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靴を履いて旅に出て、鞄に荷物を詰め込んで  作者: 実里晶
靴を履いて旅に出て、鞄に荷物を詰め込んで
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第59話 遺跡のからくり


 グレシア小王国はその名のとおり、ヴェルミリオンと南方諸国の間に挟まった小さな国だった。

 かつて隆盛を誇ったグリシナ古王国の末裔を名乗ってはいるものの、国土は狭く、王様も騎士も国民もみんなが肩を並べて畑仕事をしているような呑気で穏やかな土地だった……そうだ。

 というのも六十年ほど前の、天候不良が長く続いた年のこと、飢饉を予見したグレシア王は《民を誰一人、飢えさせないこと》を条件に、勢力を増していたヴェルミリオンに王権を譲り渡して歴史の幕を引いてしまったから、この国のことはすでに過去の歴史になっているのである。

 グレシア王はなかなか人のできた人物だったらしいが、彼の逸話はあまり残されていない。

 なんでも、人々が彼を讃えて国内の政治に不和が起きないよう、緘口令を敷き、王の一人娘を人質として取ってしまったようなのだ。ヴェルミリオンは、そういうけちくさいところのある連中だった。


 ところで、グリシナ古王国は一つ目鬼サイクロプスを倒して建国されたという伝説がある。


 その伝説を真実と示すように、現在はグレシアとだけ呼ばれる地には彼らにまつわる遺跡が多く存在し、巨人族遺跡群と呼ばれている。

 古代の謎めいた遺跡は、もちろん冒険者たちの格好の仕事場である。

 トワンが所属する《そよ風の穴熊団》はレヴェヨン城での仕事に一区切りつけ、この遺跡群まで足を延ばしていた。あまり近いとも言えない距離だが、普段あまり団の方針に口を挟まないトワンが「どうしても」と言い出したのだ。

 一つ目鬼たちは高度な知能と文明を持つ種族であり、遺跡にはレヴェヨン城と比肩する数々の《仕掛け》が施されている。

 これらの解き方を学ぶのも盗賊職の大事な仕事である。

 とはいえ魔術が組み合わさったような大規模な仕掛けは、魔術の知識が無い現在のトワンひとりではどうにもならないのだが、今後のためにも早いうちから実地で見ておきたかったのだろう。

 団のメンバーは相談し、遺跡群の中でも群を抜いて巨大と知られる《ヤドハクの塚》を目指すことにした。

 そこは発見されてまだ十年と新しい遺跡で、しかもからくりは手つかずのままだった。古代の墳墓であろう、ということはわかっているのだが、古今東西、いたるところから高名な知恵者や学者をかき集めてしかけを解こうとしたのだが、いまだに誰も入り口の扉でさえ開けられないでいる遺跡であった。


 大陸に難攻不落の代名詞として知られるヤドハクの塚の入り口までやってきたトワンは、その扉の前に腰を下ろしていた。

 そのだいぶ先を、アンナは相棒の狼とともにうろうろして、所在なげな顔をして、ポニーテイルと灰色の尻尾をそれぞれ揺らしながら戻ってくる。


「トワン、何かの参考になった?」とアンナが訊ねる。


 トワンはげっそりした顔をしていた。

 彼が地面に屈んでいるのは、遺跡の巨大さゆえだった。

 ヤドハクの塚の仕掛けは、四辺の長さの等しい四角形の内側に巨人族独特の紋様が描かれた正方形のパネルが九枚並び、それを動かして正しい位置にはめこむとからくりが動く、という単純明快でよくある仕掛けに過ぎない。

 鮮やかな蒼や赤や黄で描かれた絵は巨人族の狩りの様子を描いたもので、組み合わせは単純だ。

 だが問題は大きさだった。

 ゴツゴツした岩肌に埋め込まれた仕掛けは長身なリーダー・アエラキよりはるかに大きく、ゆうに二十倍は高さがありそうなのだった。

 なので、その場にしゃがまなければ全容が視界に入って来ないのだ。


「…………全く参考にならない」


 トワンは長い溜息を吐いた。

 情報はねじ曲がって伝わるものだ。古今東西から集められた知恵者が、仕掛けを解けなかった理由は明らかだ。

 この塚を暴きたいものは、力自慢か、土木工事の達人を連れてくるべきだった。


「一つ目鬼っておっきかったんだねえ。壁画みたいでとってもきれい」


 項垂れるトワンの隣でアンナが言うと、


「うむ、大きいことは素晴らしいことだ! トワンのおかげでいいものが見れたな!!」


 アエラキは腕組みをして答え、まとめた。

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