第十二話~狼との邂逅~
今僕は森の中をピョンピョンしている。
うさ耳とあいまってそういう趣味があるのかと思うかもしれないけど、そんな趣味はない。
この移動方法が一番効率的らしい。
セカさんいわく、「跳躍」のスキルなら跳ぶ一瞬のみに働かせばいいのでスタミナ効率がいいのだと。そのかわり移動速度は出せる力の半分くらいになっているがまるで問題ない。
現在は高速思考によって思考速度+30
頑丈によって耐久+30
跳躍と脚力強化Ⅲによって移動速度+150
気配察知によって索敵50メートル
のスキルを同時展開している。三番目の分の消費spはほとんど大したこと無くなってるけどそれ以外のせいで毎分11のspを使わなくてはならない。
もっとも普通に使えば毎分240のspを消費する必要がでてくるから助かってはいるのだ。・・・誰とは言わないけど。
<ドヤァ(´ー`)>
くそっ。無駄に有能だな!
〈今まで何もできなかったのはマスターがスキルほとんど持ってなかったからですし?真面目に働けばこのくらい余裕なんですよ。〉
そのまま真面目になってくれればいいんだけどね!
ちなみに移動速度150なので百メートル十秒のペースで走っている。十分間、走って6キロだね。
最初これを聞いたときおかしくね?って思ったよ。
十分で6キロって時速36キロじゃん。そこら辺の自転車より速いってどゆこと?
答えは簡単だった。「スキルによる強化は体力を消耗しない。」というルールのおかげだ。
どちらかというと、体力の代わりにspを消費している感じなのだろう。
当然、体を使えばその分体力が減る。人間は同じパフォーマンスを維持し続けることはできない。
それはこの世界でも変わらず、疲れたら休憩が必要だった。
スキルによる移動をし、その間僕自身のステータスを一切能力値に反映させないという、体を動かさないで動かすという人間離れしたことを繰り返すことで体力の消費は0になるのだ。
・・・とは言ってもspを回復させるのに一時間半の休憩は必要になるんだけどね。
30時間後、ようするに10分走って五時間休んでを6セットほど繰り返したとき。
・・・睡眠?頭の中に直接響く有能な目覚ましに支えられてそれぞれの休憩時間のうちに取らされたよ。
もう、こんな無茶はしたくない。
〈着いたのです。
ここから先は下手に動いてはいけないのですよ。シルバーウルフ様は侵入者に優しくないのです。
この大きさの獲物なら本人が出てくるでしょうから、敵対の意志が無いことを見せてかつ何か理由を説明しませんと。〉
ん?普通に入ったらだめなの?
〈四天王の皆様はそこにすむ魔物の管理もしているのですから、不法侵入者には厳しいのです。
・・・ショータなら面識もありますし、わたしの件もあるのですからたぶん、大丈夫なのですよ?〉
ねえ、ふーこ。
そのシルバーウルフがこっち見てめっちゃ威嚇してるんだけど。
どうすんのさ。
「おい、人間。言葉は通じんと思うが一応警告しておこう。ここから先は我の管轄地だ。勝手なことはできんと思え。」
あっ、そうか。
会話できるようになってるわ。
◆ ◆ ◆
普通に受け入れられた。
言葉は伝わらないと思っていたらしく、オリジナルスキルを持つ僕たちを警戒して本人が出てきたようだ。
「問答無用で襲ってきたらどうするつもりだったのだ・・・?
少し気が緩みすぎではないか?」
「?・・・!?」
「何も考えておらんかったのか!?普段は侵入したものは即刻殺すことになっておるのだぞ?」
危なかった……。
ねえ、ふーこ。そういうこと知ってるなら先に言っておいてよ。
〈知らなかったのです!〉
〈ふんぞり返って言う台詞じゃないですよ!〉
これはふーこに対する罰も必要かも・・・。セカさん?だめだ。思いっきり蹴っ飛ばされるだけだ。
「ところで母親の方はどうしたのだ。子供を放っておくようなやつではあるまい。」
そこで僕はなにがあったのかを話した。クレアという他の管理者に追い出されたこと。
そこから逃げ出す途中でゴブリンに襲われたこと。
そしてふーこが死んでしまったこと。
「クレアのやつめ・・・。管轄地においてはそのくらいの権限はあるが、実際にやるなど何を考えているのだ?それにゴブリンだと?しかもキングとは・・・。これはうしがめ様に報告に赴かねばな。」
「そんなにキングはまずいものなの?確かに強いがあんた達と同じくらいでしょうに。」
「そもそも我らと同等というのもまずいのだ。
この地にある魔力溜まりは4つ。それぞれ四天王で管理し危険な魔物が出てこないようにしているはずなのだ。
ゆえにこの島は他の土地に比べて魔物が弱く、意思を持つものも多くなり平和が保たれている、らしい。
全てうしがめ様の受け売りだけどな。
そうそう、キングの話だったな。ただのゴブリンがキングになろうとすれば五年はかかる。
やつらの成長は早いとはいえ相応の時間がかかる。それに長く生きれるとも限らん。
一体どれだけの魔物を放置しているのか・・・。」
どうやらだいぶ杜撰な管理だったらしい。
そんなやつに追い出されたともなると腹がたつがしかたがない。
追い出されたのも正当な権利ではあるようだし。命だけでもとってもらえてむしろ重畳だ。
「それで?お主はこの土地で生きるのか?だとすればラビの里まで案内するが。ただ、できれば我の側にいてほしいのだ。オリジナルスキル持ちを放置するわけにはいかんからな。」
どうする、ふーこ?
〈わたしとしては元の家族なんてどうでもいいのです。
文句を言ってやりたい気持ちもあるのですけど。
今のショータでは一対多はできないのです。
危ないのです。雪のこともありますし。〉
「いや、ラビの里へは行かないよ。自由でありたいとも思わないからどうか側においてください。」
「そうか。ならば着いてこい!」
そう言うとシルバーウルフは駆け出した。
僕、あんなスピードで走れないんだけどな・・・。
◆ ◆ ◆
「いやーすまんすまん。まさか着いてこれないとは思ってなくてな!」
「僕も雪もステータスは低いんですよ。というかまともに戦えないレベルで。」
「人間はどいつも油断ならんのだが・・・その心配はなさそうだな。本当に弱いのか。」
「そんなことより、何をしているのか教えてほしいですね。」
「なに?当然狩りに決まっておるだろう。むしろそれ以外になにをするのか。」
「それはレベル上げ・・・は狩りになるのか。スキル上げとかは?」
「狩りでしかスキルのレベルも上がらんだろう。それに鍛錬などして、いざというとき戦えませんではどうするのだ。」
「え?でも狩りをしなくてもスキルのレベルって上がるんじゃ。」
「なにを言っておるのだ?」
「そいつの言ってることは正しいぜ。親父。」
シルバーウルフの後ろからもう一匹の狼が現れた。
シルバーウルフと違って少し青みがかった毛をしている。声からすると不良っぽいやつだな。
「なっ、引きこもりのお前が何故っ!」
「なーに懐かしい気配がしたんできてみたってだけさ。・・・とんだ期待外れだったけどな。」
〈あっ久しぶり!〉
ふーこ?何か知ってるの?
〈うん!友達?みたいなのだったのです!〉
おかしくね?狼とうさぎだよな?
〈もともとシルバーウルフ様の庇護下にはいたですからね。最初に会ったときは怖かったですけど。〉
「ところで、お前なに?あのラビと同じよーな匂いがしやがる。その割に弱いみたいだしよ。」
どうしようか。ふーこのことを言うべきかどうか。
〈適当でいいんじゃないですか?わざわざ言うことはでもないですよ?家族とか恋人とかならともかく。〉
じゃあ当たり障りのないことだけ言っとくよ。
「なにシカトしてんだてめえ!」
「ああ、ちょっと考え事をしててね。君の言うラビのことだけど、単なる知り合いだよ。ここに来る前に助けて貰ったことがあるんだ。」
「なに!そいつはどこにいるんだ!教えやがれ!」
「・・・もう死んじゃったよ。」
「嘘だ!あいつがそんな簡単に死ぬわけねえ!俺といい勝負するレベルの奴だぞ!」
「ゴブリン150匹に襲われてね。この子を守るので精一杯だったんだよ。」
「子供?あいつの?」
「そうだよ。なっ、雪。」
「なーに~?おとーさん~?」
「へえ、お父さん、ねぇ。」
「そーなの~。雪のおとーさんなの~。おかーさんともラブラブなの~」
よせやい。照れるじゃないか。
おや?狼君がなんかプルプルしてる。
どうかしたのかな?
「てめぇ、俺と決闘しろ!」
「だが断る!」
「だが断る!」
〈なんで二回言ったのです!?〉
ついノリで。
なんでわざわざ戦わなきゃいけないんだよ。
めんどくさい。
そんな獣みたいな理屈は求めてないです。
〈まんま獣ですけどね。〉
〈だいたいこんな感じだったのですよ?〉
ちょっと脳筋なうさぎさんは黙ってて。
普通じゃね?みたいなこと言わないで。
「ふざけんな!」
このふーこと昔の知り合いだったと言う狼・・・長いからバトルジャンキー二号、略してバルトと呼ぼう。
そのバルトが飛びかかってくる。僕は全力で飛び退くと、その頭に向かって思いっきり蹴りを入れてやった。
〈あっ・・・〉
「やれやれ実力差も分からないの?僕にその気があったら今ので死んでたよ?」
嘘です。完全なるはったりです。たぶんバルトが受けたダメージより僕の受けたダメージの方が大きいもん。
ぶっちゃけ、耐久力以上の力を出したせいで僕の足は限界だよ。筋肉が切れたみたいな痛みとバルトにぶつけた部分から血が流れ出してる。
今は気休め程度の回復魔法をかけてるところだ。
ちなみにこいつのステータスはこんな感じ。
ウルフ lv40
hp2800 mp800
sp3200
atk380 def240
int160 min160
dex160 agi260
少なくとも限界値の230は越えなきゃいけなかった。もう一度やられると反応すらできん。
〈完全にわたしの時と同じなのですねー。
格下だと思って油断して、一発もらって負けてるのです。
クスクス。〉
まあ、普段はステータスall10だからなぁ。そりゃあ油断もするだろう。
「くっ、さすがはあいつに勝っただけのことはあるな・・・。あいつみたいな蹴りだった・・・。」
「あいつってふーこのことか?ふーこはもっと強かったぞ?」
「なに!!さすがは俺のライバルだな。俺も力をつけたと思ったがまだまだだったようだ。もっと修行せねば・・・。」
そこで半分空気になっていたシルバーウルフが口を挟む。
「ところで我が娘よ。お主『俺に1対1で勝ったら嫁になってやる!』とかなんとか言っておらんかったか?未だにそんな話がなくて父としては心配なのだぞ?」
「・・・。」
〈えっ、あの子あのときの冗談をそのまま言ってたの?〉
何か知ってるの?というかお前が原因?
〈いや、違いますよ?たぶん。
前に、いい加減嫁げって言われてる、っていう話をしてたときにだったらなにか条件をつければ?って言ったのです。
そしたら『俺に1対1で勝った奴にする!』って言いだしたんです。
うん、わたしは悪くないですね。ちなみにそのときの戦いはわたしの勝ちだったんですよ♪〉
おかしいな。色々とつっこむところがある気がする。
ところでさ、バルトって雌?
〈雌です。〉
〈雌なのです。〉
ひょっとして・・・またやらかした?
〈まあ、まだ呼んでもないですし、そこまで嫌な名前でもないとは思いますから、好きにすればいいのでは?〉
〈格好いいの好きでしたから、案外OKかもなのですよ?〉
「やっぱ待って!もう一年近く前のことだし!あの話は無しで!」
「ならば、帰ったら早速だれか見つけないとのう。
このようなじゃじゃ馬だが、人気はあるしすぐに貰い手などみつかるじゃろ。」
「えっ。」
なんか複雑なことになってるなぁ。
おや、バルトが近づいてきた。
「非常に気にくわないが、前言ったことを無かったことにするのは俺の信条に反するからな!
しかたないよな!」
これは・・・こいつ僕を生け贄に捧げる気か。
「(おい、あんなこと言ったがあくまでも振りだからな。お前はあいつの夫なんだろ?だったら協力してくれよ。)」
どうしたもんか。
〈バルトの言う通りにしてあげてくれませんか?
ちょっと可哀想ですし。〉
やれやれ、ふーこが言うんじゃ仕方ない。
「別に良いけど。(そのかわり余計なことに巻き込むなよ。)」
「本当か!やった!(だいじょぶ、だいじょぶ。そこにいるだけでいいから。)」
ちなみに()の中の会話は聞こえないように小声になってる。
「ふむ、お主が娘とのう。」
あっ、親父さんのチェックが入るのか。
「まあ、娘に勝てるくらいなら大丈夫だろう。とりあえず、里の方に移動するぞ。お主には色々と詳しく聞きたいこともあるしの。」
あれ?なんかあっさりしてる。
◆ ◆ ◆
移動中
「そういえばさ、お前は名前ってある?ないならつけたいんだけど。」
「?普通は名前なんてつけないぞ?あんなめんどくさいもの持ってるのは人間とユニークモンスターくらいだろ。」
「ユニークモンスターは名前を持ってるの?」
「そうだぜ。なんでも生まれたときに神様から与えられるらしい。あっちの管轄をしてるクレア様もユニークモンスターだろ?だから名前持ってるんだ。」
「ないと不便じゃない?」
「んー、お前とかこいつとかでなんとかなるからなぁ。なんだってわざわざめんどくさいもの考えなきゃいけないんだ。」
「だったら僕がつけていい?『バルト』って名前なんだけど。」
「バルト、ねぇ。なんかかっこいいな!そういえばあいつにも『ふーこ』って名付けたんだろ?人間は変わってんなー。」
「そうか?あった方が便利だぞ?それとこの子が『雪』だからな。僕じゃなくてふーこがつけたんだけど。」
「そっかー、あいつの娘かー。可愛いな。俺にもちょっと抱っこさせろよ。」
「さすがにちょっとな。第一どうやってたっこするんだ?」
「こう、口に加える感じ?」
「アウトだから!絶対やらないでね!なっ、雪。お前も怖いよな。」
「ん~狼さん~?おかーさんが~案外いいやつだったって~言ってたの~。」
「ふーこ!ありがとう!
そして可愛い!なにこれめっちゃナデナデしたい!」
「雪は触らせんからな!僕だけのものだ!」
「ずるい!
ところでさ、なんでそんなピョンピョンしてんの?
人間・・・なんだよね?」
「気にするな。結局これが一番速かったんだ。」
「お主等ずいぶん打ち解けたのう。さてもうそろそろだぞ。」




