聞こえるということ
別に順序立てて書くつもりもありませんが。
ある方に微妙に情報提供していますので、いずれそちらの方が同じようなことを少し違うアプローチから書くかもしれません。その際にはそちらもぜひご覧ください。
さて、耳で聞こえるというのはどういう仕組なのでしょうか。耳の穴の奥に鼓膜があってというのはご存知だと思いますが、まぁそこも含めて、さらにその奥までの話です。
鼓膜の内側には合わせて耳小骨と呼ばれる三つの骨がくっついてます。これがてこの原理で、鼓膜が受けた圧力を増幅します。圧力としては10から20倍くらいになるらしいです。細かい数字は忘れました。
するとわかると思いますが、耳小骨のもう片方の端が問題になります。そっちには蝸牛、あるいは蝸牛管とよばれる組織があります。これは、例えば水のホースのようなものと思ってください。ホールの下(?)の部分には基底膜と呼ばれる組織があります。ただ、真っ直ぐではなく、くるっと丸まっています。2.5から3回転弱くらい。太さも入口の方が太かったりとかありますが、それはまぁいいや。
その蝸牛の中はリンパ液が詰まっています。
基底膜には有毛細胞が並んでいます。有毛細胞には二種類ありますけど、ここでは無視。どっちにしろ「毛」が生えているような細胞です。
鼓膜から耳小骨を経由して、圧力の変化が蝸牛に伝わってきます。
ちょっとここで注意です。音波は疎密波です。つまり縦波。これが横波だと鼓膜や蝸牛の入口が横に滑ってしまうだけかな。
縦波なので、蝸牛に圧力の変化を伝えます。すると蝸牛の中のリンパ液にも疎密波が伝わります。怪我をしたときなんかにリンパ液を見たことがあるかと思いますが、ちょい粘度があります。これがちょい大事。
疎密波が蝸牛に伝わると、リンパ液も伝わった疎密波で少し動きます。そうやって動いたり圧力が変化することで、基底膜が少し揺れたり、有毛細胞の毛が揺れたりします。ここで基底膜の揺れで音を聞いているのか、それと有毛細胞の毛が揺れることで音を聞いているのかという論争もあったようです。一応、ある意味では両方と考えられてます。とくに、基底膜の揺れで有毛細胞の揺れを増幅しているとも考えられています。
で、有毛細胞から神経がごっちゃと伸びていて、脳に伝わっています。そっから先は低次聴覚野の話になります。それはまぁまたそのうち。
とりあえず耳の組織の概要はこんな感じです。ですがこれだとまだ説明してないことがあります。というのもだいたい20Hzから20kHzくらいの音を人間は聞けますが、その音の高さをどう聞いているのかの話がまだです。
蝸牛の入口に圧力がかかったり抜けたりするわけです。その疎密波は蝸牛の奥まで届きますが、全てが奥まで届くわけじゃありません。
基底膜の幅や厚さ、そして有毛細胞の毛の長さが蝸牛の位置によって違います。そして何よりリンパ液で疎密波がある特徴を持って減衰します。というのも、入口では高い周波数もまだ生きているのですが、奥になると次第に高い周波数から減衰して行きます。それと有毛細胞の毛の長さなんかが関係して、蝸牛の入口では高い音に反応し、奥だと低い音に反応します。蝸牛の入口からの距離を用いた、よくできたアナログな、あるいは物理的に周波数分析をしているようなものです。
ちなみに、よく大音量でヘッドフォンで音楽を聞き続けると耳が悪くなると言われます。また、歳をとると20歳くらいからどんどん高い音への感受性が下がります。後者については例えば、若い頃はモスキート・ノイズが聞こえるのに、少し歳を取ると聞こえないとかですね。これは、主に有毛細胞の劣化、単純には振動を感知する毛がとれてしまうことによります。
そうなった時、しばらくすると「耳が治った」と感じることもあるようです。ですが、実際にはまず「治りません」。有毛細胞の毛は、基本、取れたらそのまま。そうでなくてもそう頻繁に再生しません。ではなぜ治ったと感じるのかというと、聞こえなくなったことに慣れたからです。耳が悪くなったのを意識しなくなったからです。
補聴器の音を聞いてみてください。だいたい高い音が強調されているように聞こえると思います。それはそういう理由です。
まぁ鼓膜から蝸牛まで、よくできた仕組みです。ただし、どの周波数に対しても同じように反応するわけではありません。たとえばdBとしては同じでも、大きめに聞こえる周波数と、それほどでもない周波数があります。これについては「等ラウドネス曲線」を検索してみてください。
さて、「蝸牛の入口からの距離を用いた、よくできたアナログな、あるいは物理的に周波数分析をしているようなものです」と書きました。で、その先は神経で脳の低次聴覚野に繋がっており、電圧で信号が伝わります。ということは…… 蝸牛の中で、ある周波数に対応する部分にちょいと電圧をかけてやると、聞いたのと同じことになるのでは……
はい。そうなります。それをやってやるのが人工内耳です。
人工内耳は、蝸牛に差し込む柔軟性がある細い棒のようなものと、だいたいは頭の皮下に埋め込む信号を受けるユニットからなる内部ユニット、そしてそのユニットに皮膚の上からパチっとはまる部品と、そして音を収集して周波数分析を行なう機器からなる外部ユニットからなります。蝸牛に差し込む細い棒のようなものには、いくつかの電極がついています。電極の数は、外部ユニットで何チャンネルの分析をするかに依存します。あるいは逆に棒に何チャンネルの電極をつけられるかによって、外部ユニットで何チャンネルの分析をして出力をするかが決まります。皮下のユニットとそれにはまる外のユニットを通じて、棒の各チャンネルに与える電圧を伝えます。
ですが、今のところ天然の蝸牛で行なえるほどに多くのチャンネルを着けることはできません。一つには、単純に棒につける電極を多くするのがいろいろと難しいことがあります。電極が多くなると、棒の根本にはその分の電線が必要で、太くなっちゃうとか。それと、外部ユニットの電池の問題もあります。細かく周波数分析をしようとすると、その分の計算が必要で、それなりにバッテリーを食っちゃうとか。例えば8時間しか外部ユニットが動かないなんてことだと、あまり嬉しくないですよね。まぁ単純にはこのチャンネルの数が多いほどいいはずではありますが。
他にも人工内耳には問題というか、気にすることがあります。
まず、棒を蝸牛に差し込んでしまうので、つまり蝸牛の入口をぶち破ってしまうという破壊的な装着になるという点です。装着したけど気に入らないからといって、取ってしまうということができません。取ってしまってもかまいませんが、蝸牛の入口がぶち破られているので、装着の前の状態には戻りません。
また、棒のチャンネルが蝸牛の中でそれなりに適切な位置に来ないと、ずれた周波数の信号が脳に伝わることになります。
そして何より、脳の低次聴覚野が機能するようになっていないと、人工内耳を埋め込んでも無駄です。つまり後天的に鼓膜のあたりに問題が発生した場合には装着できる可能性がありますが、先天的に問題がある場合、生まれてすぐさまにでも装着しないと低次聴覚野の学習ができません。というのも、生後一年程度で低次聴覚野の学習って終っちゃうんです。ですが、生まれてすぐというのは装着が難しいのです。成長によって多少頭が大きくなったりもしますし。
では、人工内耳を使った場合、音はどう聞こえるのでしょうか。これはまず単純に何チャンネルあるかに依存します。今は何チャンネルくらいのがあるかは知りません。ですが、昔、人工内耳の装着者がどう聞こえているのかのシミュレーションを聞いたことがあります。正直、ノイズにしか聞こえませんでした。
ですが不思議なもので、人工内耳の装着者にはそれなりに聞こえるようです。シミュレーションで作った音も、不思議なもので、慣れてくると何か聞こえます。
そんなわけで、人工内耳はないよりもあった方がいいかもというのが現状です。絶対に勧めるというところまではまだ行っていません。そのうちに、勧めるようになるとか、別の方法で代替されるようになるかもしれません。




