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精子から始めるチートファンタジー  作者: 跡地
第一章「卵子争奪戦」
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第1話「俺の始まり」

 目が覚めたとき、俺は子宮内にいた。おたまじゃくしのような姿をした精子たちが一億匹もひしめく光景に、生まれる前から死にたくなってくる。


「まさか、精子に転生させられるとはハードすぎんよー」

「マジありえねーからぁ」


 当然口も耳もないのに、聞こえてくるのは日本語だった。彼らは事情を把握しているような口ぶりで会話をしていた。俺は状況を把握するため、聞き耳をたてる。


「馬鹿な人、いえ精子たちですわね」


 逆の方向から眼鏡をかけていそうな精子が話しかけてくる。俺は思わず目(存在しない)をぎょっとさせてしまった。


「私の名前はセンリ。あなたは?」

「俺……名前……?」


 訊かれて初めて気付く。名前を思い出せない。俺は記憶喪失なのだろうか。それすら分からない。でもあまり危機感はなかった。記憶があいまいで、問題にするべきことすら分からないのだ。


「というか、女の精子もいるのか」


 むしろそっちの方が、数倍は驚きがあった。


「元、女と言うべきね。これから生まれて、性別がどっちになるかは分からないのだし」


 センリは俺が名前を名乗らないことに関して指摘せず、苦笑をこぼした。


「そんなことより協力しない?」

「なにを?」

「それはもちろん受精を目指して、よ。私、こんな暗いところで死にたくないもの」

「それは、確かに」


 暗視の能力でもあるのか、光の届かない子宮内であっても、視界は確保されている。しかしここを死に場としたいかと尋ねられれば、それは別問題だった。


「良かったわ。周りの人は慌てん坊ばっかりだったから、あなたみたいに冷静な人がいて」


 言われて見れば、確かに多くの精子は小さな身体をぶるぶると震わせていた。嘆いたり、罵ったり、あんまり建設的な動きをしようとはしていなかった。

 かといって俺が冷静かと言われれば、そうでもない。ただ事態を把握できていないだけなのだ。呆然としていただけなのだ。


「あなたにも色々な考えがあるでしょうけど、早く出発しましょ」


 センリは俺の背を押すと、前に進ませようとする。俺は抗わず流されていく。

 いつまでも押されっぱなしでは申し訳ないので、俺はばたばたとしっぽを振ってみる。水泳でのバタ足の感覚に近いのだろうか、比較的スムーズに子宮内を泳ぐことができた。


「子宮ってどんな形をしているか知ってる?」

「なんとなく……三角形みたいな?」

「正三角形ではないけど、概ねそうね。どちらかというと鋭角の円錐に近いかしら」


 記憶はなくとも、知識は一応残っているようだった。質問の意図が分からず、俺はあいまいな頷きを返す。


「私たちが今いるのは、たぶん子宮の首にあたる部分、子宮頸部っていうんだけどね」

「子宮頸部?」

「膣から入ったすぐのところ、って言った方が分かりやすいかしら?」

「なんとなく」


 俺の返答に、センリは嬉しそうに笑う。センリは先生気質なのかもしれない


「私たちは今、三角形で言うところの頂点にいるわけ。これから三角形の底にあたる部分、子宮底を目指すわ」

「どうして?」


「そこが受精する場所、卵管に近いからよ! 卵巣から排卵された卵子は卵管で精子が来るのを待っているのよ!」

「そうなのか」


 あまり実感が湧かず、俺はにごった返事をする。


「いい? あまりよく分かっていないようだから言っておくけどね。ここには33万人くらいライバルがいるのよ?」

「33万? どこからそんな数字が出て来るんだよ。一億とかじゃなくて?」


「新宿区の人口よ。転生者じゃない精子なんて、相手じゃないもの。本能のまま動く精子と頭を働かせる私たち転生者じゃ勝負にならないでしょ?」

「頭、ねぇ……」


 精子の身体を構成する膜はうすすぎて、スケスケなのだ。身体の中の構造までくっきり見えるが、脳など入っていない。この理不尽さは今に始まったことではないのだろうが。


「そう、それに私たちには一人、一つずつのスキルがあるわ。いわゆる転生ボーナスね」


 センリがどや顔で言い放つ。そういう話題にも明るいのかもしれない。


「だから協力が必要なのよ。一つでさえ強力なスキルが二つ……力を合わせれば私たちは無敵のはずよ」


 センリは一呼吸を置くと、言い放つ。


「スキル【完全寄生パーフェクト・パラサイト】、スキルを強化するスキルよ」


 なるほど、だからセンリにはパートナーが必要だったのだろう。俺はなぜここまでの知識的アドバンテージがある彼女が一人しか勝てないレースに、俺のようなやつをパートナーに選んだのか、ようやく理解する。


「スキルは、どうすれば分かるんだ?」

「へ? あなた覚えてないの?」

「覚えてないって、なにを?」


「ううん。むしろ…………ふふ」


 センリがなにかをいいかけてやめる。そして笑顔で俺の顔を見た。俺はその笑顔を知っていた。


 作り、笑顔だ。

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