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精子から始めるチートファンタジー  作者: 跡地
第一章「卵子争奪戦」
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第3話「完全支配」

 センリが笑うと俺も笑えた。それからも俺たちは懸命に泳ぎ続ける。


 何時間か過ぎただろうか。さすがに33万人も参加するレースで独走は厳しいようだった。だいぶ数は減ったとはいえ、俺たちとトップ集団を形成するグループは14組もあった。俺たちはなんとかトップを維持している状態だ。


 しかしどれも最低4人以上のチームだ。四つ子にでもなるつもりなのか。それとも別の考えがあるのか。いや、そんなことは問題ではない。


 俺たち含む、少人数グループ、は悲鳴を上げていたのだ。


「ばんり……」


 センリのつぶやきとともに現れた巨大グループ。まるで魚の群れだ。百人以上が群れ、一つのチームとなっていた。俺たちの倍以上の速度で泳ぎ、彼らは猛追してきた。そしてそのまま、トップ集団を背後から喰らい始めたのだ。


「今時、カミカゼかよ」


 スキルも使わない単純な体当たり戦法だ。精子の身体はもろい。ぶつかれば、文字通り命はなかった。魚群は巨大なあぎとを形成し、俺たちを飲み込んでいく。


「あーはっはっは。命が惜しかったら、僕のための道をあけなよ!」


 もちろん体当たりを仕掛けた方も無事ではすまない。ぶつかりあった精子たちは両者とも四散し、子宮に沈んでいく。



「まるで、洗脳じゃねーか」


 声を上げて嗤う精子が一人。それ以外は無言で弾丸となって、敵を仕留めていく。あまりの異様な光景に、俺は唖然とした。


「どうする? センリ」


 魚群は次第にトップ集団を貪り尽くすだろう。そのときは俺とセンリの命もないものとなる。


「……ここは、素直に道をゆずりましょ。私……たちでは勝てないわ」


 意気消沈したようにセンリはしっぽを力なく振った。怯える兵士が白旗を振るように。その姿はあまりにもセンリらしくない。俺は眉(もちろんない)をひそめ、それに従う。今は言い争っている時間はないのだ。


 半分ほどに体積を減らした魚群が風を切る勢いで、通り過ぎていく。あとに残るのは死屍累々だ。半身を砕かれた精子や、気力を失った精子ばかりだ。


 気まずい沈黙が俺とセンリに押しかかる。


「あ、あの……その……」


 センリが言い淀む。今にも崩れ落ちてしまいそうな彼女の様子に、俺は気付けば行動を起こしていた。


「それよりさ!」


 努めて明るく俺は言い放つ。


「あいつら、助けてやろうぜ」




「…………へ?」


 センリが俺の突然の宣言に呆ける。それはいつもクールぶっているセンリからは想像もできない表情だった。ちょっと爽快だ。


 しかし無理もない。俺も自分の発言に驚いているくらいなのだから。突然腹の奥から飛び出してきた衝動――いや欲望――を、そのまま口にしたら、「助けてやろうぜ」なんて台詞が出てきたのだ。


善意性分配エゴイスト】を用いて栄養を与えたり、子宮細胞から抽出した身体の成分を、再分配して治療をする。泳ぎ疲れ、恐怖にかられた精子たちは一様におとなしかった。


「ちぎれた身体が治っていく、嘘だろ……ッ」

「俺は、なにを……?」

「ありがてぇ……ありがてぇ……」


 弾丸にさせられた者たちも一緒に治癒する。治療が終わるころには、100人以上の精子たちが、俺のまわりに集い、こうべを垂れていた。


 数人、再生不可能な傷を負った者は救えなかったが、ほとんどの精子を救うことができた。彼らは口々に俺に感謝の言葉を述べていた。


 弾丸となった者が告発する。魚群の先導者のスキル【完全支配パーフェクト・コミュニケーション】によって、洗脳されていたことを。続くのは怒りの噴出だ。精子たちが身体をぶるぶると震わす。


 欲望にまかせて治癒し終えた俺は、ようやくのことで状況を把握する。そして言った。



「みんな、力を貸して欲しい」


 騒がしくしていた精子たちは黙り込むと、俺の方を向いた。俺は彼らの視線を受け止めて、宣言する。


「ここには100人もの仲間がいる。今から協力すれば、追いつけるはずだ」

「あなた、そこまで考えて……」


 隣にいたセンリが本心を零したように言った。俺は「たまたま」だよと、首を横に振って見せた。


 急に顔を出した欲望がたまたまなら、の話だが。しかし前世の記憶のない俺にはどちらにせよ偶然である。


 議論をかわす精子たち。当然だろう。ここで協力したとしても、最後にゴールできるのは数人であるのだから。


 それを察して俺は提案する。


「ゴール付近まででいいんだ。そこからはまた個人個人で泳ごう。それよりも今は」


 俺は一拍を置く。全員の注目が十分に集まるのを見計らって、続けた。



「先頭のクソ野郎を追い越してやろうぜ!」


読んでくれてありがとうございます! 精子時代はあと数話で完結予定です。そしたらようやく人間のヒロインといちゃらぶできますよ! 早く早く!

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