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終わりなき世界で  作者: 緋島 奏
第一章  東京都編
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第一章 三 追記の条件 2

すいません。一日遅れました。

「どういうことだ?」


 壮真は現状を見直してそう呟かずにはいられなかった。先ほど、これからのため「周辺地図」なるページを全員の許可証に追加するために全員で壮真の動きを再現したのだが、誰のものも記述の追加はされなかった。


「お前の行動をそのままやったんだろ?」


 記述が追加されるはずだった白紙のページを見つめながら、啓太は聞いて来た。


「ああ、間違いはないはずだ。」


 壮真の場合は少し歩いて、すぐに追加された。しかし、壮真以上にあちこち動き回っている者ですら、追加はされていないらしい。


(何か特別な条件があるのか?)

 壮真が、皆がしていないような特別な動きをしたわけではない。一定のスピードで歩き、同じ速度で歩いて戻った。何も気になるところはない。となると、記述の追加には行動以外に何か条件があるとしか考えられない。壮真を含めて誰も気づいていない、否、気づかない条件が。


「…ま、壮真、壮真!」

「あ、なんだ?」


 何度か自分の名前を呼ばれて、壮真は我に返った。


「なんだ、じゃねえよ。いいからちょっと来てくれ。」


 啓太が焦るような表情でついてくるように促す。


「だれかのものに追加されたのか?」

「そうじゃない。それよりも気になることがあるんだ。」


 足早に急ぎながら、進む啓太。壮真は何も聞いていないのでただついていくことしかできない。


「こいつだよ。」

「ん?」


 そこにあったのは壮真たちと唯一、一緒に移動させられたであろうあのサッカーボールだった。どうやら、初めに気を失って倒れていたところまで戻ってきたらしい。


「これが何だ?」

「お前気づかないのか?」

「何が…」


 そこで壮真はようやく気づいた。初めにここに来て見た時との違いに。


「…光ってない。」


 そう。ここに移動させられてすぐに見た時はこのサッカーボールは青白く光っていた。その時に見た美しい風景が記憶に残っている。


「なぜかな?」


 壮真は無意識のうちに啓太に尋ねていた。啓太はこっちが知りたい、というように肩をすくめて見せる。


「俺が知ってると思うか?」

「…思わない。」

「だよな。」


 ここに来てから、『活動許可証』の発見以来特に変わったことは無い。だから壮真も啓太もこのような

些細なことにも何かがあると思ってしまうのだ。何か、とは今の静かな雰囲気を壊す何らかの――

 そこで、急に真っ白い地面に落ちたままだったサッカーボールが眩しく光りだした。地面の白すら塗り

つぶしてしまうような強烈なまでの青い光。光りながらサッカーボールは浮かび上がり、壮真たちの目線の高さのところに静止し、光らなくなった。


「おい、なんで浮いてるんだ、あれ。」


 遠くからそんな声と足音が駆け寄ってくる。他のクラスメイトもあの青い光には気づいたようだ。


――ブツッ。


「えっ…、うっ。」


 何かが切れたような音の後、目には見えない圧力が上からかかり始めた。幸い立てなくなったり、潰されたりするほど強くはない。

 踏ん張ったまま頭だけを横に向ける。


「大丈夫か、啓太。」

「ああ…なんとか。今更だけどこういう時こそ俺より、零の心配をしたほうがいいんじゃないのか。」


 零というのは壮真の彼女の名前だ。しかし壮真は、ここの場所に来てから全くと言っていいほど零と会話をしていない。


「まあな。でも――」


 そこで、ふっと上からかかっていた妙な圧力がなくなった。


「でも、なんだ?」


 そう聞いて来た啓太の表情は、圧力から解放されてどこか柔らかい。


「…零には悪いけど、目の前にいる友人の心配をするほうが先だと思う。」


(それに、零はそういうことは別に気にしないんだけど…)


「なんだよ、それ。」


 啓太には今、壮真が考えていることがわからない。だからこそ壮真の先ほどの言葉に、そういうことを言っていたら零に愛想尽かされるかもしれないぞ、とは言わない。


「大丈夫だったか。」


 思いがけない人物――天斗がそう声をかけて来た。ここに来てからずっと不機嫌そうだったが、〈アンダーワールド〉を脱出するという共通目標があることを思い出してくれたらしい。


「ああ。お前は?」

「大丈夫だよ。」

 

             *       *      *


 クラスににぎやかな雰囲気が戻ってきたとき、再びボールが光りだした。


『ごきげんよう。諸君。』


 光が点滅するサッカーボールからこちらへ来るときに聞こえた声が、周囲に響き渡った。


「誰だ、お前は。」


 静かになった、クラスの中の誰かがそう聞く。


『――我が名は、ノストラダムス。』


 クラスメイトの疑問に答えたのかどうかは分からない。しかしサッカーボールから響く、重い声の主は高らかにそう名乗った。


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