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終わりなき世界で  作者: 緋島 奏
第一章  東京都編
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第一章 十七 冬島 啓太

 旅館の窓から差し込む朝日で壮真は目を覚ました。


「ふぁあ、眠っ。」


 昨晩はずっと天斗の話を聞いていて眠りにつくのが遅くなってしまった。集めた時計で割り出した時間によると朝の四時くらいだったろうか。


「あっ、おはよう中原君。」


 部屋から出ると、壮真を呼びに来きたのか零とばったり会った。


「やっと起きたんだね。」


 そう言って笑いだす零に壮真は何も言えず、苦笑いを返して歩き出す。壮真が一番起きる時間が遅かったらしい。普段から規則正しい生活を送っているはずの壮真が、昨夜あんな時間に寝てしまって早く起きられるはずがなかった。


「大体みんなが早いんだよ。」


 本来ならばもう少し寝ていたいのだが、できるだけ早く元の世界に帰るためだ。そのために統率者たる自分と言う存在が必要であることは、昨日思い知らされた。


「みんなは大広間でくつろいでるよ。中原君のことをみんな待ってたんだから。」

「…そうか…。」


 まだあまり頭が働いておらず、何を言われているのかすら頭に入ってこない。大広間に着くまでの間、いろいろと話しかけられていたが壮真はほとんど記憶がなかった。


「おー、やっと起きたか。」


 大広間へとつながる扉を開けた後初めに声をかけてきたのはやはり啓太だった。


「…今何時だ?」


 半分眠っている脳をフルに動かして出てきたのはその言葉だった。


「えーと、十時くらいかな。」


 昨日集めてきた時計を並べて、文字盤を覗き込みながら答える啓太。本当の時刻を指している時計がどれかわからないから時間の確認にもひと手間かかる。

 ここから脱出するための課題は山積みだった。




「こっちであってるのか? 天斗。」


 前方を歩く天斗があまりにも迷わずに歩くので啓太は思わず声をかけてしまった。同じ東京都とはいえどこれまでに見たことがない道をとって来たので心配になったのだ。

 現在、亜美と幸、啓太の、南回りの偵察班は臨時でメンバーとして天斗を入れて歩いていた。


「ねえ、二人とも。何かあったらどうするの。仲井君だって昨日一人で行動してみんなに謝ったばっかりじゃない。」


 亜美が後方でそんなこと言っているが今の天斗と啓太の耳には入っていない。


「暗かったから詳しくは分からないけどたぶん合ってると思うんだよな。」

「だったらそんな自信満々に歩くな、全く。」


 南回りの偵察班は秘密裏に、昨日の巨大生物の謎を追っていた。天斗は昨日ここ一帯を歩き回ってそれに関するものを見つけたらしいのだ。


「あー、あったあった。あれだ。」


 目の前にあったのは広い公園。たしか東京が消える前は人々の憩いの場所になっていたはずだ。


「これこれ。」


 公園の端にある記念碑の天斗は走り寄って文字を読み始める。啓太も天斗に倣ってそこに刻まれた文字に目を走らせた。


(…。)


「なあ天斗。さっき揺れなかったか?」


 啓太は記念碑の文字の一行を読み終わったところで微弱な揺れを察知した。


「さあ。」

「揺れたよ。冬島君。」

「そうですよ。」


 よっぽど集中してみていたらしい天斗以外は全員気づいたようだった。


「やっぱり、近寄らなかったほうがよかったんじゃないでしょうか。」

「うん。」

「そう言われてもなあ。」


 せっかく何かがわかるかもしれないのだ。その情報でこれからの道が開ける可能性だってある。多少危険なことがあってもこれはやっておきたかった。


「…無理そうだわ。やっぱり。」


 天斗の方に目をやった啓太は即座に前言を撤回した。石碑から赤い光のようなものがあふれ始めていたからだ。

 そう。赤い光と言ったら例の巨大生物しか考えられなかった。


「天斗っ。」


 注意の声をかけながら三人で後方へと下がる。声をかけられた天斗も異変を感じて反射的に碑から離れた。その瞬間赤い光の球が急に増殖して集まり始めた。


(やっぱりまずいかもな…。)

 結合していく赤い光球は昨日見た時と同じように、その光の色を変化させて形を変え始めた。


「逃げるぞっ。」


 そう叫んで、二歩走ったところで足の裏が地面から離れなくなって、その場から動けなくなった。


「なにっ。」


 その場から動けないということは逃げられないことを意味する。昨日の敵対行動を考えると友好的な関係は望めない。すなわち、待っているのは、この世にあるとすればだが死、だ。

 眩しいまでの光の塊からのぞく平べったい赤黒い頭。


「アルキュオラ…。」

「はっ? 何言ってんだ天斗。」

「あいつの名前だよ。あの石碑に書いてあった。他にもセルキュオラ、キャルキュオラ、ヴェルキュオラってのがいるらしい。」


 天斗の顔は真剣だった。目の前の生き物のようなものがあと三体いたということを知っても、諦めているような気持ちは伝わってこなかった。


「ほかには? 倒し方とか載ってなかったのかよ。」

「ゲームの攻略本じゃないんだ。そんなもの載ってるわけないだろ。」

「なら何が載ってたんだ。」

「二人とも、こんな時に言い争いしないで。動けない状態でどうやって逃げるか考えないと。」


 なんとなく申し訳なくなって頭だけ動かして、謝罪する天斗と啓太。頭を下げた状態で天斗は声を発した。


「無理だな…。」


 その言葉は亜美の質問に対する答えだった。


「何を言ってるのっ、仲井君っ。」


 動けない状態でどうやって逃げるのか。その答えは簡単にして単純明快。つまりどうしようもないのだ。人間は足を使って行動する。その移動手段であり、唯一の道具となる足が地面から離れなくなって動かせなくなってしまったのだ。つまり、どうすることもできない。

 啓太は亜美から視線を外した。すると、視界に一番近くにいて隣にいる、幸の姿が入って来た。


「くっ…。」


 あんなにここに行くことを反対していたのだ。今更ごめんと言っても遅い。


(俺のせい、か…。)

 実はここに行こうと言いだしたのは啓太だった。夜見てきたからいい、と言う天斗に明るいから新しい発見があるかもしれないと説得して無理やり出発したのだ。

 悔やんでも悔やみきれない。目の前に真っ黒な靄が広がっていく。何もできない。何も考えられない。広大な世界に対しての自分の小ささ無力さを感じさせられた。

 頬に冷たいものが流れた。涙だ。啓太の後悔が形となって外に出てきたのだ。


「冬島君。」


 それは幸の声であり言葉だったが一瞬誰のものかわからなかった。

 四人の目の前でアルキュオラは頭をブルリと振るって体中にまとわりついた光の塊を吹き飛ばした。そしてあらわになる刃物のような首の突起に、丸い奇妙な形の翼。昨日見た時と何も変わっていなかった。


「くそ…。」


 今の自分には、否これからの自分にも目の前の生き物をどうにかする力は身につかない。結局どうあがいても変わらない。隣ですすり泣く声が聞こえる。幸のものだ。少し離れたところでも亜美のものも聞こえる。


(全部、俺が招いてしまったことだ…。)

 巨躯を動かすアルキュオラの気配が感じられるようになった。そう思ったときには、四人の姿はどこまでも大きく感じられる、黒い影に覆われていた。


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