第一章 六 思惑
昨日投稿できなくてすみません。
休日はいろいろとすることがあるのでこれからもできない日があると思います。
「えっ…。どうしてここが…。」
壮真と零は目の前に広がる場所を見て同時に言葉を失った。
「…消えたはずじゃ…。」
目の前にあるのは、壮真たちが一緒に帰ろう、みんなで取り戻そう、としていた東京都。なぜ消えたはずの都市がここにあるのか。壮真はもちろん隣にいる零も、その答えを導き出すための情報すら持ち合わせていない。
思わぬ場所、それもよりによって東京都に来てしまった。このことによって様々な思いが、壮真の頭の中を光のように次々と駆け巡っていく。
「…。」
風が、高い建物の間を吹き抜けて壮真たちへと流れていく。
壮真はあまりにも大きな動揺でうまく心を落ち着かせることができない。
「ねえ。中原君。」
こういう時、零の声は壮真を落ち着かせ冷静にさせる。
「どうした?」
「…うまく言えないんだけど…。」
と言いながらもなかなか言いだそうとしない零。壮真が気づいていない何かに気づいたのだろうか。
「ううん。まだ確信が持てたわけじゃないから…。」
「そっか。」
今知りたいことではあるが、確信が持てないということなのでそれは後にしておこう。情報に信憑性が出ることに越したことは無い。
「…。」
「ん? 零。今なんか聞こえなかったか?」
壮真の耳はここから遠くの場所で聞こえてきた何かの音を拾っていた。零もこの音に気づいたらしくそちらを見ている。
「何の音だろ? でも聞いたことがない音ではなかったよ。」
「そうだな。」
目の前を金属の塊が猛スピードで通り過ぎる。少年、啓太は何とか未然に接近を察知して辛くも避けた。
「またかよ。あぶねえ。」
先ほどの金属の塊とは自動車のことである。啓太はこれまでに数回今と同じような出来事に出くわした。そして、どの自動車の運転席も無人。なぜ走ることができるのかわからないが、非現実的なことにもう体が慣れてしまっている。
(まあ、エンジンの音がするだけましか。)
今までの自動車の突進を避けてこられたのも、遠くからエンジンの音が聞こえてくるからであった。
(壮真たちは大丈夫かな…。)
だが啓太はその考えを振り払う。やろうと思えば何でも人並み以上にこなすことのできる壮真のことだ、変なへまをすることもないだろう。だから、壮真と零の二人と合流する前に、自分たちが今できることをやっておこう。
急いで目の前の道路を横断した後、少し歩きほかのクラスメイトとの集合場所へと着いた。
「おー、啓太。なんか収穫あったか?」
集合場所である、壮真たちの学校の校庭。そこに帰り着いたとき、啓太の姿をいち早く見つけた野球部の西 将が声をかけてくる。声はみんなに聞こえたらしく、天斗ら野球部の明人、佑の三人が顔を上げた後、みんなで啓太を迎えてくれる。
「ケガしなかったか? あの無人自動車も走ってただろ?」
「まあ大丈夫だ。エンジンの音が先に聞こえるからな。」
そっけない顔をしながら心配する天斗に啓太は笑って見せる。
「零たちはいた?」
そう尋ねてくるのは零の親友の吉田 梓。
「わりい、姿どころか声も聞いてない。」
「そっか…。」
啓太たちが今までここから動かなかったのは、こちらへやって来た壮真たちと合流せずに、行き違いになってしまうことを恐れたからだ。
「いっそのことみんなを二つに分けて迎えに行くやつと、ここにとどまるやつをつくるか?」
「でも、仲井。その考えでもいいけどさ、何人が迎えに行くグループに行くと思う? 絶対学校にとどまっていたほうが安全だって、みんなわかってるのに。」
天斗の提案に意見を言う明人。
「そうそう、あいつも一度学校に足を運ぼう、とか思うかもしれないじゃねえか。しかもここは俺たちがいた東京だ。俺らと同じ場所に出たなら、道に迷うこともないだろ。」
「でもな、あいつが合流せずに、今更あいつ以外の奴がみんなをまとめるってなったらな。」
こういうところの分別はしっかりと着いているらしい天斗。初めに壮真に反発した時の態度とは大違いだ。壮真が皆をまとめることに今は異議は無いらしい。
「なら迎えは俺だけで行くよ。お前らは引き続き試練の内容の解読を行ってくれ。」
「ウチも行くよ。」
啓太の言葉に梓が続いた。
歩きながらどんどん違和感が大きくなっていく。なにかがおかしい。飯田 零は周りを見渡した。道路に建物。学校のある、見慣れたこの地区に違和感をあたえるものは特に見当たらない。
(まさかね…)
あることが頭に浮かんだが――そんなことは無いだろう。でもやはり…
「中原君、東京のここの場所にしてはあまりにも人気が無さすぎない?」
「そんな気もするけど人が消えてしまってるんだ。こんなもんじゃないか?」
零はそうかな、とつぶやきながら納得できないでいる。前に言いかけたことに少しは確信が持てたのだろうか。
(…ん?)
しばらく歩いたところで零はあることに気づいた。否、違和感の正体に。
「中原君!」
「なんだっ。」
驚くような声に少し大げさに返事をしてしまう壮真。
「こんな道、ここにあったっけ?」
零が指さす方向には今までみたことがない一本の道があった。学校の近くでほとんど毎日のように通っていた場所なので、記憶にもしっかり残っている。今までずっと違和感を感じていたのは毎日のように見ていた場所が、この一本の道のせいでわずかにずれていたからだ。
「いや、なかったはずだ。」
「だよね。」
壮真たちの知らないような短い期間でできるような道ではない。そもそも工事自体がなかった。
(じゃあ、やっぱり…)
零は一つ確信した。
「天斗ー。どうしたっていうんだよ。黙り込んで。お前らしくもねえ。」
明人と佑そして将の、野球部メンバーに囲まれている天斗は啓太と梓を送り出した後、ずっと黙り込んでいた。
「黙れ、佑。“閃きの天斗”がなんか考えてんだよ。集中させてやらねえと。」
明人の言葉に佑はあまり納得がいかないような顔で、しかし素直に黙り込んだ。周りのクラスメイトも同じように静かになる。
(さすがだな、天斗。)
天斗は閃きの天才、として一部の者には知れ渡っている。何かにつけて誰も思いつかないようなことを出してくれるのだ。今までも様々な面で天斗の閃きに助けられたことが多々あるこのクラス。つい誰もが今回も何か現状を変えてくれる何かを閃いてくれるのではないかと期待してしまうのだ。
しばらくして、天斗がゆっくりと頭を上げて沈黙は破れる。そして天斗がいきなり立ち上がった。
(なぜ、もっと早くこのことに気づかなかったんだ。俺は。)
焦ったような表情でクラスメイトのほうを向く天斗。
「なんか思いついたか?」
「まあ、一応な…。それを今すぐ確かめたい。お前らはここにいて良いから。」
そう言うなり、天斗は学校の校舎のほうに走り出す。他の者は呆気にとられていて動く気配はない。
「お、おい。まったく、なんだってんだよ。」
野球部の三人は慌てて天斗を追って走り出す。前を向いて走る天斗の表情は久しぶりに見る真剣そのものの顔だ。
「天斗。何を確かめたいんだ? そんな急ぐ必要があるのか?」
「そういうわけではないんだが…啓太たちが帰ってくる前に一応確かめておきたいんだ。でもまあ…このことは壮真とか、飯田 零みたいに、肝心なところで頭の回転が速い奴ならもう気づいてるかもしれねえが。」
何が言いたいのか全く伝わってこない野球部の明人、佑、将。
「たぶん、ここにいるほとんどのやつがある一つの大きな勘違いをしている。もし俺の今の予想が正しければ…ここは俺たちがいた東京都じゃない。」
天斗は悔しそうな顔をしながらそう言い切った。