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精子から始めるチートファンタジー  作者: 跡地
第一章「卵子争奪戦」
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第6話「善意性分配」

 センリは振り向かない。答えない。思考が鈍重になっていく、その瞬間だった。



完全寄生パーフェクト・パラサイトlv1】このスキルには二つの作用がある。一つ、場で最も強い者を探し出す能力。一つ、親密になることを条件に、その者の如何なる力をも自分のものにする能力である。スキルランクS。



 頭に直接、情報が叩き込まれる。脳裏に浮かぶのは、ライトブルーのスクリーンを見るセンリ。場面が移る。白線を描いて視界が回る。


「千里お姉ちゃん、ねぇ、千里お姉ちゃん。どうして、そんなこともできないの?」


 万里ばんりセンリを見る。8才くらいの子供だろうか。自分センリよりだいぶ身長が低いことが分かる。


 耳に響くのは嘲笑と罵倒だ。


「どうしてそんなこともできない」

「万里はできるのに」

「千里はダメなやつだ」


 居場所がない孤独感がセンリを襲う。存在価値の否定。どうして生まれたのか。涙が枯れるまで泣いても、努力をしても意味はなかった。


 ある日、差しのばされる手。万里の手だ。すでに身長は、センリより高くなっている。高校生くらいだろうか。制服を着ていた。


「いいんだよ。頑張らなくて。僕に依存していい、寄生していい」


 優しさに溢れた声で、万里がささやく。


「その代り、お姉ちゃんは今日から僕の言うことをちゃんと聞くんだよ?」


 命令はかんたんなものから積み重ねられていく。パシリ、雑用、それでも必要とされているという感覚が、センリには新鮮で、頬がゆるむ。


 万里の命令を断ることなど、考えられない。もはや暴行されたとしても、それは自分センリを必要としてくれることであり、つまりは一つの幸せの形だとさえ思えた。


 命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令命令。万里からの命令――それは幸せなはずなのに、なぜ涙が出るのか。


「うぅ、うあああぁああ…………」


 現実に引き戻されて、俺はうめく。すでにセンリの姿はなかった。周りには、俺を心配する仲間の姿。見捨てられてはいなかったようだ。


「大丈夫か? リーダー?」


 尋ねられても、俺は答えられなかった。黙ったまま、さきほどの体験の理由を探る。そして直感的に悟った。


 あれは、センリの記憶であると。


善意性分配エゴイスト】によって、センリは自分の記憶を、俺に分配したのだ。どうして、そんなことをするのか。……決まっている。


「助けて、欲しいんだな」


 バンリに逆らえないセンリなりのSOSシグナルなのだろう。だが、どうしろというのだ。俺は、今にも死にかけているというのに。



「みんな、聞いてくれ。」


 俺は絞り出すように言った。それが最後にできることだと思ったからだ。


「俺はもう、動けない。俺を置いて先に行って欲しい」


 俺のせいで百人もの命を無駄にするわけにはいかなかった。彼には受精するチャンスがまだあるのだ。



 いや違う。



 俺は死の淵に経って、ようやく自分の心情を把握する。


 彼らに行って欲しいのは、バンリの邪魔をして欲しいからだ。つまりは私怨だ。そしてできればセンリに受精して欲しい。完全に私的な理由だ。ここまで協力してきた彼らの転生を願う気持ちは、ほとんどなかった。



 なんという――――エゴイスト、なのだろう。


 スキルは前世を反映する。俺はきっとひどい前世を送ったに違いない。自分が自分を忘れたくなってしまうほどに。


「リーダー」


 俺は彼らの顔が見れない。その資格はないのだ。ひどい虚無感が、胸に穴を空けるようだった。


「リーダー、泣くなよ」

「……なにを、言ってるんだ。俺は泣いてなんていない」


 言葉とは裏腹に、頬が熱い。濡れている。俺はあわてて拭おうとする。しかし拭うための手はないのだ。しっぽもない。


「俺たちが拭いてやるよ」


 身体をすり寄せて、仲間たちが涙を拭っていく。


「命の恩人を、見捨てられるわけねーだろ」


 俺の右の涙を身体で拭った精子が言う。


「そうだぜ。リーダーを見捨てて自分が転生しても、そんなの嬉しいわけないだろ」


 左の涙が拭われる。

 視界が、広がる。そこには、俺に期待の眼差しを送る百人の仲間がいた。


「俺の身体を、命を、預けるぜ」

「な、それは、どういう……?」


 俺の質問に答えるより早く、男は俺に体当たりをした。体当たりをして……俺に溶けていく。


-【サエギリの命が捧げられた】スキル【韋駄天ドライブlv1】を入手した-


 脳裏に冷静な声が響く。俺はその意味を唐突に理解する。これは、新宿区の代表者を決めるレース。命の、スキルの奪い合いだということを、サエギリの記憶の断片から拾う。


『ううん。むしろ…………ふふ』このレースのルールも、意味も把握していない俺に向かって、センリが作り笑顔を向けた理由がようやく分かる。


 当初、彼女は俺を利用しようと、寄生しようとしていたのだ。確かにルールすら知らない俺は、彼女にとって、とても好都合だったのだろう。


 続く体当たり、融合。生け贄。サクリファイス。


【ナグモの命が捧げられた】【グンゾウの命が捧げられた】【セイヤの命が捧げられた】【エミリの命が捧げられた】……ひっきりなしに、声が脳を叩く。


「やめろ、やめてくれ!」


 罪悪感が俺を襲う。俺に、そんな価値はないのだ。こんなエゴイストは、見捨てられるべきなのだ。


「なにを、そんなに悲しい顔をしているんですか」


「俺は、ただ自分のために、お前らを助けただけだ。バンリに、追いつくために……。俺はただのエゴイストなんだよ!」


 俺は罪を告白する。断罪を求める。だが返されたのは優しい笑顔たちだった。


「それでも、俺たちを助けたのはリーダーだ」

「それに俺たちでは、たぶんバンリには勝てない」

「私なんて一度、支配されているしね」

「それにバンリを送り出すくらいなら、リーダーの方がずっといい」

 


「自分をエゴイストだなんて言ってしまうリーダーの方が、ずっといい」



 そうして、全ての命と、希望が、俺に溶け込んだ。

次回一章最終回。明日には投稿します!

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