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01勇者育成所始めました

「じゃ、そういうわけなので、カニャさん、これから【勇者】学校のマスター(先生)ね。」


目の前のパフェを夢中でほおばっていた金色の髪の少女は、ふと、こんな言葉を投げかけられた。


「はい?」


口に含んだスプーンもそのままに、一体何の話ですか?と、


少女にはやや大きめの木製の椅子。そこにちょこんと腰掛けたままの姿勢で、

少し左側に小首を傾げ、きょとんとする仕草は小動物を思わせる。


その姿が愛らしく映るのは、きっとテーブルを挟んで優美に腰をかけているこの目の前の男だけではないはず。


年の頃は、11.12才程の少女。

ウェーブのかかった金色の髪に、フリルの付いたふわふわのピンク色の洋服が良く似合う。

胸元の赤いペンダントとおそろいの、ルビーのような透明感のある目はいっぱいに見開けられ、


話がのみ込めず、口をパクパクさせ始める。



・・・あれ?今まで、このパフェはおいしいねとか、

お前の食べている姿を見るのはとても幸せな気分になるとか、

そうそう、実は、その天辺てっぺんに乗かっていた、青い星型の果物は、

魔法でちょっとした毒になるんだとか・・・とか・・・。


そんな話・・・だったような・・・。



(勇者・・・?学校・・・?何だろう、とっても嫌な予感がする・・・。)

(こう何か分からないけど、私の本能がNO!って言っている気がする!)

(ダメ!カーニャ、聞いちゃダメだ!!この人の話は聞いちゃいけない!!)


(それよりも、このトロピカル☆スターダストパフェはおいしいよね!!

 うん、おいしいよ!! 次は何を食べようかな? 

 そーだケーキ!!タルト!!マシュマロ〜〜〜〜〜っ!! うふふふふっ)




・・・今は、昼下がりのうららかな時刻。




人々のにぎわう大通り。ここは王都セントラル。そしてその中心。

道沿いのカフェテラスのテーブルには大好きなお菓子と甘〜いジュースのフルコース。

時折、いたずらな風が吹き、ウエーブのかかった少女の髪をふわりとなびかせる・・・。



「・・・ああ、なんて爽やかな風。

 

 この風に流れるあの空の雲はきっとふわふわ〜の綿菓子ね・・・。」

 

(うふふふふっ)


 意図的に、意識をはるか彼方に飛ばす少女。





「・・・・・・はっ!!」




一瞬、夢の国の入り口が見えて、もういっそ、そのまま入ってしまおうかと思う自分を踏み止ませた。


(・・・ちがうちがう、そうじゃない・・・。)


(・・・どうせ話を聞かなくても、きっと私は頭数に入っているに決まっている・・・。


 な、なら、聞いておいたほうが賢い、よね?・・・今後の自分の為に・・・!!)



そう、心の中で自分に言いきかせ、

すぅ〜、はぁ〜。

と、手早く呼吸をし、目の前の男に話を聞き返す。



「マ、マオ様・・・?勇者とか、ど、どういう事ですか?」

(まさか、本当に「勇者を育てる」なんてことは無いよね・・・?私の聞き間違い・・・だよね・・・。)


と、懇願にも似た眼差しを向け、目の前の男の言葉を待つ。




「うむ。勇者を育てるのだよ。」

ビロードのような深く滑らかな声。落ち着きの有る響き。


肩にかかるかかからないか程度の、闇を思わせる漆黒の髪と瞳。

その全てが闇で支配された男は、このカニャと呼ばれた少女の連れ。


そして、この男のなんと軽やかな笑顔である事だろうか・・・。



「・・・・・・。」

(ああ・・・やっぱり、聞き間違えじゃ、なかったよね・・・。)




「勇者学校を経営するのだ。そして対魔王用、勇者の育成に専念せよ!」


と、少女の困惑もそっちのけで話を進める始末。





(・・・!!)




「ちょ、ちょっと、待ってください!マオ様・・・!」


少女は何かを思い出したのか、ダンッ!と勢いよく音を立て両手をテーブルに押し当てた。

そのまま少し身を乗り出す体勢で、マオに詰め寄る。



「【勇者】って何だか知っていますよね?」

「無論だが?」


詰め寄るカーニャとは対照的に、椅子に体を預けたままのゆったりとした姿勢のままのマオ。

「【勇者】は【魔王】を倒す。それ以外に何かあるのかね?」




そんなマオの様子に多少の不安がよぎり、カーニャは恐る恐る、マオに尋ねた。


 「マ、マオ様・・・。 貴方は自分が【何者】であるか、  

 まさか、(わざと意図的に、ぽっかりと)お忘れではない・・・、ですよね・・・?」


「やれやれだな、カニャさん。僕は僕以外の何者でも・・・・・・。」




「・・・・・・・・・・・・・・。」


始めは、マオの沈黙。


「・・・・・・・・・・・・・・。」


そして次はカーニャの沈黙。



しばしの沈黙の後・・・、

マオは「ふむ。」と短く返事をし、右手を軽くあごに当て、何か考える様なそぶりを見せた。



(はっ、ど、どうしよう・・・。この人、もしかしなくても、忘れていた・・・!!)

一瞬血の気が引いたような、感じがした。



(いいや、違う、この人のことだ、自分の立場を忘れるなんて事はありえない。絶対に。)

今度は、大きくかぶりを振ってみせる。



(・・・むしろ自分の立場をフル活用する人だ!!)

今までの苦労を思い出したのか、怒りにもにた感情さえ、溢れて来る。




目の前で、顔を青くさせたり、赤くさせたりするカーニャのそんな様子を見て、マオは上機嫌に喉を鳴らす。

ゆったりと持たれかっかっていた椅子から音も無く立ち上がり、マオはカーニャの横まで歩み寄った。


未だに一人百面相を披露しているカーニャは、マオが自分の隣まで来ている事に気付く余裕はなさそうだ。



「嬉しいよ、カニャさん・・・。そんなに喜んでくれているなんて。」


とカーニャの困惑などお構いなしに、そのまま覆いかぶさるように抱きつく始末。


道行く人々には、それは微笑ましい兄と年の離れた妹、もしくは父と子の抱擁・・・、

に見えたに違いない。



そして、その抱きついたままの姿勢で、


「それに・・・。

 【僕(魔王)】が【勇者】を育てる・・・。 とても素敵なことじゃないか

 ふふふ・・・・。」


と、マオはポツリとつぶやきながら、恍惚の笑みを浮かべた・・・。





ファンタジー大好きです。今後、カーニャが苦労しまくります。さて、次回はのんきに博物館見学で浮かれるカーニャですが…。

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狐の森
作者のゲーム作成サイト
「魔王が勇者育てました(仮)」経営ゲーム作成中です

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