あんな極上の女
いっそのこと逆ハーレム作るか。
このモテモテ魔王様を使ってそれを楽しみつつ世界を救うのもまた良しと、私は心の中で思いながら、
「お二方、まず一つ目です。私達の手伝いをして頂けませんか?」
「ちょ、ルナ、お前は何を言っているんだ!」
女魔王ヤード様が焦っているけれど、そのへんはどうでもいい。
いずれ魔族側の領地に行くことになるし、このまとめ役二人を倒して行政機能を停止させて混乱に陥れるのもまた、人間側に喧嘩を売ったりといったことになっても困るのだ。
現在はその世界の破滅を防ぐのが先なのだ。
なので彼らにそう私は言った。
そこで、軍師のソルトが嗤う。
「お手伝いを協力? この俺達に? 一体何をさせる気だ? お嬢ちゃん」
「世界が予定よりも早く滅亡しそうなので、来るべき日のために必要な人材を集めているのです」
「……お嬢ちゃん、頭は大丈夫か?」
「私も冗談だと思いたいのですが、事実です」
「ほう、それをどうして断定できる?」
軍師の魔族のお兄さんは、脳筋ではないようです。
いえ、確かに物語の脳筋は男性版ムキムキなアホの子に見えますが、この油断のならない感じは危険を感じるけれど……私には彼らを捕らえるカードが幾つもある。
なので私は不敵な笑みを浮かべて、
「あそこにいる、魔王様を女体化させたこの世界の新米神様のユーグが、そう言っているからです!」
私はユーグを指さしてそう告げた。
それにその魔王様を襲いに来た二人は凍りつくが、すぐに二人共薄く笑い
「面白い冗談だ。我らが魔王様がそんな新米神を生かしておくほど大人しい方ではないのでね」
「うん、殺そうと寝こみを襲ったのだけれど未だにこんな感じなの」
その私の説明に彼らは再び黙り、今度は宰相のメルトが、
「冗談はやめてください。頭の軽い嫌味で傲慢なハーレム男だった我々の魔王様の強さは我々がよく知っています。あの力が、強さがあったからこそ我々は従っていたのですから」
「では、この魔王ヤード様よりもその新米神のユーグの方が強かったのでしょう」
「ありえません、この魔王様に限って、あの圧倒的な力をもち君臨し、女になったからと言って我々二人がかりで押し倒そうとしたのに逃げられた時に、その力は健在だと我々は確信しました」
「困ったわね……魔王様があの新米神を殺せたり魔法が解けたりしていない時点で察せると思うのだけれど」
「……なるほど、確かに奇妙ですね。ですが疑問点があるものの私達は信じられません」
そんな宰相のメルトに、言葉で言っても無駄かと私は思って、ユーグを呼ぶ。
そして耳元であることを聞いてみる。
ユーグがチラリと魔王ヤードを見る。
それに魔王ヤードはものすご~く嫌そうな顔をするが、その辺はどうでもいい。
私は考えたのだ、彼らが最も嫌がる選択を。
つまり、彼らの目的が達成できなければいいのだ。なので、
「では、貴方方があの魔王様に触れた瞬間、魔王様が“男性”に一時的に戻るように設定してみせましょう!」
「面白い冗談ですね。ですがいいでしょう、もしそれが出来るのなら、その世界が破滅するかどう話を信じましょう」
「よし、言ったわね。さあユーグ、やっておしまいなさい!」
それに、はーいとユーグが答えて、
「あの二人が触ると一時的に男に戻るように設定しました」
「お前達! 早く私に触れろ!」
女魔王ヤード様が目を輝かせながら言うと、宰相のメルトと軍師のソルトが顔を見合わせてから、軍師のソルトが親指でヤード魔王様を指さし、それに宰相のメルトが嘆息して近づいてくる。
そして魔王ヤード様に触れると、ぽんといった音がして、
「ふ、ふはははは、ようやくだ、ようやく男に戻ったぞ! って!」
そこで宰相のメルトが手を話しと同時に魔王ヤード様は女に戻る。
胸ができているのだから間違いない。
どうやら、触れた瞬間は男になるようで、そこで魔王様が、
「矢っ張り女のままではないか! いいから私をいい加減男に戻せ!」
「……ハーレム作っている男なんかきらいだ」
相変わらずユーグは魔王様にそう返しているとそこで魔王様は、
「分かった、お前にも何人かの美女を侍らさせてやる! それでどうだ!」
「え? いりませんけれど」
「……」
「……」
「だったらなぜ私を女にした」
「いらっときたので」
「……やはりお前とは一度決着を付けなければならないようだ。……死ね」
そう告げて魔王ヤード様はユーグを追いかけまわし始める。
どうせユーグが負けるはずがないと私は分かっているので、代わりに宰相のメルトに、
「それでいかがいたしますか? 魔王様はあなた方が触れた瞬間男になりますが」
「……どうにかして常時女体化する魔法薬を投薬しましょうか」
「……もしやあの女体化魔王様、ものすごく好みだったりしますか?」
宰相のメルトが黙った。
次に私は軍師のソルトを見ると、
「当たり前だろう? あんな極上の女、そうはいない」
「見かけですか? 中身ですか?」
「両方だよ、ったく、なんてことしやがるんだと思った。で、惚れた」
「惚れたのならもっと優しくしないといけないのでは?」
「……惚れたのは初めてだからな。それで、エロめの官能小説を読んだ結果、襲うのが正しいんじゃないかという話になってな」
少し離れた場所で、魔王様が放ったらしい魔法の爆音が聞こえる。
けれど私自身今の話を聞いていて、
「創作と現実を混同しないでください! 惚れたならそれなりの手順というものがあるのです! ……分かりました、そちらのサポートもさせて頂きます。それでその世界の破滅と、我々に協力して頂けませんか?」
それを聞いた宰相のメルトが、深々と嘆息する。
「世界の破滅は信じられません。そもそも子供の戯言に聞こえます」
「では、どうしたなら分かって頂けますか?」
「そうですね……たまたまあの魔王ヤード様が新米神ユーグ? を殺せない理由があり手加減しているのかもしれません」
「なるほど、それで私達を信じる条件は?」
「そうですね、私達二人を力でねじ伏せたなら考えて差し上げましょう」
嗤う宰相のメルトに軍師のソルト。
私が舐められているのはわかるが、
「交渉の背景が武力というのは良くある事ですわ。いいでしょう、私達の力を見せて差し上げますわ。ユーグ、力を貸して!」
「いまは無理です、うわぁあああ」
そこでユーグが魔王ヤード様の攻撃を受けて悲鳴を上げた。
それを見て私はこの役立たずがと怒りたくなったが、
「それでどうするのですか? お嬢ちゃん」
軍師のソルトが笑って言うので私は嘆息し、
「いいでしょう、私がお二方のお相手をさせていただきますわ」
悪役令嬢らしく傲慢に私は、微笑んだのだった。