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終わりなき世界で  作者: 緋島 奏
第一章  東京都編
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第一章 二十四 怪物

大変時間が空いてしまいました!!


続編となります

「正体が分かったって?」


 拓人が半ば信じられないといったような声色をにじませながら由里にそう尋ねる。


「多分…でも、こう考えたら難易度はぐっと下がるし、これを前提に動いたところでほかの人の行動の制約にはならないし…」


 由里はそう言いながら、少し体を動かしほかの全員に白紙のページが見えるようにしてから紙に二つ言葉を書いた。


 我が物とする

 我が物にする


「これは?」


 圭介はその2つの言葉を見ながらゆっくり口を開く。


「別に難しいことじゃなくて、あくまで可能性って話なんだけど、この二つって似てるようで違う意味を含む言葉なんだよね」


 由里は“と”と、“す”の文字を丸で囲む。


「この二つの言葉にはもちろん、所有物にするという意味はあるんだけど…。に、するってした場合その言葉には“変化させる”っていう意味を強く含むようになるの。逆に、と、するってした場合“みなす”の意味を強く含むようになる。」


 一般的に、格助詞「と」+動詞「する」の組み合わせは論文や法律など形式的な書類など硬い文章でよく使われる言葉である。つまり、判定や定義・そのほか決定を意味する言葉であり、みなすというニュアンスになるわけである。

 では、格助詞「に」+動詞「する」の場合は? これこそ誰もが想像する意味に近い、獲得や動作、そのほか加工などの意味をより含むわけである・

 由里は二つの分の下に意味を単語で書きながら、言葉を続ける。

 “我が物にする”とした場合、それを分解し意味でとらえると自分の行動や努力に基づいて得られた結果、自分のものではないものを自分のものにしたというプロセスが強調されるわけである。会話などで「~にしたよ」などいう言葉も考えればすべてこの意味で使用されているのがほとんどで前述のような意味で使用されている言葉はほとんどない。


「…でもこの文の中に使われている言葉は“と”。つまり、この瞬間からこうしますって意味になるんだけど、それに派生してある別の意味も持つようになる。」

「それって…」


ほかの四人のうち誰かがかすれがすれの声で先を促すように、聞く。


「我が物とする。判定する、定義する…そこから持つ意味は――正体を明かす」


 しばらくして、はっとしたように由里は顔を上げ、壮真のほうに向きなおる。


「これで、これでもしかしたら今回の試練が解決するかもしれない…でも間違っているかもしれない」


 壮真としては日本語の意味の使い分けに注目するという言葉すら思い浮かばないような発想である。それに加えて、今は何がなんでもわずかな手がかりが欲しい状態。そこで新しい意見が飛び出してきたのだ。使わないわけがない。


「ああ、ありがとう。結果はともかく、一度これで動いてみるのもいいかもしれないな」


 どこまで言葉を伝えたかはっきりしないが、はやるきもちが抑えられず壮馬はすぐに動きだした。

 向かう先は天斗の元。アルキュオラ出現で時間はなかったが、あのとき天斗だけは公園内にある石碑を読んでいた。あそこに何かヒントになるようなものが書いてあったのかもしれない。





「天斗っ」


大広間にいた天斗の姿を見かけた壮真はすぐさま声をかけた。


「どうした? そんなに急いで」

「わかったかもしれないんだよ。 試練の言葉の意味が」


 そう聞くや否や天斗は壮真の背中を押す。


「行くぞ」

「…行く? …まさか」


 そう天斗はかなりの行動派。わかってはいたことではあるがすぐさま行動を起こす人間なのだ。皆に気づかれないようにしてそっと入り口まで移動。音をたてないようにゆっくりドアをスライドさせると二人同時に走り出した。

 目的地は言わずもがなあの公園。歴史のある公園とのことだが、今はそんな感慨にふけるような状況でもないしこの世界でのできごとに興味はない。

 どのくらい走っただろうか。移動しながら解読班のアイデアは共有したがいまいち難しいかったようだ。途中休みはしたもののほとんど動きっぱなしでも到着したことには夕方。遠くの空で太陽が沈み始めている。夕焼けがかる空を一度見ると、すぐさま目線を戻し、公園内のシンボルともいえる時計台を通り過ぎある石碑の前にたどり着いた。


「これだよな?」


公園内に目立った石碑はこのくらいしかないため間違えることはないが、念のために確認せざるをえなかった。


「なんて書いてあったっけ…?」


天斗は石碑の裏に回り、指で掘られた文字をなぞるようにした。



充溢すれば調和をもたらし、停滞すれば窒息を招くその不可知な奔流を、我々は五感を超えた直感によってのみ、辛うじて「読む」ことができる



「意味わかるか? これ」


一見すると、不可解な言葉。調和、窒息、不可知、五感。そして読む――


「あ…、わかるにはわかったんだが、本当にこれであっているのか」

「いやそこは別に気にしなくていい。間違ってても迷惑をかける人はいないし、仮に正解だとしたら皆が助かるだけだ」


 天斗のその言葉にはなぜか自然と納得ができた。


「おそらくここに書いてあるものから思い浮かぶのはたった一つ。――。ただ、それが本当にあいつがそうなのかは」

「異世界だから言ってしまえば何でもありだろ」


 天斗はそう言い終わらないうちに視線を壮真のやや後方の上あたりに向けた。


「お出ましなさったぞ」


 オーブのように石碑から無数に出現する赤い発光球。それがすこしづつ空中で円を描くようにして回りながら、あの生物の形を作っていく。

 全身を黒い鋼でおおったようなとげとげしい甲殻。甲殻と甲殻の間は赤い線が縁取るように入っており、細かなとげが生えている。頭から二本伸びる角はまっすぐ。大あごにはずらりと牙が並びすぐに噛み千切られそうな恐怖すら覚える。まさにドラゴンそのもの。


「…ただ、安心はしたな。こいつが空飛ぶ円盤なわけだ」

「…ああ」


 円を描くような登場演出。しまいには翼を広げると巨大な円盤のようにも見える。側面からみると気づかないが空中で出現したアルキュオラは試練の文にある空飛ぶ円盤そのものなのである。

 アルキュオラは燃えるように輝く瞳をすぐさまこちらに向け、翼を器用にはためかせる。そして空を滑空するようにして突撃してきた。


「きたぞ」

「ああ、でも正体がばれかけている以上怖さは減ったよな」



 充溢すれば調和、すなわち共存と快適性。停滞すると窒息、つまるところ不足と対流によって生み出される結果。不可知なのは目に見えず、そしてにおいなどの五感では感じることもできないから。ただ、確実にそこにあり、時と場合によって「読む」必要が出てくる。

一目で文の意味がわからなかった天斗を責めるつもりはないし、むしろこの石碑があったことを覚えていたことに感謝する。そしてここまで断片的なヒントを与えてくれた解読班にも


「この文を先に読んでたら、ここまで時間はかからなかっただろうな…手間かけさせてくれたな――空気さんよ」

 


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