第一章 十五 天斗の行動 1
ちょっと今回は短めです。
「俺が一人で動いてたのは、それが俺の思い付きだったからだ。それだけのためにみんなを動かしたくなかった。」
天斗はそう切り出した。
ふと思ったのはお前らの話を聞いてからだった。この世界で初めての生物。この時間帯にその出来事はあまりにも不自然すぎたんだ。たいていのことなら許容できるつもりではあったんだが、これは度が過ぎてた。そこで今までの解決していない部分のことを踏まえて改めて一から考えることにしたんだ。
「待て待て。改めて問題を見直してお前は何かを思いついたわけだろ。そこまではいい。でもなんで、たった一人で行動することに決めたんだ? 野球部の他の奴らを一人二人連れていくことだってできたはずだろ。」
壮真が聞きたいのは、何をしていたかというのもあるがなぜたった一人で動いたのかということだった。
「それは…。」
そこで初めて天斗が口ごもった。何か後ろめたいことでもあるのだろう。
(…これ、か。)
壮真は天斗が片手に持っていた、自分の活動許可証を取り上げて目の前にかざす。
「これ、か?」
「っ! …ああ。」
俺はお前の所有物をお前に黙って使うことにした。これが誰にも言えなかった理由だ。誰かの物を盗んだり、それに近い行為を公にしたらこれからに、どういう影響を与えるかわからなかったから。
天斗は天斗なりに考えがあってのことだった。高校に入学してからしばらくして壮真は天斗の性格に気づいた。周りに対するものに比べて、自分に対するそれはあまりにも厳しいのだったのだ。そして自分に対して厳しく接してしまうその性格が今回、天斗の単独行動を助長することになったというわけだ。
「で、どうやって盗ったんだ? 俺の許可証。」
自分の想像と天斗の話とを合わせて考えると単独行動の理由については納得がいく。しかし天斗は校舎から離れて以来、壮真に近づいていない。壮真が許可証をずっと持っていたわけだから、いつ盗ったのか否、盗られたのかがわからないのだ。
「それは、京子に盗ってもらった。」
「島ノ江に?」
「ああ。あいつは八方美人だけど、気配を消すのも上手いし手先が器用だ。うってつけの人物だと思ってさ。」
天斗はそう言いつつも相当の罪悪感を感じているのか、うつむきがちに続ける。
旅館に着いた後、俺はすぐに京子に頼んだ。さすがに躊躇してたけど、何とか持ってきてもらった。お前のやつを選んだのは、俺の許可証に地図が載っていたらよかったんだが、お前のものにしか載ってないからだ。そして同時にどこまでの範囲が許可証によって許可されているのかを調べたかったんだ。
「許可されている、ていうのは?」
啓太がそう尋ねる。
「許可証に、持っている間にのみ活動できる、みたいな文章があっただろう? それで、許可証からどれだけ離れたら動けなくなるのかっていうこと。」
それから一人でここを抜け出すことは簡単だった。お前ら含めてほとんどの奴らが探索に出て行ったからな。外に出てまず調べたのは、お前の許可証の記述だ。他に何かないか知りたかったんだ。すまねえ。
壮真の許可証を見たというなら、“あの”記述を見たということだ。壮真が全員で会議をするときに気が付いた、新たな記述に。
「てことは、見たんだな。あの文を。」
「ああ、初めは意味が分からなかったけど、何とか頭をひねって謎は解けた。」
記述を見た後、俺はもしかしたらっていう可能性に賭けて校舎内の俺らの教室に向かった。あの宝箱だけがずっと大きく俺の頭の中に引っかかってたからな。
「え、一人で?」
零は真っ暗の校舎内を一人で動き回ったということに驚いたようだった。微妙に驚く部分が違う気もするが気にしないことにする。