閑話~戦艦クジラ①~
どのタイミングでいれるか迷ってたけど、このタイミングで投下。
げんちゃんメインのお話し。
ちなみに本編の2ヶ月前くらい。
王都アルカーダより西に2000キロ。そこには王国随一のマーケットを抱える港都市、カンデラが存在する。
ミント王国に、街と呼べる場所は全部で5ヶ所ある。
王都アルカーダを始めとし、魔物に対する最前線であるペルル砦、三つの港都市カンデラ、コーホー、トルーダの5つだ。
北大陸と最も近いトルーダ、南大陸と最も近いコーホーの二つはそれぞれ土地柄としてその位置にあるのが自然である。
では、残る一つの港都市、カンデラはどうなのか。
カンデラがそこにある理由は二つ。一つは王都アルカーダから最も近い海岸だからということ。
そして、もう一つ。海上国家にして移動国家、マリーナ帝国が寄港する地であるということだ。
魔物も出現する危険地帯である海を、ただ唯一安全に航海する手段である超巨大船『オンタナ』。その上に存在するのがマリーナ帝国だ。
東西南北の大陸を4ヶ月周期で回り続け、各大陸の物を売買している国をあげての貿易国家でもある。
ゆえに、カンデラは三つの港都市のうち、最も賑わっている都市でもある。
そんなカンデラに一隻の金属船が止まったことから物語は始まる。
◆ ◆ ◆
それは法の月(8月)のある日のことだった。
日差しが強くサンサンゼミの鳴き声も遠くまで響くそんな日。
港には数多くの木造船がとまっている。そんな中一隻の金属船が港へと近づいてく。
周りのそれを見る目はなかなか厳しい。なぜなら、船体全てに金属を使うなんてことができるのはよっぽどの金持ちくらいなのだから。
ちなみに、フェイサートでは海水につかる上、消耗品である船(魔物に襲われるため、傷つきやすい)に金属などほとんど使わない。木か魔物の骨なんかを使うことが多い。
さて、そんな訳があってなかなか見ることのできない金属船だが、どういった人が乗っているのか。少し船内の会話に耳を傾けてみよう。
「ようやくカンデラでヤンス・・・。」
「大変だった・・・。本当に大変だった・・・。」
「おかしいわね。距離的には楽なはずなのに。」
「そりゃあ、途中で強い魔物が大量に寄って来なければ楽なんでヤンスがねぇ!」
「それは、まあ、想定外ってやつよ。何事もそう上手くいくことはないってことね。」
「それに付き合わされるこっちの身にもなってみやがれ・・・。」
「まあまあでヤンス。いつものことでヤンスよ。」
「そういえば、ドースの奴はどこ行ったんだ?
こういうとき、大抵何かやらかすのはあいつだろうに。」
「ドースの兄貴なら、部屋で寝てるでヤンス。」
「兄さんが船に弱いっていうのは初耳だったわね。」
「いない方が静かでいいけどな。」
「それもそうね。」
「そうでヤンス。」
「お前ら、人がいないと思って好き勝手言いやがって・・・。」
「げ、げえっ!兄貴、どうしてここにいるでヤンス!?」
「どうしたもこうしたもあるか!
もうすぐカンデラに着くっていうから無理やり起きたってのに!」
「ちょっと、兄さん落ち着いて!」
「うっせえ!・・・あ。なんか穴あいちまった。」
「ちょっ!俺の船がぁーー!」
と、まあすでに分かっているとおり、この船にはげんちゃんとドゲザーズのメンバーが乗っている。
どうして、普段はコーホーにいる四人がカンデラまで来ているのかというと
「カンデラ周辺に『水鉱』が流れ着いたそうでヤンス。」
「『水鉱』?」
「属性を持つ七つの属性鉱である『火鉱』『水鉱』『風鉱』『土鉱』『木鉱』『光鉱』『闇鉱』のうちの一つ。属性鉱はもともとその属性に特化させた武器や防具を作りやすく、高価なものなの。」
「特に水鉱は地上では取れないってことでなかなかお目にかかれない。
他の属性鉱は珍しいとはいえ、隣のアース帝国の領土の中にある『七色砂漠』で取れるからな。」
「要するに、いつものごとく金儲けか。
いや、違った。借金返済か?」
「・・・そういうことでヤンス。」
「今度は何買ってきたんだよ。」
「300年前の勇者が使っていたとされる聖遺物のうちの一つ!その名も『伝説のたこつぼ』でヤンス!
・・・でも、なんの変哲もないただの壺だったでヤンス。」
「・・・ちなみにいくら?」
「3000万ゴールドでヤンス!」
「バカか!
と言うかおまえら!もっと言ってやれっての!」
「ザクの金遣いの荒さはもう治らないと思うの。」
「とっくに諦めてる。」
「別にいいじゃないでヤンスか!
あっしのおかげで我が名馬『ハイパーヨーデルリッヒ号』とか高性能マジックバッグ『はいーる君』とかに出会えたんでヤンスよ!」
「あいつ、別にお前に懐いてないよな。むしろ俺の方に懐いているが。」
「『はいーる君』を手に入れたのって普通に買ったんだっけ?
マジックバッグ業者を襲撃に行った覚えがあるんだけど。」
「というか、ザクはネーミングセンスないよな。」
「何気に最後のが一番傷ついたでヤンス・・・。」
と、このような理由である。
補足になるが、『水鉱』は水が超高圧下で圧縮されたものであり、他の属性鉱も同じように作られる。触れられてはいなかったが、属性魔法発動の媒体としても優秀であるし、単純に見た目も綺麗なためアクセサリーなどにも用いられる。
『水魔法士』なのに、そのことについて一切触れないザクは・・・まあ、そういうやつなので。
◆ ◆ ◆
「鯨だぁーー!鯨がでたぞーーーっ!」
さて、皆さんはこの言葉を聞いた時なんと思うだろうか。
まあ、人によって千差万別のため、どのような反応をするのかは分からない。
だが、大部分の人がこう思うのではないだろうか。
『それがどうした?』と。
だが、それは地球での話。
ここは異世界フェイサート。現地の人の意識にあわせて翻訳するとこうなる。
「巨大な魔物の鯨がこっちを襲ってきているぞー!」
地球視点ではプランクトンを食べる穏和な生き物も、ここフェイサートでは生物を食らう大型の魔物なのである。
少しは実感を持ってもらえただろうか。
これを聞いたら、鯨が出たというセリフを聞き、逃げ出すことを考えるだろう。
誰だってそうする。
げんちゃんだってそうする。
でも、真のフェイサート民はそんなことしない。
理由はただただ単純。倒せるからだ。
魔法を使えるような人間が揃った街に大型の魔物が迫ってくる?ただの数の暴力で制圧可能ですがそれが何か?
むしろ、素材なんかを街まで運ぶ手間が省けるじゃんラッキー♪
こんな感じの思考である。
ただ、それは普通の鯨相手の話。
30メートル、大きくても50メートル程度の大きさ。そんな相手を想定したものにすぎない。
何事もそう上手くいくわけではないということだ。
今、カンデラの街に迫り来るその鯨は明らかに普通の鯨ではなかった。
まず、そのサイズ。
今まで観測された中で最大のものでも70メートル。これはマリーナ帝国が外海ど発見したもので、相当の年齢を重ねていたと考えられている。
他のいくつかの報告も似たようなものである。
というのに、目の前のそいつはゆうに100メートルはありそうであった。
これまでの最大を30メートルも一気に更新するその大きさ。それだけでも十分に脅威である。
そして、もう一つ。
誰が見ても異常だと思えるその体。鯨の体の上、水面上に見えているその部分に機械的なパーツがいくつも乗っているのである。
だが、その本当の脅威を知っているのはほんの一握りの人間のみ。
大半はそれがなんのためについているのか分かっていなかった。
大砲という砲弾を発射し、遠距離攻撃をするための機構であるということを知らなかった。
◆ ◆ ◆
鯨が迫ってくる・・・が港から1キロほど離れた所で止まる。
それに戸惑う人々。往々にして巨大な魔物というのは単発の魔法や魔術といったものより単純な攻撃が得意なのである。
特に巨大な魔物と戦った経験のある人々ーーー高ランクの冒険者の方にその傾向は強かった。
だから、その魔物の先制攻撃を許してしまった。
数百の砲塔から同時に放たれる水の槍。
数百の蒼い軌跡が空に刻まれる。
だが、その速度は実際の砲弾に比べかなり遅い。
せいぜいが時速300キロ程度。着弾まで12秒もある。
が、それを見て、とっさに動くことができたのはたったの4人。
似たようなものを見たことのあるドゲザーズの3人と
それを詳しく知っているーーーどころか日本で取り扱ったことすらある、げんちゃんである。
◆ ◆ ◆
「『アクアウォール』でヤンス!!」
街全体を水の壁が囲う。強度はそこそこ。一枚が単発の魔法を防ぐ程度。
だが、それで十分だ。
ザクが行ったのは連続魔法と呼ばれる技術。
魔法を撃つには魔法陣に魔力を流すことが必要になる。
が、何もしなければすぐに消えてしまい、並みの魔法使いでは一発撃つのがせいいっぱい。
逆に言えば、その消えるまでの時間で何度も魔力を通せば簡単に同じ魔法を撃てる。
魔法で使用するmpのうち半分以上は魔法陣を書くことに使われていると言われている。
つまり、撃てば撃つほど一発あたりのコストが下がる、というわけだ。
ザクはこの連続魔法の技術に秀でている。今も同じ魔法を数百発展開し、たったひとりで弾幕に対する対処を行ってしまったのだ。
とはいえ、いくら魔法を使うことに特化した『魔法士』のジョブに就いてるとはいえ、数百発の魔法を撃てばmpは枯渇する。
というか、普通なら100発も撃てば限界である。
それを支えるのが『回復魔法士』のゲーテだ。
回復魔法のスキルである『mpリカバリー』のスキルでザクのmpを回復させているのである。
さて、そのようにしてザクが全力で張った防御魔法だが、結果から言うとなんの役にもたたなかった。
本人の名誉の為にいうと、まるで無駄だった訳ではない。
水の壁に当たった水の槍は確かにその動きを止めた。
その頃には大多数の人が混乱から立ち直っており、街全体が喜びに包まれる。
そう、止まったはずの水の槍が、そのまま落下を始めなければ。
「どういうことでヤンス!?確かに止めたはずでヤンス!」
「うるせえ!考えるのは後だ!今は避けろ!」
「兄さんはーーー」
「俺はアレを受け止める!」
そう言うやいなや、ドースは落下点で盾を構える。
他の場所でも同様にする者がチラホラといる。
槍の性質が分からない以上、避けて下手に魔法を発動させるわけにはいかないからだ。
「『プロテクト』!!」
自身の魔法防御を上げるスキルを使用する。これでそうそう致命打は食らわないーーー
その安心は容易く打ち破られる。
ドースの構える盾に槍が当たる瞬間、ドースは自分が死ぬ未来を見た。
「皆!コレを受けるんじゃねえ!」
そう叫ぶと同時、ドースは吹っ飛ばされる。
ドースがその一撃をくらわなかったのはパッシブスキルである『人武一体』、そして『剛力』のおかげである。
武器と自身の感覚をリンクさせるーーーいや、武器を自身の体の一部とするスキルである『人武一体』。
武器の受けた衝撃すら痛みとなるこのスキルを伸ばしているのなんて自分と、せいぜいアイツくらいだろうとドースは思っている。
ドースの場合でも自身の体質ーーー『剛力』との適性が高すぎるがゆえに、力を制御しきれない体質ーーーさえなければ必要なかったようなスキルだ。
が、そのスキルのおかげですぐに違和感に気づくことができた。
そして、『剛力』のパワーを持って強引に脱出をはかったのだ。
代償は両の腕。
有り得ない方向に曲がるだけでなく、肘から骨が突き出ている。一体、どれだけの負荷をかけたのか。
「大丈夫?兄さん。」
「大丈夫じゃねえ。めっちゃいてえ。
とりあえず、『ノーマライズ』を頼む。
とはいえ・・・まだ、軽傷ですんだ方だな、こりゃあ。」
ドースと同時に飛び出した人のほとんどは槍を防ぐことはできず盾ごと地面に縫い止められている。
中には相当頑丈な鎧を着たものもいたが、そういった者たちは鎧ごと貫かれている。
ただ、それでも希望があるとすれば、この攻撃が連射できるものではなかったことだろう。
水の槍を撃ったあと、鯨は特に何かする事もなくそこにとどまっている。
まるで何かを待つように。
当然、人間たちも反撃をする。
先ほどのお返しとばかりに何百、もしかすると千近い数の魔法が鯨へと向かう。
そのうちのほとんどは飛距離が足らず、海水へと落ち、数メートルほど海水をえぐり、水しぶきをあげる。
とはいえ、飛んでいった魔法のいくつかは鯨へと届く。それらは確かに鯨を直撃しーーー否。当たってなどいない(・・・・・・・・・)。
だが、端から見ていた人々はこう感じただろう。
「魔法が通じていないのか・・・?」と。
もしそれが本当ならば、人間側に打つ手はない。
近づくことはできない。
巨大鯨の起こす波で海は大荒れ、半端な船では一瞬で沈む。
この波を超える船があったとしても、先ほどの水の槍でほとんど使い物にならなくなってしまっている。
かといって、遠距離攻撃は通じない。
まず、一キロという距離をクリアしなければならないし、届いたとしても効かない。
どうやって倒せばいいというのか。
この中でもトップレベルでminの値が高いーーーすなわち、視力も高いーーーゲーテは魔法が無効化されたわけではないということに気づいていた。
彼女が見たのは、ランス系の魔法が奥まで届かず、鯨の表皮あたりで止まったところ。
起こっているのは無効化ではなく、威力の減衰。
つまり、あの鯨は頑丈な鎧を着ているようなもの。単に無効化しているわけではない。
そうと分かれば対処法は見えてくる。
そこまで考えたところで彼女は気づいた。
その対処法の一つがすでに動き出しているということを。
いや、最初に鯨を見たときから、彼は動き始めていたということを。
その視線の先には一隻の金属船。
荒波をものともせずに走るその船の中、げんちゃんは静かに呟いた。
「戦艦『ヤマト』ーーー船型変化」
その言葉と同時に船の形が変わってゆく。
漁船から戦艦へと。
狩りのための船から戦いのための船からへと。
「ーーー型式・弐『戦艦形態』
いざ、参る。」
バルト「戦艦クジラ強すぎね?」
作者 「多分本編で言及されることないだろうから言っちゃうけど、この鯨、転生者です。」
バルト「はあ!?」
作者 「割と理不尽を詰め込んでみた。」
バルト「転生者はそんなんばっかなのか?」
作者 「自由度高めに設定した奴はこんなんばっか。でももっと鬼畜じみたやつもいる。」
バルト「大丈夫か、それ?」
作者 「それでも、転生者と1対1なら大体勝てる『人類最強』さんがいるから。ついでにそのレベルが割といたりするから。」
バルト「それはそれで不安だな・・・。」
作者 「あ、戦艦クジラの能力はこの話を読み込めば大体読めるはず。良かったら予想してみてね。」




