第四話~一筋の光明?~
ハアハア、なんとか逃げ切った……。
〈戦闘スキルが一つもないという現状をなんとかしないとですね。
というか何を考えてこんなスキルもらったんですか。
あれですよね。マスターってバカというかアホというか……。
ちゃんと考えて行動しようって言われるタイプですね。〉
前向きに善処いたします・・・。
〈というか、『木の振り』発動するくらいの知恵は持ちましょうよ。
せっかくスキルチートしようとしてるのにスキル使い忘れるとか・・・。〉
木の振り?何それ?
〈はあ、これだからマスターは・・・(以下略)〉
◆ ◆ ◆
五分後
〈・・・マスター、聞いてます?ええ、そうですか、はい。一応言っときますけど、トレント倒したの覚えてます?〉
トレントというと・・・ああ、そういえばなんか手に入れてたな。名前からして使えなさそうだったけど。
〈マスター、種族スキルはレベルが存在しません。
そのかわり尖ったスキルは少ないです。
逆に言えば、マスターにとっては奪ってすぐ使えるスキルでかつ汎用性も高い、ということです。〉
『不明』は?
〈あんな例外気にしないでください。『木の振り』は使用中攻撃と移動にマイナス補正をかける代わりに木っぽくなってhp、mp、spの回復速度二倍に加え、打撃耐性がつくんですよ。〉
木のふり強っ!
だけど木っぽくなるって何!?
ただ、移動速度にマイナス補正がつくのか・・・。
〈木に擬態すれば森の中で隠密効果が生じます。
あと、マスターのagiじゃどっちにしろ大した速度が出ませんのでノープロブレムです。〉
ふーん。隠密効果ってどのくらい?全く攻撃されなくなるの?
〈推測になりますが、感知系スキルを持っていなければ少し違和感を感じるくらいですね。〉
持っていればバレる公算が高いと。
しょうがないなー。セカさんの頼みだから使ってみるかー。
木の振りっと。
なんも起きて無いじゃ・・・ってえっ!
腕が気になってる!じゃない木になってる!
すげえ!トレントに変身してる!
人間っぽさはどこへ行ったんや!?
でも、確かにこれならばれなさそう。
よし、もう一回食料集めに出発だ!
あっ当然蜘蛛とは反対方向ね。
木の振りって有能かもしれないけど・・・遅っ!
なんとなく移動速度が半分くらいになった気がする。襲われないからいいんだけどね。
〈でも、もともと魔物となんて出会わなかったから意味なかったですよね。〉
それ言っちゃう?警戒してたのが無駄だって思うくらいに平和だったよ。この森は。
〈・・・マスター。〉
うん、さすがに分かってる。
これ以上進むのがヤバいってのは理解してる。こんなリスクを冒す必要はない。
目に入るのはへし折られた木。
それがだいたい百メートルに渡って続いている。
台風でも過ぎ去ったのかと思うほどの破壊。
自然災害だとしてもとびっきり危険だろうに、おそらくこの破壊を引き起こしたのは魔物。
被害を受けてるのがたった半径五十メートルにおさまっている、というのがそれを示している。
「引き返すか。」
そうつぶやくと僕は神殿の方へと戻っていった。
◆ ◆ ◆
その帰り道のこと。
これは・・・また蜘蛛の巣?
今のところ確認できてる魔物がうさぎさんと蜘蛛とトレントくらいしかいないんだが。案外生物の種類は少ないのか?
初日に見たあの三匹は何だったんだ?
うさぎさんやら蜘蛛やらがあの惨状を作り上げられないだろうから、あいつらのうちのどいつかが引き起こしたのか?
そんなわけないか。
・・・できない、よね?
ただ、一つ気になるのは蜘蛛の巣は何かによってスッパリ切断されていたってこと。
こういうことができそうなのは・・・
トムホーク できそう
シルバーウルフ できそう
うしがめ 無理
うさぎさんが嵐脚使えるなら上二匹が使えてもおかしくないよな・・・。誰も刃物持ってないんだけどな。
亀は無理だろう、うん。
うさぎさんは当然のようにできるだろうし。
巣がこんな状態なら近くに蜘蛛がいるとは考えられない。この巣を回収させてもらいましょう。
ゲームとかだとよく素材になるみたいだし。
ポイズンスパイダーの巣
糸に毒がついている。触れると危険。
〈マスター、よく考えてから行動しろとあれほど・・・。〉
はい、申し訳ございません。
でもさあ、毒っていってもこの巣の持ち主もいないみたいだし、大したことないんじゃない?ちょっと痺れるくらいかもよ?
〈だからって勝手に触れていい理由にはなりません。あとそこにいる虫を見てください。〉
虫?ほんとだ。なんか黒光りする虫がいる。っていうかGじゃん!
〈それがどうかしましたか?そんなものより怖い思いをしてきたでしょうに。〉
それとこれとは話が違う。生理的に嫌というか気持ち悪いというか、ほんとにGにならなくてよかったよ。
〈さすがの神様も人間をGとして転生させるような真似はしないと思います・・・よ?〉
どうだかね~。嬉々として「面白そうだから!」って理由でやりそうだけど。
この哀れGをツンツンと棒でつついてみる。
あっ鑑定はセカさんがお願いします。
スモールコックローチ lv3
毒にかかってる。死にそう。
あっこれやばい奴だ。さっさと逃げよう。
生命力に定評のあるGが死にかけるとか半端な毒じゃない。
三十六計逃げるが勝ちぃ!
とりあえず神殿まで戻ってきたけど、予想外に食料が集まってない。
おかしいなぁ、もう夕方になってる。
結局二往復分くらいしかできなかったなぁ。
〈どっかの誰かが袋をひっくり返さなきゃもう少しあったんですけどね。〉
あれは緊急事態だから仕方ないのです。
ピコンッ
【ショータのレベルがあがりました。】
ピコンッ
【スキル『走行』を獲得しました。】
なんで!?
セカさんが一応の説明をつけてくれた。
多分、さっきのGが死んで、その経験値が僕に入ってきた。そのときにスキルも入ってきた、らしい。
世界知識とかにのってないの?
〈世界知識は内容を百等分してあるようなので好きな知識が引き出せる訳ではないみたいです。レベルも低いからか大した情報量じゃないですし〉
なるほど、ヘルプさんは有能だったんだね。うざかったけど。
ところで、どんなことが書いてあるの?聞いたことにしか答えてくれないけど。
「えっ。えーと、
lv1 ステータスの内容
lv2 スキルの使用について
ステータスに関わる基礎知識
lv3 一般常識 ステータス編
lv4 一般常識 スキル編
……です。」
一般常識ってどんな感じ?
あれだっけ、人間がだいたい100なんだっけ。
〈・・・そうです。〉
ん?またなんか隠してる?
〈いえ、隠してる訳ではない、です。ただ……〉
ただ?
〈ふぅ、マスター、覚悟して聞いてくださいね。〉
えっ!覚悟とかいるレベルの話!?
〈マスター、最初に言っときますけどマスターは死ぬほど弱いです。そこを自覚してください。
まず、人族のステータスである100という値ですが、地球での高校生の低めくらいのステータスだと考えてください。
握力20キロ、百メートル走に15秒くらいが目安です。
この世界の成人は15才なので妥当なくらいですね。
さて、前にも言ったようにステータスの値は比例します。
マスターは握力2キロ、百メートル走に二分半かかります。
思考速度まで落ちてるのでそうとは感じなかったと思いますが。
それにステータスの値ですが・・・どこまで影響するとおもいます?
答は全てに、です。
単純な筋力から瞬発力、持久力。思考力や耐性、気力などの部分。さらには視覚や聴覚といった感覚までステータスには含まれています。
具体的に言うとマスターが1+1=2という計算を一回行う間に10回繰り返して行えたり、マスターの十倍遠くまで見通せたりします。
ちょっと散歩くらいの気持ちでもう夕方になってるのがいい証拠です。
なんで、トレントに勝てたか?ですか。
この世界ではレベルがあり、ステータスがあります。
この世界での成長スピードは地球とは比べものになりません。
lv1ではだいたいのステータスは一桁です。
基礎値と呼ばれる値があり、ステータスはレベル×基礎値+ポイント分となっています。
だからレベルが低いうちは一つの差が大きいのです。
人間の初期ステータスはオール5です。高くない、というか低めです。
それでも成人時にはlv20ぐらいになり、ステータスは100が最低値。
これからレベルがあがるごとにどんどんステータスは上がります。
マスターがどれだけ弱いのか分かりましたか?〉
・・・思ってたより厳しかった。
この世界はどれだけ僕に厳しくするのだろう。
〈次にスキルについて説明します。
スキルは大きく分けて四種類に分けられます。
一つは先天スキルと呼ばれる生まれたときに獲得するスキルです。ある程度の適性を持ったものが得られます。
もう一つが後天スキルです。先天スキルと違って本人の行動によって獲得できます。
得られるスキルは多少能力や適性に作用されますが、何でも取得する事が可能とされています。
・・・マスターは何一つ習得できないわけですが。
次が種族スキルです。これはその種族の身体的な特徴を反映したスキルになります。
例えば、トレントだったら『木のふり』を持っていたり、です。
ある意味、先天スキルの一種とも言えます。ただ、レベルが存在しないスキルであり、進化などを経験しないと変化もしません。
最後が職業スキルです。これは職業を得た時に獲得できるスキルとなっていて、ある意味後天スキルとも言えます。
ただ、職業を失うことでそのスキルも失うという、唯一失う可能性のあるスキルです。
職業についてはまだ分からないのでわかり次第説明しますね。
職業スキルは奪えるのか?という疑問にも解らないと返すしかないです。
現状分かってるのは職業スキルを除く3つは確実に奪えるということですね。
また、一人が保有できるスキル数には限りがあります。
一般には5ですが、強い魔物だったり進化した魔物だったりすると保有数は増えていくそうです。
人間の場合、種族スキル『才能活性』によってスキル保有数に限りはないそうです。ただメインスキル数は5なので多少有利くらいの気持ちでいいかもしれません。
『才能活性』などがあると有効スキルという枠組みがなくなって、メインスキルとサブスキルという枠になるそうです。
サブスキルはスキルレベルが半分として扱われるそうです。
加えて成長も遅くなるみたいです。
そして、スキルとはなんなのか。
スキルが無くとも走れますし、歌えますし、踊れます。
しかしスキルという形を取ることで、その能力は劇的に上昇するんだそうです。
そのスキルとして認められたものが「有効スキル」なんです。
逆に言えば、有効スキル外スキルというのも存在して、スキルとして扱われないけれどもある程度の補正がかかることもあります。
例えるなら、自分の足が有効スキル外スキルならば、有効スキルは車といったところです。
マスターの有効スキル枠は5です。
現在3つ埋まってるのでよく考えて奪うスキルを決めてくださいね。
もう5つ埋まってるって?
ああ、種族スキル、職業スキルは有効スキルに含まれないそうです。
さて、ここからが本番です。マスターにとっては朗報ですが、スキルの補正はステータスにかかるのでなく、それぞれの能力値につくのだそうです。
今さっき得た『走術』はスキルレベル×1を移動速度に加算します。
ステータスそのものを上昇させるスキルもあったりしますが、そのタイプのものは少ないそうです。
マスターにも『俺TUEEE!』するチャンスがあるように思えますね。
しかしそんなものはありません。
ちゃんと理由がありますから。何も考えずに言ってる訳ではないのです。
例えば、素早さが1000あるとして、筋力3のゴミが百メートルを1.5秒で走れると思いますか?無理ですよね。
また戦闘力が五十三万あったとしても防御力が人並みならどうですか?
はい、この場合自らの力に体が耐えれません。
当然です。
そんな力出したら体が壊れちゃいますよね。一歩踏み出した瞬間にグシャッですよ。
これらと同じようにある程度の値以上はステータスがないと出せないということです。
だいたいステータスの5倍くらいが目安になります。
そして、普通は同系統のスキルしか同時に発動できないんです。〉
・・・。
もう・・・いやだ……。
神様、何故こんなに試練を与えたもうのですか。
僕はこの17年間真面目に生きてきたつもりです。
確かに呪われてるんじゃないかと思うこともあったり神様を恨んだこともあります。
でも!こんなのあんまりだ!
グスッヒクッ……
〈・・・マスター、その、言い辛いんですが・・・。
解決策、ありますよ?〉
もういいんだ、僕なんてどうせすぐ死んじゃうんだ。うう・・・。
〈マ、マスター!しっかりしてください!何とかできますから!少し言い過ぎただけですからぁ!〉
◆ ◆ ◆
さて、被告人。何か言いたいことはあるかね?
〈ええと、優しくしてください?〉
死ねばいいのに。
〈さらっと呪詛を吐くのやめてくれません!?私は誠心誠意、真心を込めてマスターにお仕えしているのに・・・。〉
茶番はいいから。さっさと話せ。
あと、罪状が多すぎて信用ならん。
ほぼ1日1回は何かしらやらかしてるだろ。
〈それは否定できませんが・・・。今回のことはさすがに反省してるんですよ。ここまで追い詰める気は無かったんです。〉
もういいや。
それで解決策ってのは?
これで「実は嘘なんですよね~解決策なんてないですよ。」とか言い出したら本格的に自殺を考えるよ?できるだけ惨い方法で。
セカさんにも痛みが伝わるようなそんな死に方で。
〈ギクッ〉
「ギクッ」て言ったか!?
〈いえ、ただのボケです。解決策はちゃんとありますから。それでその解決策というのは・・・〉
はよしろ。
〈わ・た・し です!〉
さて、さすがに耐えれなくなったんで自殺するわ。
やっぱり魔物に生きたまま食われるのがいいかな。
毒でジワジワと死ぬというのも乙だな。
〈いや、ボケじゃないです。大真面目ですっ!
私はこれでもスキルを使うスキルなんですよ!?
この程度の問題、お茶の子さいさいですっ!〉
そういえばそうだっけ?
世界知識があるからセカさんだと思ってた。
〈やれやれ・・・あっ何でもないですゴメンナサイ。
ちょっと調子乗ってましたすみません。
えー、ゴホンッ。
解決策というのは、具体的に言えばスキルの並列使用です。〉
スキルの並列使用?
〈さっきの例でいくと・・・、atk五十三万で攻撃するとき、def100じゃ耐えれないって話ですが、スキルで、耐久力あたりにプラス三十万とかすれば大丈夫なんですよ。〉
ほうほう。
でもさっきそんなことできない、って言ってませんでした?
〈いや、私は『普通は』言いましたよ?〉
心折る気満々だったんじゃねーか!
〈それは反省してます。
しかし考えてみてください。
この方法が使えれば能力値は実質無限ですよ?
少しくらい私が調子乗るのも仕方ないですよね♪〉
ほうほう、それはすごい。
デ?そんなこと言うなら今からどうやってスキル集めるかの方法も考えてるんだよな?
依然としてステータスALL10の僕でも勝てる奴がいるんだよな?
〈マスター、何故私がこんなことを言い出したと思います?先ほどスキルを得た・・・すなわち虫にすらスキルはあるということ。
だったら虫を殺しつくせばいいんですよぉ!〉
セカさん!?
〈ふふふ、虫けらどもめ、待っていろよ……。〉
いったい虫に何の恨みがあるんだよ…。