第一章 十 行動開始
「よし、これでいいな。」
啓太が役割とメンバーを発表し終わった。壮真は、ページをめくるときに見つけた新しいページから目を話して啓太のほうを向く。
「…まあ、別にいいけど…。」
クラスメイトのことを誰よりも見て、よく知っている啓太だから、メンバーに間違いはないだろう。しかし――
「なんで、二班しかないんだ!」
「今のところ、偵察班と解読班くらいしかいらないと思ってさ。」
「それでもだな…」
啓太の発表だと、偵察班六人、解読班が四人しかいない。役割が決まった者は合計で十人ちょうどだ。啓太曰くほかの三十名は後で発表だそうだ。ちなみに啓太自身が偵察班。
「それに、さっきの二班には早速仕事をしてもらうつもりだ。ここに来てから、全員がそろわなかったからできなかったけど、この世界にある、俺たちが使える物とかを探したいんだ。今の状態だと、はっきり言って行動のしようがない。」
啓太は啓太なりに考えがあってのことらしい。それに、皆が黙っていることからすると意義は無いのだろう。壮真からすれば何か意見を出してほしいところではあるが。
「偵察班の中島、河野、猪田は学校の北から東にかけて、周りに今までになかった気になるものとか、俺ら以外の人がいないとは思うけど、その捜索に当たってくれ。そして、東と横手の二人は俺と南から西にかけてだ。どちらもできるだけ学校から離れないように。」
壮真が見た限りだと、足の速い者を集めたように見えた。何か発見したりしたときにすぐに伝えられるようにするためだろうか。
そのあと、解読の役割を与えた者にもすぐに指示をして、全員は一応行動開始らしい。
「意外と冬島って考えてたんだな。」
天斗が意外そうに言ってくる。
「ああ。ほんとに。」
他人事のように会話をしているが壮真たちにすることがないというわけではない。残った三十名にはこの学校の敷地内にある使用できる物などを探し回るという仕事があるのだ。
(二班しか作らなかったのもこのためか?)
確かに広い場所を探すから、なかなか妥当な配分ではあると思う。
(解読班も頭の回転が早い者ばかりだし…)
しかし、天斗が解読班に入らなかったのは意外だった。啓太以外の者だったらきっと天斗を所属させただろう。
「じゃあ、俺らも動くか。みんな集合はここにしよう。もう少しで日が暮れるから、それまでには戻ってくれ。」
壮真はさっと伝えて自らも動く。初めはぎこちなかったが、指示を出すのにももう慣れた。壮真をどこにも所属させなかったのもこのためか?
(帰ってきたら聞くか。)
壮真は隣にいる天斗ら野球部とともに学校敷地内の探索に動き出す。いつも通っていた学校だ。今まで見たところどこにも変化はなかったから、迷わずに動けるだろう。
他の者も仲のいい者同士で組んで探索に乗り出している。
「おい、中原。これは?」
校舎内に入って職員室を探索していた時だ。天斗が壮真を呼ぶ。駆け寄ってみると、職員室に並んでいる机のうち一つにだけ、シャープペンシルが十本置いてある。
「なんかありそうだな。」
「ああ、でも何かに必要なら不自然でもしょうがない。」
一緒にあった付箋紙の束一つとともに持っていくことにする。
「机の引き出しも探すか。」
独りごとのように呟いてから壮真は引き出しを開けては、中身を確認という作業をひたすら繰り返す。文房具が置いてあった机には何も入ってなかった。四人で職員室のばらばらの場所を探しているが、未だにあれ以上の発見は無かった。
すぐ隣にあった給湯室では、飲めるかどうか怪しい水の入ったペットボトルを一本を入手。
「意外と探せばあるもんだな。」
壮真は黙って頷き、探索を続ける。しかし、校長室の扉に手をかけたとき窓から日が暮れかけている外の様子が見えた。
「おい、戻るぞ。そろそろ日が暮れてしまう。寝る場所は近くにあった旅館でいいけど移動にも時間がかかるだろ。」
探索を続けていた野球部四人にそう告げてから、引き上げる。また、明日も探すことになると思うから焦る必要はないだろう。
「何かわかった?」
そう言って、由里は目の前にいるほかの解読班の者に声をかける。
「やっぱりこの“我が物とせよ”の部分て、何か隠されてる感じがするんだよな。」
現在、解読班の四人は全員の集合場所で試練の記述を解読していた。“空飛ぶ円盤”の部分は手のつけよう用がないから、もう一つの部分を頭を悩ませて考えていたのだが、裏に何か大きな意味が隠されているような気がするのだ。
「我が物ていうのは、誰に向けて言ってるのかな。」
《空飛ぶ円盤、それを見つけ我が物とせよ》これ以上に活動許可証のどこを探しても追加がなかったから、誰に向けて言っているのかわからないのだ。それ単体だと、壮真たちに向けて言っていることも考えられる上に、ノストラダムス自身に対していっていることも考えられるからだ。
「そういえば、ここってノストラダムスの場所なんだよね。」
何かに引っかかって一度確認をとる。
「たぶん間違ってないと思う。」
「うん。」
その時、とても大きなものが壊れるような音が周囲に響き渡った。鈍い音から推測すると建物か何かだろう。
「外からだ。」
今まで本当に静かだったから、この音には、ここにいる四人の誰もが驚いた。