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終わりなき世界で  作者: 緋島 奏
第一章  東京都編
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第一章 四 予言者

 壮真は、サッカーボールから聞こえてくる男の言葉に耳を疑った。確かに謎の声は自分がノストラダムスであると名乗ったのだ。


 ノストラダムス。本名をミシェル・ド・ノートルダムという。その当時一番よく当たる予言者として、有名になった占星術師だ。今、最も有名なのは一九九〇年に予言した《一九九九年七の月、恐怖の大王が空からくるだろう アンゴルモアの大王を甦らせるため その前後、マルスは幸福の名のもとに支配するだろう》というものだろう。

 しかし、二〇一七年である現在にノストラダムスの声を聞くのは絶対にありえないのだ。なぜなら一五六六年に、もう死んでいるのだから。


 ノストラダムスは壮真が持っている疑問に気付いていないのかどうかわからないが悠々と言葉を続けた。


『――現在、世界各国の上空に対人ウィルスを用意している。諸君らがこれから出題するすべての“試練”をクリアすることができればこれを解除しよう。もちろんだが、試練に挑戦するかどうかは諸君らの自由だ。挑戦する者各自で内容を確認してくれ。…では、さらばだ。』


 一方的に話し終えると、声はプツリと聞こえなくなり、サッカーボールも光を失って地面に転がった。

 それを眺めていた壮真は、はっと我に返って後ろを向いてクラスメイトに向きなおった。案の定、ほとんどの者が不安そうな顔で近くにいる者と会話している。


「壮真、これからどうする?」


 隣にいた啓太がそう意見を求めてくる。どうするか決めていなかったが、ここに来て初めに、頼まれたからと言っても皆をまとめる役を買って出たのだ。自分が決めねばならないだろう。


「俺はともかく、まずみんなに聞きたいと思う。無理やり試練とやらを受けさせるわけにはいかないだろ。」


 自分でもこの状況でなぜ平静でいられるのかはわからない。だが、誰かがまとめないと何も始まらない。その思いだけが自分を突き動かしているのだろうか?


「みんな、聞いてくれ。ボールから聞こえてきた声の奴に関しては今のところは後回しにして、例の試練とやらを受けるのかどうかを考えてほしい。」

「なんで意見を統一する必要があるんだ?」

「一人一人で決めていたら、試練を受けるってなったときにクリアできる可能性が減るだろ。」


 様々な表情で聞いていたクラスメイトらは再び近くの者と話し始める。壮真を含め、自分で地球の人類のことを考えねばならないのだ。悪く言えば、今壮真らが人類のこれからを握っている。


「なあ、中原。あいつの言ってたウィルスとやらは実在すると思うか?」

「わからない。でも、今の状況みたいに、異世界に移動するような非現実的なことが起こっているんだ。あり得ないと考えるのはよくないと思う。」

「ねえ、まずみんなで試練の内容を確認してからでも遅くはないと思うだけど。」

「…確かに。」

「あ、待って。声の人は確認してくれ、ってしか言ってないじゃない。どこで見るかわかってるの?」


 壮真は一人の女子生徒の声で大事なことに気づいた。試練の内容がわからないのだ。人類のこれからを握っているとはいえ、最終的に決めるのは壮真たちだ。


「壮真。」

「ん? なんだ啓太。」

「試練の内容ならこれに書いてあったぞ。」


 啓太の手に握られていたのは『活動許可証』。


「…そうか! 自動で記述が追加されるってこういうことだったんだな。」

「みんな、試練の内容ならさっき俺が見つけた。」

「ほんとか冬島。」

「ああ。例のメモ帳に書いてあった。…今から読み上げるけど、それぞれで確認しながらでもいい。聞いてくれ。」


 クラスメイトは啓太の指示でそれぞれの『活動許可証』を開き始める。今更だが、試練の内容を記述させるのに、周辺地図の時のように誰かの者にだけ、というような条件は無いようだ。


「――試練一、空を駆ける天の円盤。それを見つけ、我がものとせよ。」


 ノストラダムスの出した試練の記述を見て、読み上げられたものを聞いた壮真を含める全員が騒然とした。ノストラダムスは千編以上もの予言を、解釈の難しい詩的な書き方で残したというが、こういうもののことを言うのだろう。


「なにそれ。」

「意味わかんないよな。」

「一つも理解できる部分が無いんだけど。」

「これなら、試練を受けるにしても達成のしようがないんじゃないか?」


 この言葉に壮真は黙り込んだ。確かに受けることに方針を決めても解決の手口が見つからなければどうしようもない。


「待って。試練を受けなかったら、地球の人はどうなるの? ウィルスで死んでしまうかもしれないんだよ。」

「俺たちだって、ここの世界から抜け出せるかどうかは分からないんだ。世界の人の心配なんてしてられるか。」

「…。」


 確かにノストラダムスは、試練をすべてクリアしたら設置したウィルスとやらを解除するとは言った

が、ここの世界から解放するとは一言も言っていない。


「いや、でも俺らに与えられたのは試練を解決するということだ。脱出できるという可能性はある。試練

を受けないと選択したらそれこそここから脱出するチャンスを逃すことになるだろ。」


「くっ…。」


 天斗のいさめる言葉に全員が納得したように見えた。


「じゃあ、俺らの選択は試練を受けるってことでいいな。」


 クラスメイトは黙って壮真の決定にうなずいた。

 その瞬間、壮真の言葉を待っていたかのように全員の後ろで、大きな紫色の扉が出現し、開いた。


「壮真。」

「ん?」

「これ。」


 啓太が見せてきた『活動許可証』のページには「試練を受ける者たちよ。扉をくぐり、挑戦せよ」そう書かれていた。


「それなら、行くか。」

「ああ。」


 扉の先にあるものを壮真たちは知らない。だが何もしないわけにはいかない。


 扉に向けて歩きながら壮真はただ一人思った。空・ウィルス・ノストラダムス、これらの単語から考えるとそうとしか思えないのだ。


 ――時代は違うが、この状況こそノストラダムスの一九九〇年の予言「――恐怖の大王が空からくるだろう」の部分ではないか、と。



金曜日の更新も朝行います。

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