【短編版】ホームパーティーに誰も来なくて、冷めた手作り料理を孤独にモソモソ食べる魔王様『……そうだ! 王国軍に一般入隊して魔族を滅ぼそう!』
我が名は深淵の暗黒王。
この世界の半分を支配する魔族達の長──魔王である。
日々、人類に絶望を与えるために、ジワジワとなぶり殺すように狂乱を楽しんでいる。
くくく……部下の魔将軍たちは、残虐非道にして一騎当千! 彼らは良くやってくれている!
血湧き! 肉躍る! 饗宴を催して労ってやろうではないか……ッ!
「ねぇねぇ、ちょっと我の実家で饗宴するんだけど来ない?」
「え~……魔王様、急になんですか……」
ここは魔王城。
鳥人の魔将軍グゴリオンが不満そうな声をもらしている。
「……気を遣わなくて良いよ。無礼講だからね?
一週間後の夜7時なんてどうだろう? あ、もちろん時間調整はするよ!
それに魔将軍お肉ばかり食べているから、家庭菜園で育てたお野菜を使った手料理もいっぱい……」
「あ……っ、はい。行きますね……チッ」
……しぶしぶ了承してくれた。
ま、まぁ上司からのお誘いって緊張するかもしれないし、ここは4000歳は年上の我がガマンしないとね!
そんな調子で直接、魔将軍たちを誘っていく。
異界から持ち込まれた魔術板とかいうもので『めーる』だか、『らいん』だかよくわからないが連絡を取れるらしいが、我は教えてもらっていない。
もちろん、いつ誘われてもいいように『すまほ』の勉強はしている。
今、流行の『がちゃがちゃ』とかいうピコピコもマスター済みだ。
「あ、そうそう。このピコピコでガチャガチャを引いたんだけど、全然レア? というのが出ないね。ははは」
「え? 魔王様レア引けてないんですか?」
「そうなんだよね~。あまり課金というのをしてないからかな」
「うっそー? 俺っち、無課金でレア引いちゃいましたよ?」
まじか。実は我、隠れて結構引いたのに……。
「そ、そうか。おめでとう!」
「ありっす。まさか無課金でちょっと引いただけで同じレアが5枚も出るなんて。もしかして魔王様、ガチャ下手なんじゃないっすか?」
確率に上手いも下手もあるのか……?
我が流行に遅れているだけなのか……?
「と、とりあえずホームパーティーの日にちは忘れないでね」
「あ~……はい。行きます、魔王様のお誘いなら絶対に行きますってぇ!」
謎の新たな悲しみを抱えてしまったような気もするが、料理をして気を紛らわそう。
何を作ろうかな?
やっぱりみんなの健康を気遣って、愛情を込めての手料理は楽しい。
一週間もあるのだから、下ごしらえする時間もたっぷりあるぞ!
当日が楽しみだ!
* * * * * * * *
「ふぅ、張り切りすぎてしまったか」
ここは我の実家。今は1人で住んでいるから広すぎるかも。
洗い立ての白いクロスがかけられた、大きめの長テーブルの上に載る大量の料理。
モンスターである魔将軍ひとりひとりの生態にあわせた素材や調理方法。
身体に良いお野菜も沢山いれておいた。
もちろん、まだ2000歳くらいの若い食べざかりもいるので肉料理も用意しておいた。
下ごしらえをしまくったので、肉もトロットロの柔らかさだろう。
今風の新しいパーティーレシピも勉強して、流行を取り入れてみたけど気に入ってくれるだろうか?
でも、一番食べて欲しいのは我の故郷の料理だ。
芋と山菜を煮込んだ素朴なお袋の味。
これを食べてみんなに家族のように想ってほしい。
そして一致団結して人間達を──。
おおっと、そうそう。誕生日が近い魔将軍もいたので、でっかいケーキも作ってみた。
きっと『ウェディングケーキかよ!』とビックリするだろうなぁ。ふふ。
年甲斐もなくテンション上がってきちゃって、パーティ用のカラフル紙三角帽なんてかぶっちゃってるぞぅ。
「あれ……もう約束の7時を過ぎているな……。みんなに時間を伝え間違えちゃったかな?」
コチコチと鳴る時計。
広い部屋で料理に囲まれながら、その微かな音だけが響き渡る。
「もしかして、よくある火山噴火かな? いや、でもそれくらいならあいつら平気だよな……」
コチコチ、コチコチ。
時計の音が無情にも時間の進みを教えてくれる。
「そ、そうだ! 電話番号なら知ってる! すまほで、かけてみよう! 指令用の念話なんて無粋だしね!」
ちなみに我の身長は3メートルで、よくあるドラゴン英雄譚の後半魔王っぽい外見なので、すまほは小さすぎる。
小指の先でちょいちょいと操作をする。
プルルルルルと呼び出し音が鳴った。
『もしもーし』
「あ、我我」
『げっ、もしかして“我”ということは魔王様?』
「うん、我。今、なにしているの? 楽しいホームパーティー始まっちゃってるよ」
まだひとりだけど。
『あ~……。すません、急用が入ってしまって……』
「え……?」
『えーっと、兄貴の嫁の妹の卵が孵化して、急いでこいっていうのでどうしても外せなくて……』
「あー、うん。あるよね。竜族は卵の孵化。うん、あるある」
魔将軍の兄の嫁の妹の子供が増えるとなれば、それはもう我の家族も同然だ。
祝いはするが、それを咎めるなんてとんでもない。
「それなら後でお祝いを包まないと──」
『あ、平気なんで! じゃ! 切りますね!』
プツッと、すまほの通話が途切れた。
「そっかー……うん。それじゃあ他の魔将軍はどうかな」
──その後。
誰も彼もが急用。
魔界風邪の看病。勇者と遭遇。間違ってワープ装置にのってしまった。あげくには毛の生え替わりが早まったとか。
ラスト1人に電話をかける。
「もしも──」
『あ、ムリッス! 手が離せないんで!』
「そ、そうなんだ……。まぁ、別に強制じゃないしね……うん……」
『じゃ、切りますね!』
ダメならダメで諦めが付く。
もしこの雰囲気で二人きりになってしまったら相手も気まずいだろう。
そうだ、これで良かったんだ……。
──と、その時。
切り忘れていたらしい電話の向こう側から、誰か別の声が聞こえてきた。
『電話なんてしてないで、早くグゴリオンさんのホムパ行こうぜぇー!』
ホムパ……?
ホームパーティーのことだろうか?
魔将軍であるグゴリオンは、一週間前に我のホームパーティーに誘っていたはずだ。さっき急用で断られたが。
『ったく、ださいおっさん魔王のホムパなんて誰が行くかってんだよ。やっぱパリピはグゴリオンさんっしょ!』
『ウェーイ! 酒も可愛い子も用意してくれるグゴリオンさん最高!』
『でも、一応は魔王様のホムパなんでしょ? わざわざ後から潰すような行動を取ったグゴリオンさん平気なの?』
『だいじょーぶっしょ。魔王様以外は全員連絡取り合ってるし、口裏合わせも完璧! 誰があんな6000歳のおっさんの加齢臭なんて嗅ぎに行くかよ!』
そこまで聞いて、我はスマホの通話を切った。
「……我、加齢臭するのかな」
小さな呟きと共に、ひとりで料理が並ぶテーブルに着席した。
もう冷めてしまった料理を孤独にモソモソと食べる。
……ひとりじゃ食べきれないなこれ。
冷凍できるものは冷凍して、他は明日の朝ご飯と、お弁当に詰めようかな。
それでもまだ残っちゃうな。
たはは……作り過ぎちゃったかな……張り切り過ぎちゃったかな……。
あれおかしいぞしょっぱいぞ、視界がユラユラ滲むぞ。
うぅぅ……。
チクショウ……チクショウ……ッ!
「ウオォォーッッッ!!」
涙、感情の爆発と共に、長テーブルのすみをガッシと掴んだ。
そして、それを真上に放り投げる。
長テーブルは砲弾のように急上昇して、天井を突き破って戻っては来なかった。
「……そうだ! 王国軍に一般入隊して魔族を滅ぼそう!」
* * * * * * * *
数日後。
我は魔王──深淵の暗黒王あらため。
辺境の村出身のオウマ・ブラオカとして人間に化け、王城の兵士として入隊した。
勇者の小娘とも仲良くなってしまったのは、また別のお話。
とにかく信頼を勝ち得てから、王と謁見する機会を得られた。
無駄に広い王の間だ。
王の腹心達がこちらをいぶかしげに見ている。
「王よ、進言致します」
「なんじゃ。貴様は飛びきり優秀な新兵という噂のブラオカか。勇者からも話を聞いておるぞ」
本当は目立ちたくないために手加減していたが、それでも人間にとっては優秀という評価らしい。
「我が嗜む占星術で、あることがわかりました」
「ほう、申してみよ」
「はっ! 一週間後、魔族本拠地に隕石が落ちます」
落ちると言うより、我が初級魔法『流星滅殺魔群』で落とす。
「い、隕石とな?」
そしてそこからのプランも、誰よりも魔族に詳しい魔王の知識を使って考えてある。
「それにより魔族は混乱するでしょう。
その隙に攻め入ってやつらを壊滅させましょう。
残党処理も大切です。
避難場所も先読みして潰しましょう。
男性魔族のみに効果のある精巣破壊の病魔も放ちましょう。
それとあの地形は、火山や川の氾濫を利用して産卵地を破壊すれば、さらに効果的な──」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! 確かにそなたが言うのならそうなるのかもしれないが……。ええーい! み、皆の者。席を外せ!」
王の腹心達は、こんな新参者と二人きりにして良いのか? という表情をするも、王の命令なのでしぶしぶ退室した。
これでこの場にいるのは我と、人間の王のみになった。
「い、いいか? ここからは内密にするのだ。我々は魔族と数千年にも渡る戦争をしてきた──」
「ふむ、王はあの忌々しい魔族を殺したいのでは? 特に魔将軍とか魔将軍とか百回くらい殺したいのでは?」
「いや、魔将軍とかは直接知りもせんし……。と、とにかく! ここまで長引いた戦争のおかげで経済は、戦争がなければなりたたなくなっておる! モンスターがいなくなったらギルドは、武器屋は、その他諸々の商売はどうする!?」
「そうですね──」
「わ、わかってくれたのか」
「では、魔族を滅ぼしましょう。隕石が落ちたあとなら二日……いや、一日で皆殺しが可能と計算が出ています」
何故か頭を抱える人間の王。
「わ、わかっておらん……。ブラオカ、そなた全然わかっておらん……。優秀なだけにタチが悪い。──そ、そうじゃ!?」
「むむ?」
「す、すぐ殺してしまっては、魔族も苦しみが少ないであろう?」
「たしかに」
「そこで魔族に絶望を与えるために、じわじわとなぶり殺すように楽しもうではないか!」
「たしかに……っ!!」
こうして魔王様による、ゆっくり魔族滅亡が始まった!
【連載版投稿しました。プロローグは短編と同じで、新規となる1話目は2017/12/28日に投稿予定です】