表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理不尽な遊戯  作者: 御堂筋優
 第 一 章 ~ 鬼 ご っ こ ~
4/6

叫狂


 ~NO.2 『四月一日(わたぬき) 狩魔(かるま)』~






         現  在  4月10日 PM01:28

         一回戦・開始時間  同 日  PM01:00   

         執行人・解放時間  同 日  PM01:30



「あと、二分」

ぽつりと呟いたみぃちゃんの声に、待ってましたと言わんばかりに勢いよく

立ち上がるポチ。

それとは反対に俺は腰を下ろしたままだ。

あと二分もあるのに、立ち上がったアイツの心境が理解できねぇ。

しかもさっきから、ウロチョロ歩き回ったり、座ったかと思ったら貧乏揺すり

し始めたり。

はっきり言って、

「うぜぇ」

「あァッ?!喧嘩売ってんのか、このたぬきジジィ!!いきなり口開いて、

 『うぜぇ』ってどうゆうことだァ―――――!!」

ギャアギャア喚くポチ、もといぜろとは3年以上も前からの付き合い

だ。こいつは落ち着きがなくて、短気で、能無しで、馬鹿で、五月蝿いだけの

人間で、よくもまぁ3年間も一緒に行動できたもんだ、と内心思う。

俺も結構短気な人間で、すぐに手が出るタイプだから余計に。

恐らくみぃちゃんがいなければ、俺とポチは一週間ももたなかっただろう。

どちらかが死んでどちらかが生きていたか、もしくは両方死んでいたか。

それくらいに、仲が悪い。

犬猿の仲、というやつだ。

初めて会った時は、ポチの目が気に入らなくて思わず殴りかかった。

だが、ポチも俺の事を嫌っていたのか俺が殴るのと同時に、顎めがけて足を

振り上げてきた。

そこからはもう容易に想像できるだろう。

俺もポチも短気なもんだからカチンときて、暴れ始めた。

殴っては殴られ、蹴られては蹴り返し。

周囲なんて気にも回さないで。

ただ只管、眼前にいる対象に意識を向けていた。

ガラスが割れる、壁に亀裂が入る、木でできたベンチが真っ二つになる。

逃げ遅れたヤツの襟を引っ掴んでポチに向かって投げ飛ばす。

ポチはそれをよけて、ガラスの破片で俺に切りかかってくる。

ムカついた、楽しそうに笑いながら俺の攻撃をよけるから。

イラついた、獲物を狩るような目で俺を睨んできやがるから。

ザワついた、凄い殺気を俺に向けてくるから。


ムカムカ、イライラ、ザワザワ。


吐きそうなくらいの不快感。

それが気持ち悪くて、すごい不愉快だ。

気に入らない、気に入らない。

その目が、その顔が。


  気ニ入ラナイ


目元を隠すようにそいつの頭を鷲掴(わしづか)む。

手に力を入れていくと、そいつの頭がミシミシと軋んでいるのが分かった。

後ろで、看守が何か喚いている。

だが、よく聞こえない。

今はまず、こいつをどうにかしてから.......。



「そこまでにして頂けますか?」

流石に人を殺すのはどうかと思います、と俺の手首を掴んだ誰か。

手、腕、首、と視線を滑らせ、行きついた先には中性的な顔をした奴。

それがみぃちゃんだった。

白銀の髪、水色の目、真っ白い肌、整った顔。

身体は細いし、身長は高くもなく低くもなくといったところか。

そんな奴が、俺を止めた。

ギリギリと手首に圧がかかる。

それに対して、俺の手に込められた力は弱まっていく。

ボトリ、と赤い髪の奴が俺の手から落ちた。

そして、俺の首めがけてガラスを...。


ドスッ。


「貴方にも、止めろと言ったんですが」

聞こえなかったんですかね。

冷え切った声、鋭い氷のような目を赤い髪の奴に向ける。

俺の手首を掴んでいた手はいつの間にか消えていて、赤い髪の奴の後頭部を

掴んでいた。

その手は遠慮なく離される。

顔面から地面に崩れ落ちる、そいつ。

「...仲間なんじゃねぇのか。」

「仲間?違いますよ。初対面です。貴方も、この人も」

まぁ、監獄に入っているという点については仲間、ですかね。

同じ人種という意味で。

「では、さようなら」

そう言って、背を向ける銀髪。

俺は、何故かそいつの肩を掴んだ。

「おい」

「何でしょう」

「...」

何を言うのか、考えてもいなかった俺。

沈黙が続く。

すると、ふぅと軽く息を吐き出したそいつが口を開いた。

「三日月 秋良(あきら)です」

「あ?」

「名前、聞きたかったんじゃないんですか?」

違ったのならすみませんでした、と謝る三日月?アキラ?とかいうソイツ。

成程、確かに三日月みたいな色の髪だ。

「三日月...アキラ?」

「季節の『秋』に、良好の『良』で『秋良(あきら)』です。貴方の名前を

 お聞きしても?」

「...カルマ、四月一日(わたぬき) 狩魔(かるま)だ」

「カッコいい名前ですね。四月一日さん」

「カルマでいい」

さん付けで呼ばれるのは慣れてなくて、むず痒さを覚えた俺は頭を掻く。

秋良はそんな俺を見て小さく笑うと「じゃあ狩魔って呼ばせてもらいますね。

私の事は好きな様にどうぞ」と答えた。

ならお言葉に甘えて。

「そんじゃあ、みぃちゃん、な」

三日月だから『みぃちゃん』

覚えやすい。

みぃちゃんが少しの間、目を見開く。

すると看守が走り寄ってきた。

「四月一日 狩魔!貴様また!!」

何度暴れれば済むんだ!!と叫び始める看守に適当に返事をする。

「やはり、(あかつき) (ぜろ)とは合わせない方が良かったんだ」

「上は何を考えているんだ」

「しかも三日月 秋良まで押しつけてきやがって」

何人か集まった看守たちが、上司への不満を口から漏らす。

そんなこと俺らに言っても仕方ねぇだろう、と呆れながら、それにしても

さっきの看守の言い方。

もしかすると...。

「みぃちゃん、問題児なのか?」

「...問題児って、子供じゃないんですから。...ですがまぁ、そうですね。

 問題児と言うより、目立つからたらい回しにされている、といった方が

 しっくりします」

この髪色が目立って、絡んでくる奴らが結構いるので。

周囲を見渡して言うみぃちゃんに、「そうか」と言葉を返す。

確かに目立つかもしれない。

周りは黒髪茶髪がほとんどだ。

そんな中に銀髪がいれば目に入りやすいし、それに加え顔立ちも男か女かも

分からない程、綺麗だ。

外人なのだろうか。

日本人っぽくない顔の作りだ。

だから余計に目立つのだろう。

雑魚共が絡むのも頷ける。

「みぃちゃんの、出身って外国か?」

「いえ、日本です。祖母がロシア人なので、目の色が違うだけです」

「ハーフ?」

「違います、クオーターです。祖母がロシア、祖父が日本、その間に産まれた

 私の父がハーフで、母が日本なので」

と説明してくれたのはいいが、よく分からない。

ハーフとクオーターって、何が違うんだ。

「ハーフは半分。つまり私の家の場合、ロシア人と日本人との間に産まれた

 父の事を言います」

「うん」

「そしてクオーターは四分の一。つまりロシア人と日本人のハーフである父と、

 日本人の母から生まれた私の事を言います」

「...うん?」

よく、わからねぇ。

「...簡単に言うと、両親のどちらかが外人だとハーフ。」

「うん」

「祖父、祖母、父、母のうち、祖父と祖母のどちらかが外国人、残りの三人が

 日本人ならクオーターです」

「おぉ!!」

なんか、分かった。

みぃちゃん、クオーターなのか。

「凄いな、クオーター。カッコいい」

「...何がカッコいいのかは分かりかねますが、まぁ良いでしょう」

「おう」

隣でため息を吐いているみぃちゃんに首を傾げて、すっかり忘れていた

看守たちの存在を思い出す。

どうやら、アチラも話が終わったようだ。

一人の看守が目の前に来た。

「四月一日 狩魔、三日月 秋良、貴様らは今日から同室になってもらう。

 ...そこの暁 零もだ」

以上、分かったらさっさと行け、と命令して去っていく看守に首を傾げる。

「俺、一人部屋だったのに、三人部屋になるのか」

「私、一人だったのに、人口密度が増えますね」

みぃちゃんと言葉が重なって、思わずそちらを見ると、視線が合う。

「みぃちゃん、一人部屋だったのか」

「えぇ、理由は分かりませんが」

「これから同室か」

「そのようですね。あと、この人も」

そう言って、下を見るみぃちゃん。

そこには、あの赤い髪の奴が転がっていた。

「すっかり忘れてた」

「さっきまであんなに喧嘩してたのに、ですか」

「ん、忘れてた」

頭をガシガシと掻く。

興味のない事をすぐ忘れんのは俺の悪い癖だ。

でもまぁ、今はそんな事どうでも良い。

「これから宜しくな、みぃちゃん」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。狩魔」

長い付き合いになりそうだと思いながら、気絶した赤い奴...暁ナントカを

担ぐ。

「みぃちゃんはずっと此処にいたか?」

「いえ、今日移動されてきたんです」

「へぇ。俺は二年前から此処にいる」

「そうなんですか、私は四国の方にいましたよ。まさか関東にくる事になる

 なんて、思いもよりませんでした」

「四国か。そう言えば、色んな所回されてたんだったか」

「えぇ、最初は中部にいたんですけど、一か月もすれば移されていたので

 大方の場所は回ったと思います」

俺とみぃちゃんは世間話?をしながら部屋を目指す。

予想だが、もうみぃちゃんは他の刑務所に移されることは無いだろう。

ただの感だが、何故だか俺はそんな気がした。





これが俺とみぃちゃん、そしてポチとの出会い。

看守に煙たがられていた三人が、初めて顔を合わせた日だった。


 

この時は、まさか三人そろって刑務所から出所できるとは、

誰も予想していなかった。




~・~・~・~



「あと、一分」

スゥっと耳に入ってきたみぃちゃんの声に、ふと意識が引き戻される。

軽く肩を叩かれて、ゆっくりと立ち上がる。

少し離れた所には、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている奴らが数人。

折角、逃げる時間が30分もあったのに、勿体ねぇ。

きっと、俺たち3人から逃げんのなんて楽勝とか思ってんだろうなぁ。

それかあの持っている武器で、俺たちをボコボコにしてやろうとか思って

そうだ。

...馬鹿だなぁ。

にぃ、しぃ、ろぉ、やぁ...15人。

たった、15人。

俺たち一人につき、5人が相手になるってことか。

アイツら、本当に馬鹿なのか?

何のためにあのメティアリムとかいう雇い主がゲームプレイヤーを500人、

執行人を3人にしたと思ってる。

ゲームの支配人が、好き好んで賞金を渡したいか?

一人、10億だぞ?

渡したくないに決まってんだろ。

しかもゲームは5回戦まである。

という事は、1回のゲームで100人前後を片付ければいいとメティアリムは

考えている筈だ。

つまりメティアリム...もう面倒だから服、真っ白だったしシロって呼ぶか。

シロは俺たちが3日で100人片付られると思っているんだろう。

だというのに、だ。

目の前のニヤニヤしてる奴らは、それに気づいていないらしい。

もしくは気付いていて、それでも勝てると思っているのか。

どちらかは分からないが、兎に角俺たち3人をめているのは確実だ。

あぁ、ムシャクシャする。

俺は、嘗められるのが嫌いだ。

どうしようもなく我慢できなくなる。

ナックルを嵌めたこの右手で、無性に殴りたくなってくる。

骨が砕ける音を聞きたくなる。

飛び散る“赤”が見たくなる。

甲高い叫び声を上げさせたくなる。

ひざまずかせたくなる。

許しをわせたくなる。


そして...絶望させたくなる。


想像して、思わずしてしまった舌なめずり。

口が三日月のように歪む。

身体がだんだん熱くなってきた。


 カウントダウン。


10...9...8...


あぁ、もうすぐだ。


7...6...5...


もうすぐで。


4...3...


2...1...



みぃちゃんが言い終わる前に、相手との距離を一気に縮める。

相手に逃げる隙なんて与えない。

時間、あんなにやったのに、逃げなかったこいつらが悪い。

早く逃げれば良かったのに、な。


一瞬で、なくなった距離。

相手と俺の間にあるのは、たったの一メートル弱。

目の前の奴らはこれでもかっていう位、目を見開いている。

おいおい、そんな風にしてると目ん玉飛び出んぞ。

なんて、考えながら拳を握る力をより強める。

相手の顔が、驚愕きょうがくから畏怖いふの念に変わる。

それがまた変わるのは、もう分かりきっていること。

一番近くに立っていたヤツに向かって、ニィっと笑みを向ける。

畏怖のあまり白くなっていた顔が、今度は青くなった。

少し離れた所で、みぃちゃんの声が「0(ゼロ)」と言い終わると同時に、

拳で殴りかかった。



鈍く何かが砕けた音、その後すこし出遅れてあまり大きくない絶叫が響く。

そうそう、これが聞きたかった。

どよめく声、逃げようとして足をもつれさせるそいつ等。

その顔は、やはり想像してた通りに変化していた。


『絶望』

『恐怖』


そして、バケモノを見るような“目”。

そう、これが見たかったんだ。

やっぱりこうでなきゃ、詰まんねぇ!



さぁ、ゲームは始まった。

ベロリと、ナックルに着いた赤を舌で掬う。

「甘ッ」

地面に転がったヤツの頭を踏みつけて、体重をかける。

靴ごしに、骨が軋んでる感触が伝わってくる。

楽しい、楽シィ。

グルリと周りを見渡す。

悲鳴を飲み込む音が聞こえた。

駄目じゃねぇか、ちゃんと最後まで出さなきゃ。

さっきの悲鳴も、大したことなかったし。

ゲーム開始を彩るには、ちぃとばかし物寂しい。


頭を踏みつけていた足を退ける。

少しばかり、目が死にかけてる奴。

でも、駄目だ。

開始の音はお前が出さなくちゃ、なぁ。


足を限界まで上げる。

そして...。


「ぎゃあああぁあぁあああああああああああぁあーーーーーーーッ!!!!」


ボッキリと面白い程響いた音と、金切り声。

あと、叫び過ぎて喉が切れたのか口から溢れ出たアカ。










      ゲームの始まりを告げたのは、甘美なまでに赤い血液と、

      遠くまで走り去った絶叫。

      それに続いたのは、複数に重なる死への音。

      しかし、まだゲームは始まったばかり。

      これは序の口に過ぎない。

      プレイヤーは、三日間で、何人生き残る?

      執行人は?

      その答えを知る者は、まだいない。

      だが、案外。

      ゲームの終わりを告げられるのは、近い未来かもしれない。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ