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終わりなき世界で  作者: 緋島 奏
第一章  東京都編
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第一章 七 複製都市

「ここが俺たちがいた東京じゃないって?」


 明人は天斗を追いかけて、走りながら問い返した。


「ああ、まだ推測の域を出ていないけどな。確信はある。…お前さ、ここがあまりにも人気が無さすぎると思わないか?」


 明人と天斗を含める四人はスピードを緩めずに走る。校舎の入り口を靴を脱がずに通過する。


「…そりゃ、俺ら以外の人がみんな消えちまったんだからしょうがねえじゃねえか。」

「まあな。それなら逆に、どうして建物だけが消えなかったんだと思う?」

「それは…。」


 明人はその質問に答えることができなかった。自分で天斗に質問しながらどこかおかしいとは思っていた。確かに、人だけが消えて建物が消えていないのはおかしい。まだあの時にはすべてどちらも存在していたのだから。


「な? 答えられないだろ? 俺の想像だと、人と建物が消える条件には違いは無いんだと思う。」

「何が言いたいんだ?」

「話の先がみえてこねえぞ。」


 四人は話しながら、校舎内の階段を一段飛ばしで駆け上る。


「さっき言った通り、人と建物が消える条件に違いは無い。つまり、どちらとも消えたか、どちらも消えていないかの二択になるんだ。そこで、次に俺らがなぜ消えていないのかを考える。たぶん、今では元の世界では俺らも消えたことになってる。となるとどうだ? 結局みんな、東京都の何もかもが消えてることになるだろ。」

「…ああ。」

「てことは、俺たちも自分がそう思っていないだけで消えている、てことか?」

「ああ。少なくとも世間ではそう扱われてるはずだ。…すべてが消滅した世界でなぜ、存在があるものとないものが別れるのか? その答えは…。」


 そこまで言うと同時に天斗は立ち止まる。


「俺たちの教室?」

「ああ。俺はここが本当にあの時消えた東京都なのかが知りたいって言った。それで、ここが一番それを確認しやすいかなって思ってさ。」


 明人を含める三人は天斗の言いたいことがわからない。なぜ、教室に行くと本物なのかどうかがわかるのか。それがわからないのだ。


「わからないか? もしここが本物の、俺たちがいた東京都ならば――」


 そう言って天斗は教室のドアに手をかけて、勢いよく横にスライドさせた。教室に備え付けられたドアがその勢いに乗って真横に動き、徐々に教室の中をあらわにしていく。


「ここの教室の中にあの時と同じ状態で変わらずに、俺らの所有物が置いてあるはずだ。」




 目の前にある先のわからない一本道はとても薄暗い。そこだけ、昼間である周りの空間から切り離されているかのように。


「…つまり、ここは東京都じゃないんだよ。」

「てことはここが、東京都じゃない、それを模して造られた場所だってことか。」

「いや、そこまでは言ってないけど…。」


 零は壮真の言葉に苦笑する。この世界に来て素直に笑えたのは初めてのような気がする。


「まあ確かにもしそうだとすると、ここの謎の道と言い、周りの人の気配が無さすぎるのも、説明がつくな。」

「うん。人の気配がないのも、ここの世界が造られてからもともと人間なんていなかったから…。」


 そこまで言ってから、零はあることに気づいた。壮真も同じことを考えたのか、二人ともほとんど同時に顔を合わせる。


「…ここが、東京都ではないってなると、試練の“円盤”は全く知らない土地で探すようなもんだ。」


 そう。ここが東京都ではないとすると、今壮真たちがいる場所は知っているようで全く知らない土地であるということになるのだ。元の東京都を模して造られているので、一部は知っているような場所があっても、その隣は土地自体がここと同じようにずれていて、どこかわからないというような状況に至りかねない。


(まだ、試練の文章も解読できてないってのに…。)

 ここがどこか、その正体には近づいた。しかし、未だに試練の文章には全く手を付けていない。試練に挑むにあたってそこがどこなのかなど、実際どうでもいいことなのだ。


「まあ、二人だけではここらが限界ってところかな。」

「んー。悔しいけどそうだね。」


 このままずっと二人というわけには、先のことを考えるといけない。試練などどうでもよかった時ならば別にそれもありだったかもしれないが。


(なに考えてんだ、俺は…。)

 何はともあれここでひたすら立ち止まって悩んでいてもおそらく状況は変わらないだろう。


「やっぱり早くみんなと合流するべきか。」


 その言葉に対する零の反応は――無言の肯定。


「行こう。」


 壮真はそう零に声をかける。しかし、一緒に歩き始めたはいいが、ほかの者がいる場所がわからない。


「なあ、どこにいると思う?」

「うーん。どこだろ。」


 ここが東京都でないにしろ、広いということに変わりはない。東京都を模して作ったのだから面積も、となるとなおさらだ。地図で見ると東京都は本当に、見えないくらい小さい。しかし人間にとっては世界自体がとてつもなく大きく、東京都の小さな土地であっても大きすぎるのだ。


「…今思ったんだけど、ここの場所も向こうの世界にみたいに日が暮れることはあるんだよな。」


 壮真は西と思われる空を見ながらひとりごとのように呟く。


「たぶん…。」

「てことは夜もあるってことだよな。」


 ここの世界が地球のように回っているのかどうかは、わからないが少なくとも日が暮れるのであれば夜も必然的に訪れる。


「…早く、みんなの場所を探して合流しないとまずいよな。暗くなると周りが見えにくくなるから動けないし。」

「ねえ、中原君。学校に行ってみない? 私たちの、ここで共通の場所って言ったらそこしかないと思うし…。」


 壮真は零の言葉に、何も返すことができなかった。


「学校か…確かにそこは考えなかったな。」


 土地が微妙に変わったとしても、建物自体が消えてしまっているということはさすがにないだろう。

 壮真は希望が見えて気がした。壮真の心の中を移すように、学校の方向を向く零の横顔を、夕陽が美しく照らした。

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