第九話~VSゴブリンキング~
僕が叫ぼうとした瞬間、ぴょん吉も跳んだ。
何本かの毛がはらはらと舞う。
開けた場所に出てきたためそいつの姿が明らかになる。
見た目は普通のゴブリンだ。ただ、さっきの奴らよりも体が大きい。
さらには装備が違う。
さっきまでの奴らが木の武器を使っていたのに対して金属の武器。
雑に作られた毛皮の服に対してきちんと仕立てられ実用的になっている防具とも呼べるもの。素材もランクが上がっているようだ。
ゴブリンアサシン lv9
hp1060 mp1060
sp340
atk178 def106
int106 min106
dex106 agi308
ただのゴブリンじゃないのか!?ゴブリンの上位種ということか。
それにしてもagiでぴょん吉を上回るとは。
ぴょん吉はアサシンと向き合っている。
確かに、自分より速く動ける相手に対してこちらから仕掛けるのは悪手だ。
妥当な判断だと言える。
・・・相手が一匹だったのなら。
ぴょん吉の周りから突然気配が現れる。ぴょん吉めがけて矢が何本も飛んでいく。
さすがに避けきれず嵐脚を使って迎撃している。
オリジナルスキルも再び発動済みだ。
そこにいたのは50匹くらいのゴブリンの集団。
さっきよりも数は減ったが・・・それぞれの力がさっきとは段違いだ。
さっきの百匹は高くてもレベル15、低ければ5くらいの奴もいた。
今度は最低でもレベル15、そして四十匹近い上位種、さらにはゴブリンキングまでいる。
ゴブリン lv17
hp1220 mp1220
sp1220
atk122 def122
int122 min122
dex162 agi141
ゴブリンソードマン lv12
hp1660 mp1440
sp1900
atk319 def144
int144 min144
dex144 agi249
ゴブリンシールド lv6
hp1760 mp840
sp1060
atk145 def200
int106 min150
dex106 agi106
ゴブリンアーチャー lv7
hp1260 mp1260
sp1260
atk171 def112
int112 min112
dex194 agi165
ゴブリンメイジ lv11
hp1580 mp2020
sp1140
atk136 def136
int433 min169
dex136 agi136
ゴブリンヒーラー lv10
hp1700 mp1700
sp900
atk130 def130
int313 min222
dex130 agi130
ゴブリンナイト lv8
hp1660 mp1660
sp1660
atk226 def198
int166 min166
dex166 agi186
ゴブリンジェネラル lv13
hp2780 mp2780
sp2780
atk368 def318
int278 min278
dex278 agi302
ゴブリンキング lv8
hp3570 mp3570
sp3570
atk447 def369
int447 min369
dex357 agi390
強っ。素の状態のぴょん吉のステータスに匹敵するのが何人も。キングに至っては、オリジナルスキルを使ってさえ勝てるかどうかあやしいところ、といったところか。
〈相手の数はゴブリン×10、ソードマン×3、アーチャー×3、メイジ×4、ファイター×2、シールド×2、ヒーラー×1、アサシン×1、ナイト×16、ジェネラル×4、キング×1、です。〉
セカさん、細かい報告ありがとう。とはいえ、分かったことと言えば僕では本格的にどうしようもないってことくらいか。
ぴょん吉はまだ動かない。いや、動けない。
ここで何も考えずに動けばすぐに死ぬ。
ここは逃げるべき場面だ。
実力にそこまでの差がない相手50匹に加えて百匹との戦闘の疲れは取れてはいない。
くそっ。本来、ぴょん吉だけなら逃げられるのに。
ひょっとしたら子うさぎちゃんを背負ってさえ、逃げきれるだろう。
正面から戦わなければユニークスキル使用時のぴょん吉なら逃げるくらいはできる。それをしないのは僕のせいだ。
僕というお荷物があるがゆえにぴょん吉はその行動をとれない。
くそう。
僕にもこんな状況で使えるオリジナルスキルがあれば・・・。
「ゴガアアアア!!」
キングが吠えた。
それと同時に他のゴブリン達も動きだす。
いくつかの矢と魔法が飛び交う。
半分はぴょん吉へ、もう半分は僕の方へ。
ぴょん吉の体が強張る。そして、自分の方に来ていない攻撃まで迎撃している。
こいつら、僕らを人質にしてやがる!
その攻撃を見ていた僕にはそれが当たらないことが分かった。
そして、なんでそんなことをするのかも。
さっきからぴょん吉は防戦一方だ。
2方向からの遠距離攻撃。遠距離攻撃に対してぴょん吉は常に気を配らなきゃいけない。ゆえに、僕らの前を離れるわけにもいかない。
だから、ぴょん吉は遠距離攻撃という選択肢しかなくなる。
いかに、ステータスで勝っていようとこれではジリ貧だ。加えてぴょん吉の嵐脚もシールドやソードマンによって弾かれダメージを与えることができない。
詰んでる。そう思っても仕方ない状況だ。
ここまでの作戦を考えてるなんて。
あれ?ならなぜ子うさぎちゃんを優先的に狙わない?
ゴブリン達にはこの光が見えていないのか?
とりあえず、回復したmpを使って蛍火をうつ。
ゴブリンは気にもとめずに戦いに集中している。
予想していた結果ではあるけどさすがにショックだ。
無力感に打ちのめされそうになっていたとき、適当にうった一発が何もないところで消えた。
なんだ?
ゴブリンシャーマン(隠密発動中)
なんだと?まさか、伏兵まで用意していたのか?
まずい、均衡状態にある今、一瞬で戦力差が傾くことになるーーー。
ドウシタイ?
僕の中の何かが問いかける。
そんなの決まってるだろ。今、できることをやる。
例えそのせいで僕がどうなったとしても!
子うさぎちゃんを毛皮でくるむ。
シャーマンは何かを放とうとしてる。
それを見てからじゃあ間に合わない。
たぶん、途中で矢か魔法に当たるだろう。
でも、ぴょん吉ならそれで気づいてくれるはずだ。
それに失敗してもあいつらが子うさぎちゃんに気づいてないならぴょん吉は自由に動けるようになる。
問題、ないっ!
子うさぎちゃんを地面に置いて僕はシャーマンのいる方へと走り出す。
僕が急に移動したことでスキルの応酬が止まる。
ゴブリン達は人質がいなくなることを恐れて簡単には手をだせない。
だが、僕の目的に気づいたのか完全にこっちを狙ってくる。
魔法は構築に時間がかかりすぐには撃てない。
だから、警戒するのは矢だけだ。
ゴブリン達を混乱させて得られた時間はほんの数秒、キングが何かを吠えてゴブリンが動き始めるまで、また、数秒。
人間のころだったらすでに走り終えてるのに、と思う。そして、このままではたどり着けない、とも。
そこまで考えたところで矢が飛んでくる。
僕はそれを回避しようとする。
それを、待ってた!
動く物体に飛び道具を当てるとき、その動きを予測して撃つ必要がある。
この世界にはスキルがあるため多少はばらつかせるだろうが、いきなり早さが二倍になんてなったら当てられない。
僕は『虫の知らせ』で矢が放たれる直前に矢が飛んでくる、ということを認識した。
そうして、『ひらひら』が発動する。
今は、スキルレベルが3。すなわち、回避行動の時のみ、スキルレベル×3である9が加算される。
そうして、飛んでくる矢を回避する。
ゴブリン達から動揺が生じる。そりゃあそうだ。
対象が急に速くなって(それでもものすごい遅いが)矢が外され、魔法を撃つまでにはもう少し時間がいる。
だから、シャーマンのところまでたどり着くことができる。
シャーマンは準備していた魔法を僕へと撃った。これは避けれない。
僕はその魔法に当たったがダメージはこない。そのかわり体が重い。デバフをかけるつもりだったのだろう。
数秒がすぎ、魔法が飛んでくる。これももう、避けることなんてできない。
でも、役割は果たした。これでぴょん吉へと不意打ちはつぶしたしーーー僕のせいでかき回したこの状況なら、ぴょん吉は逃げることくらいできるだろう。
目をとじて、衝撃に備える。
?いつまで待っても何も来ない。
目を開けるとそこには、ぴょん吉がいた。
どうやら、ぴょん吉に守ってもらったらしい。
どうして・・・
そこで僕は気づいた。子うさぎちゃんとぴょん吉をつないでいた、あの光の軌跡が僕とぴょん吉の間にも生じてるってことに。
「きゅい!」
ぴょん吉が地面を蹴った。それはさっきよりも速く力強かった。
すでにシャーマンは殺されていた。
目をつむってたのはほんの数秒だろうに。
キングの号令のもと、ゴブリン達は一斉に矢と魔法を放った。でも、当たらない。なんのスキルも無く、ぴょん吉によって迎撃されている。
子うさぎちゃんの方に行ったのもあったのに。
これから始まるのは一方的な殲滅だろう。そう感じさせるのに足る力だったし、実際ソードマンの剣をへし折り、シールドの盾を切り飛ばし、メイジの魔法を蹴り砕いていた。
キングが吠え、地面を揺らす。
だれかが土魔法でも使ったのか砂埃が舞う。
時間にして、一分くらいたったころ、砂埃ははれた。
そこには、片耳を失い、足をつかまれぶらさげられてるぴょん吉と、
傷は負っているものの、ぴょん吉をつかみ五体満足で全身から光を発しているキングがいた。
僕とぴょん吉をつないでいた光が失われていくのを感じた。




