいいか」


 もう繁華街の通りからはかなり離れているため、姿が見られる心配はない。

 それに、無抵抗ではあるが、少年二人を引きづるのは、単純に面倒だったのだ。


 ラウルは少年達を壁にもたれかからせるようにして、首だけを動かせるようにした。

 

「これから質問することに必ず答えろ。答えなければ、殺す。『はい』なら首を縦に振り、そうでなければ横に触れ、いいな?」


 少年達は首を縦に振る。それも、首がもげそうになるぐらい激しい。

 しかし、そうなるのも納得がいく。首以外の自由をラウルに握られているだけではなく、このままでは本当に殺されると理解しているのだ。

 

「お前らは、イリヤ・ヴィレールという女の子を知っているか」


 少年達は『知っている』と答えた。


「お前らは、その子をストーカーしているか?」


 少年達は『している』と答えた。

 だが、悪いことをしていると自覚しているのか、バツが悪そうにしている。


「お前らは、その子が好きか?」


 少年達は『好き』と答えた。しかも、潔い。


「お前らは、その子を守りたいか?」


 少年達は『守りたい』と答えた。嘘偽りのない返答のように思える。


「……わかった。命だけは助けてやる。だが、決して許すわけではない。お前らが俺の可愛い可愛い妹をストーカーしたことは万死に値することだからだ。そのことを忘れるな」


 少年達はブンブンと首を縦に振った。


 これで少年達はイリヤをストーカーすることはないだろう。そう思ったラウルだったが、聞かなければならなかったことを思い出し、最後の質問をした。


「お前ら、イリヤのことをエロい目で見ているのか?」

 

 ……返答はない。目が泳いでいるのが丸分かりなため、答えは分かり切っていた。


「殺すぞ、お前ら」


 ブンブンブンブン! と首を横に振る少年達。

 よほど死にたくないのか、とても激しい。脳震盪を起こしそうだ。それに、酔いそうである。


 ラウルは一つため息を吐くと、口を開く。


「殺されたくなかったら、強くなれ。強くなって、イリヤを守れ。……そうすれば、イリヤに紹介してやらんこともない」


 嘘である。前科のある者をイリヤに紹介するわけがない。だが、少年達は本気なのか、首を縦に振っている。今までで最も激しく、一番気持ちが乗っている。

 どうやらやましい気持ちだけでイリヤのストーカーをしていたわけではないようだ。


 ラウル的には、ストーカーしていたという事実が、既にアウトなのだが。


 ラウルは《麻痺毒》を無効化し、最後に聞いた。


「お前らの名前は?」

「モールス・ブライドです」

「ブロア・モルシェです」

「モールスとブロア……か。覚えたからな」


 名前を聞いたのは、念のためである。

 今後また、イリヤに不利益なことをした場合、社会的に抹殺出来る様にするためだ。


「そういや、お前ら魔法抵抗力低くない? ウンディーネ魔法学院の生徒だろ?」


 少年達が着ている服装は、白が基調で青いラインが入っているウンディーネ魔法学院の制服で間違いない。胸の辺りにはウンディーネ魔法学院を象徴するエンブレムがついており、見間違えることなどありえない。


 それに、イリヤもまたウンディーネ魔法学院の生徒であり、ラウルは毎日制服姿を見ているのだ。

 その姿を忘れまいと目に焼きつけているため、すぐに思い出すことができる。


「イリヤが伸び悩んでいるのがその学院のせいなら、校長に直談判しなければならないからな」

「……ウンディーネ魔法学院は、魔力至上主義です。だから、俺達のような魔力値の低い人間は、まともな教育を受けられません」

「ヴィレールさんも、僕達と同じ扱いを受けていて……虐められています」


 モールスが言っていることは事実である。

 ウンディーネ魔法学院というか、その学院を運営する校長が魔力至上主義の人間だ。


 その校長は名のある魔法士であり、自分のような才能のある魔法士の卵にだけ力を注ぐという、教育機関としてあるまじき方針を取っている。


 それに加えて、言いにくいことながらも、ブロアがイリヤもまた自分達と同じようにまともな教育を受けられていないと言った。

 それも、虐められているとも。


「……本当なのか? イリヤが虐められているというのは。嘘だったら承知しねぇぞ?」

「本当です! 俺は嘘を言っていません! それに、俺達――魔力値が低い平民はヴィレールさんを庇っています」

「――でも、英才教育を受けてきた貴族からは……酷い扱いを受けています」

「……そうか。なら、殺すしかないな。主犯は誰だ?」

「「――魔法勇者の子孫、マギナ・オールストンです」」


 基本的に、モールスが言ったことの補足するような形でブロアは発言する。

 しかし、これだけは言いたかったのか。モールスとブロアの声が被った。

 それほど、マギナ・オールストンという人間から酷い仕打ちを受けているのだろう。


 二人の表情は真剣なもので、ラウルは『そこまでなのか』と悟った。とは言っても、相手が魔法勇者の子孫なら、迂闊には手を出せない。

 何より、毒魔法が通じるのかわからない。

 もし、本当に魔法勇者の子孫であるならば、魔法抵抗力は凄まじいものだろう。


 手を出すなら、万全な準備をしてからになる。

 

「わかった。俺がどうにかしてやろう。お前らは、お前らの出来ることをやれ。……そして、お前らがイリヤを守れ。いいな」

「わかりました。俺、強くなります」

「強くなって、ヴィレールさんを幸せにします!」

「あぁ? 誰がお前らになんかやるか。イリヤはな、お前らが幸せにしなくても、一人で幸せを掴めるんだよ!……それじゃあな、モールス、ブロア」


 ラウルは少年達に背を向けて、歩き始めた。

 作戦を何事もなく終えて、姿を隠す意味が無くなったため、ラウルはフードを脱いだ。


 今まで見えていなかった、この世界では珍しい黒髪が露わになった。瞳は髪と同系色で、深い闇のようである。見た目だけで言えば、『毒殺剣士』というのも格好がついてしまう。


 ……本当は、毒を操っているだけなのだが。

 ただし、毒の扱い方は一線級で、ラウルの右に出る者はいない。

 

 ラウルは、早く帰ってイリヤとイチャイチャしたいと思っていると、後ろから声をかけられ、振り向く。


「ヴィレールさんのお兄さん、お名前は何というのですか?」

「教えてください!」

「俺か? 俺は全てを殺し、全てを許す。世界最強の『毒殺剣士』――ラウル・ヴィレールだ」


 そう告げて、ラウルは歩いて行く。

 その後ろ姿を、モールスとブロアの二人は見えなくなるまで眺めているのだった。

 お読みいただきありがとうございます。

 中編は一週間後には投稿出来るように頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすく、最後までスムーズに読めました。主人公のこれから活躍が楽しみです。
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