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終わりなき世界で  作者: 緋島 奏
第一章  東京都編
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第一章 五 試練の試練

 巨大な扉の前に立つ壮真たち。巨大な扉は開いているが、その先はどうなっているのかはわからない。角度によって色が変わる、不思議な膜のようなもので遮られているからだ。異次元へとつながるゲートのようにも思える。


「ねえ。中原君。」


 いつの間にか壮真の横に来ていた零。彼女が壮真を名字で呼ぶことなどは普段となんら変わりは無いのだが、いつもより少し低めの声色から察するに何か言いたいことがあるのだろう。


「ん? どうした、零。」


 振り向いた壮真は零を気遣うように返事をする。


「…。」


 だが、零は何も言わない。苦しそうにうつむき、壮真から目をそらす。その姿は何かを考え込んでいるように見える。大体だが、壮真には零の言いたいことがわかる。


「…これから、のことか?」


 優しくそう問いかける壮真に、零は顔を上げて驚いたように目を見開く。


「…うん。」


(やっぱりそうか。)

 おそらくほかのクラスメイトもそうだろう。そういう言葉を今のところあまり聞かないのは、全員がなんとか周りのことを考えて、言葉にするのを自制しているからだ。壮真も大きな不安に押しつぶされそうになっている。


「この先に行ったら、もうここには戻れないのかな?」

「どうなんだろうな。」


 零の思っている通り、試練に挑戦するよりここにとどまっていたほうが遥かに安全なのは明白だ。だがみんな、それがわかっていてもやはり元の世界に戻りたいのだろう。


「元の場所に戻ろう。試練をクリアしただけだと戻れるのかどうかは分からないけど、きっといつかは戻れるはずだ。」

「でも東京は…。」

「…今いろいろ考えていても何も変わらない。」


 目の前のことから変えていかないと、おそらくなにも状況は変わらない。そのためにクラスメイト全員が〈試練〉を受けることを決めたのだ。


「じゃあ、扉をくぐろう。」


壮真は零の背中を軽く押す。


(みんなは…もう行ったか。)

 扉の前には誰の姿も無い。おそらく啓太か天斗、もしくは圭介ら運動部の誰かが先に行くように促したのだろう。

 壮真と零の二人は、みんなから少し遅れて巨大な扉へとさらに近づいた。


(いざ近づいてみるとなんか圧迫感があるな。)

 扉はおそらく縦九〇メートル以上はある。壮真はあまりの大きさに一歩後ずさる。他の者がどういう感想を持ったかわからないが似たようなことは思ったはずだ。


「…行こう。」

「ああ。」


 意を決してゆっくりと一歩踏み出す。片足が不思議な感覚に包まれる。ゆっくりと進み次は全身に。


(なんだ、これ。)

 扉の中はところどころに虹色に光る球体が浮かんでいるだけでそれ以外は真っ白い液体のような空虚な空間が広がっている。


「中原君。」

「なんだ?」

「後ろ。」


 壮真たちがくぐってきた扉が音もなくゆっくりと閉まり始めている。


「大丈夫だろ、たぶん。みんなも先にいるはずだから。」

「そうだね。」


 扉が完全に閉まって、跡もなく消えてしまうのを見届けた。


「ここが試練の場所か?」

「でも周りに何もないよ。あの浮かんでる球体も少なくとも円盤ではないと思う。」

「だよな。」


 周りを見渡しても白くうねる液体のような空間に虹色の球体が浮かんでいるだけ。どこまで続いているのかは想像もつかない。白い宇宙空間に見えないこともない。


(…もう一回見てみるか。)

 制服のポケットから『アンダーワールド活動許可証』を取り出して新しいページを開く。そこには〈試練一〉と扉をくぐれという旨の二つの短い文しか書かれていない。どちらも一度見たものだ。


(…わかんねえ。)

 お手上げだという風に零のほうを見ると同じように『活動許可証』を広げて考え込んでいる。


「なんかわかりそうか?」

「ごめん。わかんない。」

「零だけがわからないわけじゃないんだ。謝らなくていいよ。」

「うん。」


 ここの先におそらくほかの者はいる。それは分かるのだがどういう方法でここから移動したのか。壮真が持っていないような特殊な道具を誰かが持っていたということは無いだろう。


「…うーん。許可証にこの場所。それに浮かんでいる玉…。」

「今までなかったのはたぶん虹色の球だけ。」

「ああ。この変な場所も前の場所と結構似てるし。」

「ということは…。」


 壮真と零は同じ答えに行きつき顔を見合わせた。おそらく今までの場所になかった虹色の球体を使うのだ。


「じゃあ、試しに触ってみるぞ。」

「気を付けて。」


 直径一〇センチメートルくらいの球の、どこに気を付ける要素があるのかどうかわからないが何でも見かけによらないと言う。壮真は一番近くの球に近づいてそっと触れた。その瞬間、球は美しい光を放ち始めた。


(当たり、だな。)

 どこからか暖かい風が吹き始めた。


「中原君。あれ。」


 零の指さす方向には今までなかった扉が。


「…なんか今のが試練でもいい感じがするんだけど。」

「ウォーミングアップみたいな感じじゃない?」


(ここの主のノストラダムスって意地悪いのな。)

 だいぶ早足で歩いて、扉の前に立った。今回の扉は先ほどとは打って変わって普通の大きさだ。


「開けるぞ。」


 壮真は零と、それぞれ左右の取っ手を持って扉を押す。意外と重かった扉はぎぎぎ、ときしむような音を立てて開いていく。隙間から眩しい光が差し込み、風が吹き込んでくる。


「もう少し。せーの。」


 扉を思い切り押す。扉と扉の間の隙間が広くなるにつれて光と風はますます強くなっていく。


(…うっ。)

 あまりの眩しさに目を覆う。瞼越しですら感じるほどの強い光。吹き飛ばされそうなくらいの強風。

 しばらくの間続いた強烈な光と強風はゆっくりと収まりはじめ、それと同時に壮真と零はゆっくりと頭から腕を降ろす。


「…ここは?」


 目を開けると飛び込んできたのはとても懐かしいあの場所。ここが〈試練一〉の場所らしい。



試練の舞台。そこは――見間違えることはない、消えたはずの東京都だった。






























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