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ジンライム

作者: 桃色豹

人の人生ってそれ自体が物語だと思うんです。

その人の人生の中ではその人が主人公。

ってことは日常の些細な事だって

書き起こせば立派な小説になると!

そうおもいませんか!?

グラスの中の氷が『カラッ』音を立てながら鼻の頭を冷やす

さっきまでのライムの香りも

いつのまにか遠くへ行ってしまい

またしても鼻の奥の方がジンジンしてくる

自分で自分の頭を一発殴り

重い腰を上げてキッチンへ向かう

最後のジンライムを作るために



瑞穂は変わった子だった

もちろん普通がどんなものかがわからない以上

彼女を変わっていると形容するのもおかしな話だが


初めて僕の部屋にやってきた瑞穂の第一声は

『くさい』だった

別に部屋を掃除してないとかそういう類の臭いではない

きっと好んで吸う『ハイライト』と

毎晩飲む『ジャック・ダニエル』が僕の部屋全体を覆っていたからだろう

こればかりは生活のスタイルみたなものだから仕方が無い

そう言うと瑞穂は次の日の夜

一本の綺麗なブルーの瓶と小さなビニール袋を下げてうちへやってきた

テーブルに広げたのは『ボンベイ・サファイア』と『ライム』3つ

『あたしウィスキーよりジンライムのほうが好き』

そう言うと戸棚の手前に置いてあった『ジャック・ダニエル』を奥へ追いやり

代わりに今買ってきた『ボンベイ・サファイア』のブルーの瓶をそこへ並べた

つまり僕の生活スタイルなど全く無視というわけだ


瑞穂の作るジンライムは変わっていた

居酒屋なんかでよく出てくるライムジュース割りではなく

ロックグラスにジンを注いで、4等分にしたライムを搾って投げ込む

実に適当…もといシンプルなカクテルだ

絞ったライムを投げ込むせいで、少しだけライムの皮の苦味があったが

瑞穂は好んでこのジンライムを僕の部屋で飲んでいた

彼氏と飲めばいいだろと言うと

『2人でいるときはその内容禁止』

といつもの切り替えしが返って来る

そう、僕らは付き合っているとかそういう関係ではない

だけど友達でもない、いや、もうそんな関係には戻れない

夜中に部屋でお互い好きな酒を飲み

朝まで互いの存在を確かめ合う関係

世間では浮気って呼んでるそうだ

だから瑞穂が僕の前から姿を消すのも必然だったのかもしれない


互いにこのままではいけないと思いながらも

そう思うほどに不思議な力で引き寄せられていくような感覚

抗うことは難しかったし、そんな気もなかったのかもしれない

情けないと解っていながらも

そんな状況に満足し始めていた


ある日部屋に戻ると

ドアのポストの中に見覚えのあるキーホルダーのついた

この部屋の合鍵が入っていて

ダイニングのテーブルの上にはライムが1つ置いてあった

ライムの下にはメモが挟んであって

控えめな丸い字で『ごめんなさい』とだけ書かれていた


瑞穂なりに考えて出した答えだったのだろう

でもテーブルに残された『ライム』と

戸棚の中の『ボンベイ・サファイア』だけが

瑞穂の影をしっかりとこの部屋に留めていた


どのくらいそうしていただろう

メモとライムを握ったまま

ただ戸棚のブルーの瓶を見続けていた

ふとそのブルーに吸い込まれるように動き出す

まるで瑞穂の動きをコピーしたかのように

ジンライムを作りはじめていた

ゆっくりと

そこにいる瑞穂の影に自分を重ねるように


出来上がったジンライムは瑞穂の作るそれとは

少し味が違っていた

同じ材料で同じように作ったのに

なんでこう微妙な香りだとかに違いが出るのか

不思議ではあったが少し安心した

もし自分で作ったジンライムが

瑞穂のそれと全く同じ味だったなら

毎晩ロックグラスにジンライムを注いで

これからもずっと瑞穂の影を追い続けていたかもしれない

なんの根拠も無いが、素直にそう思った


冷蔵庫にはひとかけらの『ライム』

テーブルには残りわずかになった『ボンベイ・サファイア』

これもきっとあと数分で無くなってしまう

そしたらきっと僕はいつものように

『ハイライト』を吹かしながら

ロックグラスの中の『ジャック・ダニエル』を揺らすだろう


ただそこにはもう

瑞穂の影は無い


大好きだった人と離れて

『早く忘れなくちゃ』とか

『忘れられるわけない』とか

いろんなコトを言う人がいる

でも実際大好きじゃなくたって

忘れるって難しい


ただ

今までは意識しなくてもその子のことばかり考えていたのが

ふとした瞬間に思い浮かぶようになり

意識しないと頭に浮かばなくなり

笑った顔を細かく思い浮かべられなくなり

声を断片的な台詞でしか思い出せなくなり

頭の中の曖昧な情報をその人だと思い込むようになる


もしかしたら

これを『忘れる』って呼ぶのかもしれない

だとしたら俺は

『1度好きになったのに忘れられるわけ無い』

とか言っておきながら

今まで出会った沢山の人達を

忘れ始めているのかもしれない


もしそうだとしたら

なんて愚かで

なんて未熟で

なんて卑怯な生き物なんだろうって


そんなくだらないことを考えている俺は

とんでもなくちっぽけな奴で…






ってはっ!!

どんな後書きだよw

いやいや自分の作品に酔ってました

うん

人と人の関係って難しいものです

未熟であるがゆえに

いろんな経験をすることができる

それが間違ってたかどうかなんて

そもそも間違いとか正解とか誰にも解らないんだから

考える必要ないんじゃないかな?

未熟であるがゆえに起こしたコトを

未熟な自分が判断して…

なんかおかしいでしょ?

後で悔いるから『後悔』って言うんでしょ?

じゃぁいいじゃん

たった1度の人生

1度も後悔しないより

いっぱい後悔しましょう

せっかく生きてるんだから☆

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