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8.スローテンポの愛と死を

 厳重処分に、D判定。ペアの佐藤さんからの強烈ビンタ。挙げ句、教室に一人取り残される。

 彼女に振り向いてもらう為ならえんやこら。どんな障害だって乗り越えられるのだ。


「よお。お前にしては珍しい発表だったな。いつもは冷静に淡々と言うのによう」


 片手を挙げて、友人が入ってきた。後ろには僕に会いに来た彼女がいる……こともない。単に友人は僕を励ましに来たのか。


「今度はテイストを変えてみて一発狙ったんだけど、審査員にはウケなかったみたいだね」

「だな。俺は悪くはなかったと思うけどな。……何か、昔の事を思い出したし」

「昔の事?」


 友人は鼻を赤くして笑う。照れ臭い過去なのか、切り出しがつかずモゴモゴと口を開閉させるばかりだ。


「ほら、前に話しただろ。『ユカちゃん』の事を」

「ユカ、ちゃん?」

「覚えてないのかよ。結構エグい話だから勇気振り絞ったのによう」


 何故。お前がユカちゃんを知っている。彼女を見知った口振りで、嘯くのか。嘘つきの僕を騙そうったってそうはいくか。


「小学生の時だな。両親に虐待されている女の子と偶然仲良くなって、隠れて遊ぶ様になった」


 知ってる、知ってるぞ。その話。場所は公園の後ろの空き家だろ?


「俺と遊んでるユカちゃんは元気なフリをしてたけど、ある時虐待を打ち明けてくれて、抱腹しに行った」


 そう。神になる為に、死を与えてやった。


「ちょーっと子供のイタズラを仕掛けただけさ。ユカちゃんが死んだフリをした。それだけで、両親は大騒ぎでユカちゃんを助けようとした。で、和解して引っ越しちまった」


 嘘だ、僕は、彼女と両親を殺した。覚えてる。あの、血を。一面の赤を。


「一番虐待が酷かった時は、一緒に死のうと誘われたな。ユカちゃんは辛かったんだろうな。でも、今や……」


 友人は、チラリと廊下を見た。すると、遠慮がちに僕の、愛しの彼女が顔を覗かせた。


「こうして無事生きてたっつー事だよ」


 彼女は屈託なく笑っている。何だ、僕の知らない間に随分仲が良くなってるじゃないか。

 彼氏の僕がいるというのに。いただけないなあ。

 悪い彼女にはしっかりお仕置きしてやらないと。


「ユカ、ちゃん。さっき言い忘れてたんだけどね」


 彼女は目を丸くする。どうしたの、そんな顔して。あ、お仕置きが嫌なの? 駄目だよ、ちゃんと受けないと。


「心中は法律で裁かれない究極の愛なんだよ。他人は介入出来ない愛の形。これで、君が望んでいた神になれるよ」


 可笑しいね。涙を溜めて、首を振るなんて。僕の愛した彼女は聡明だ。そんな愚かな行為はしない、はずだ。

 君は、誰?


「タカくん、……不思議な友達だね」

「おい、斉藤俊太さいとうしゅんた。ユカちゃんをからかうのもいい加減にしろよ」

「からかう? 何を言ってるんだか。からかってるのは君らだろ。二人で結託して」

「……どうしたってんだよ」


 友人は僕から離れて彼女へと駆け寄る。あれれ、僕の彼女なのに。どうして、彼女は友人の後ろへ隠れるの? どうして、怯えた目をしてるの?


 どうして……あれ?


 そういえば、僕の名前にタカは入ってないのに、どうしてタカくんって呼ばれてたんだ?


 もしかして、全て、友人からもらい受けた知識からの妄想なんかじゃ、ないよね。

 まさか、そんなこと、ないよ。

 僕は、ユカちゃんと神になる男だ。選ばれた唯一の男なんだ。友人がタカくんじゃない。


 そうだ、友人を使って神になろう。手っ取り早い。単純な方法だ。あの時みたいに、携帯ナイフで首をかっ切る。

 赤い噴水が、神の証拠だ。僕は友人の様に愚かな生物にも死を与えてやる。心が広い神なんだよ。

 そう、ぎゃあぎゃあ騒がしい女の死も支配してやろうか。友人の様に一思いに、俗世界からオサラバ出来るんだよ。


 僕は、なんて優しいのだろう。

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