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終わりなき世界で  作者: 緋島 奏
第一章  東京都編
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第一章 十三 影の動き


 ところどころ街灯がついているだけで、あたりはとても暗い。“東京”とは思えないくらい静まりかえっているのだ。

 少年は手の中の物の存在を改めて確認する。自分の存在は上手く確認できなくてもこれだけは出来た。


                *  *  *


「なんで外に…。」


 今日は謎の生き物の存在が確認されたばかりだ。そして、それがどういう生き物なのかが全く分かっていない。なので、いつどこで遭遇するかわからない危険の中、なぜ天斗が外に、しかもたった一人で行ったのかがわからなかった。天斗のことだからそういう事態を軽視しているということもないだろう。


「…そのうち戻ってくるだろ。」

 誰かがそうつぶやいた。確かにいずれ戻ってくるだろう。しかしそこに天斗が必ず無事であるという保

証はない。


(どうするか…。)

 壮真は一人考え込みながら、その場を行ったり来たりする。


「壮真。天斗はきっと何か思いついたんだよ。お前が俺らと合流するときも同じようなことがあった。」

「でも…。」

「きっと自分の思い付きだけで、他の奴を危険に巻き込みたくないんだと思う。あいつは、天斗はそういうやつだ。」


 啓太は天斗のことを心から信頼している。今の言葉でそれは確信した。啓太も天斗のことが心配なのだろう。でも逆に、どこか天斗の行動に期待している部分も感じられた。


(なら…。)

 現在、クラスメイトの中で一番全員のことを考えてられているだろうということは、壮真はひそかに自負していた。しかし考えているのと信頼をしているのとは違う。まったくの別物だ。


(信頼してないのか…。)

 そういうわけではないだろうが、おそらくそれに近い状態だろう。他の者はきっと何事もなく戻ってくることを信じているのだろう。


「もう少しだけ待ってみよう。それに全員で外に探索に出たらそれこそ危ない。」


 壮真は一言、それだけ言うと広間の端のほうに向かう。


(…にしても一言くらい言っていけばいいのに…。っ!)

心の中で、言葉には絶対にできない悪態をつきながら壮真は歩いていた。普通に歩いていただけだが、急に足が進まなくなってしまったのだ。


「壮真。どうした?」


 後ろから啓太が声をかけてくれる。考え事をしながら広間の端へと向かう壮真の姿をずっと見ていたのだろう。反応が早かった。


「…あ、動けない…。」


 躰が動かしにくいだけでなく、声も出しづらい。壮真の小さな声は静かだった広間にいた、全員に聞こえたようだった。


「大丈夫か?」

「中原君!」


 精神的な疲労などが一度に降りかかり、身体に異変が起こったのかどうかわからないが、少なくとも突然動けなくなるということに対しては全く心当たりがなかった。当たり前と言えばそれまでだが。


「抱えるぞ。」


 啓太のほか、数人の男子生徒が壮真を囲んで近くの椅子まで運んだ。立ったままの壮真の体制を気にしてくれたのだった。


「…わりい。」

「いいって、気にすんな。…何かほかにはおかしいとことかあるか?」

「…いや…大丈夫、だ。」


 実のことを言うと壮真は別に苦しいというわけではないのだ。ただ脳が出す、動けという指令だけが躰に届かなくなっていると言えばよいのだろうか。考えることはできる、しかしそれに動きを加えるとだめなのだ。

 それを伝えなくてはとは思うものの伝えることはできない。長く言葉を話すとそれだけでもかなり疲労してしまうからだ。躰が自由になったときに疲れて満足に動けなかったほうが問題になってしまう。




(ここか…。)


 目の前にあるのは巨大な石造りの神殿。


「やっと来たのか…。」


 神殿の奥のほうで男の声が聞こえた。ゆっくりと奥へと向かう。男の姿が見えてきた。長い布を羽織っており厳かな感じがする。


「すまないね。でも俺の方にもちゃんと仕事があるんだよ、ノラ。」


 そう。もともと男、ノラが自分にああいう仕事を任せるからいけないのだ。


「で、用はなんだい?」

「そう、急ぐな。ゆっくり話そう。」

「何とか仕事に合間を見つけてきたんだよ。そんなことできるわけないじゃないか。」

「なら、ついてこい。」


 苦笑しながら後に続く。


「それで、第一複製都市の様子はどんなんだい?」


 これに関してはノラよりも自分のほうが知っている。しかし、ノラがどれだけ仕事をしているのかというのが知りたかった。


「まあ、黙ってこい。いいものを見せてやる。」


 そう言って、ノラは神殿の奥の部屋へと招く。


「なんだよ、まったく。」


 ノラは席をすすめた後、ゆっくりと部屋の奥へと向かいコンピューターの画面を付けたまま持ってきた。


「これだ。」


 これは? と聞く必要はなかった。題名とともにその詳しい説明が添付してあったからだ。黙って先を読み進めていく。


「お前、本当にこれをやってもらうつもりかい?」

「ああ、これを持ってマタのところに行ってきてほしい。そのために呼んだんだ。」

「どうなっても知らねえよ?」


 ノラはその言葉に怪しげに笑った。


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