何でお前達はここにいる
次のターゲット目標に向かう最中、女魔王ヤード様は終始不機嫌だった。
この馬車内でもユーグの隙を見て、ヤードが攻撃をしようとしており、馬車の中は傷だらけだ。
初めのうちは私も“時間操作”を操り元に戻していたのだが、絶えず行うのも疲れたので今は放置中。
ただこの馬車の中、本を読むにも車酔いが嫌なので読めない。
なので私は暇だった。
すごく暇だった。
そしてすぐ傍には、恐ろしく整った黒髪が美しい女魔王様がいる。
更に付け加えるなら、私も女の子のはしくれなので、お人形遊びが好きである。
後は分かるな?
「魔王ヤード様、お願いがあるのですが」
「ん? なんだ? ルナ」
にこっと微笑む魔王様。
絶世の美少女である私とは違った、大人の色かが見え隠れする――つまりエロい女の人だ。
これは襲われるわ、と私は納得しながら、
「髪をいじらせて下さい」
魔王様が変な顔をした。
けれどすぐに自分の髪を見て、
「まあ、ユーグを攻撃して抹殺するのも飽きたし、いいだろう」
「僕はまだ抹殺されてませんよ!」
「もう一度戦闘再開と行くか?」
それに女魔王様ヤードに睨まれてユーグは黙る。
そして、私は魔王様の黒髪をとかして三つ編みにして、髪飾りで留めたりと様々な髪型を試していた。
「やっぱりこの髪型も素敵ですね」
「そうか? 私は男の時でも顔はいいと評判だったからな、女になっても美しかろう」
「本当ですね、じゃあこっちも付けてみても構わないですか?」
「いいだろう、好きにするがいい」
褒めると機嫌が良さそうな魔王様。
やばい、この魔王様チョロすぎ。
でもそういった所も好かれる要因なのかなと私は思いながら、髪をいじり始める。
ユーグが羨ましそうに見ている気がするが、それならば後でユーグも私の玩具にしてしまおうと考える。
ユーグも素材がいいので楽しそうだし、こうやって髪をいじっていると馬車内が荒らされないのも素敵だ。
これからもこうやって魔王様達を飾り立てようと私が楽しんでいると、そこで馬車が止まる。
殺気は感じない。
周囲にも、人のような気配は2つあるが、特にこちらを害する意思はなさそうだ。
だから私に放たれた暗殺者ではない。
となると誰だろうと私は思うのだが……ここには超便利な新米神様ユーグ君がいる。
なので、困った時の神頼みということで、
「ユーグ、この周りにいるあの二人は誰? この窓からは顔も見えないのだけれど」
「ああ、あれはそこの魔王ヤード様の体を狙っている、軍師のソルトと宰相のメルトです」
女魔王様ヤードが絶望するような表情になった。
というか今体を狙っていると言っていたが、そこでヤードが私に、
「轢き殺してもいいから突破してくれ! 彼奴等には二度と会いたくない!」
「どうしたんですか、こんなにがたがた怯えて」
「あ、あいつ等は、私の体を狙っているんだ!」
「え、えっと、男の方ですか? 女の方ですか?」
「女の方だ! 男の時は、信頼はできるが油断ならない部下としてあしらいつつも、水面下でやりあっていたが……女になった瞬間、どうなったと思う!」
叫ぶように私に告げる魔王ヤード様。
どことなく涙目な辺りも可愛いのだが、何があったんだろうと思っていると、
「そろそろ出てきて頂けませんか? 我々も馬車ごと吹き飛ばしたくありませんので」
そんな男性の声が聞こえたのだった。
外にでると、一人は赤い髪の派手な男でもう一人は金髪の長い髪の優しそうな雰囲気の青年だった。
どちらも美形だが、彼らはゲームでも私は見たことがある。
攻略できるのは魔王様のヤード(男バージョン)だけだったのだが、背後にいる男性キャラというか側近キャラもかっこいいなと思っていたので、実際に動いているのが見えて私は楽しい。
けれどそんな私とは対照的に、女魔王ヤード様は真っ青だ。
そんな彼女が震える唇で、
「な、何でお前達はここにいる」
「貴方様が、私が呼んだ時にすぐ来れるようにとおっしゃったのでつけている腕輪に、発信機のようなものをつける羽目になったでしょう? あの時はこんな面倒なものを付けさせやがってと思ったのですが、今にして思えば。貴方様を見つけるのにはちょうどよかったですね」
金髪の長い髪をした宰相のメルトが楽しそうに話しかけてくる。
それを聞いて焦ったように腕輪を外そうとする魔王ヤードだが、
「ああ、無駄ですよ。簡単には外せないようにさり気なくそういった暗号の鍵の魔法を付けさせていただきましたから」
「な、何だと?」
「そんなわけで我々から逃げられるはずがありませんので城に戻ってください」
「も、戻ったらお前達、私に何をする気だ!」
「もちろん孕ませますが、なにか?」
魔王ヤード様が凍りつきました。
当然といえば当然ですが、この宰相のメルトさんも相変わらずの優しげな表情でさらっと鬼畜なことを言っています。
というか、私からしてみると、
「それなんてエロゲ」
「? エロゲとは?」
「エッチなゲームの略です。女になったと思うと襲い掛かっられるとか、うーむ」
「く、そ、そもそも何で女になったからってお前達はいきなり私を襲おうという発想になる!」
それに宰相のメルトは困ったように溜息を付いて、
「まず考えてみてください。私達よりも上の地位にいる我侭で傲慢だけれど力も強くカリスマ性のある男がいたとしましょう」
「それは私ではないか」
「想像していてください。続けます。そんな男がある日絶世の美女になり、涙目で困っていたとしたらどう思いますか?」
「……今までの苛立ちも含めて美女だし、逆玉の輿だし、襲う……は!」
「我々魔族は実力主義でもありますからね。そして優れた子供がほしいという欲求もあるのですから……どうなると思いますか?」
カタカタと女魔王様ヤードが震える。
どうやらその理屈を理解してしまったらしい。
けれどそこでヤードが、
「だ、だが元男だという私をそうしたいというのは、つまりお前達は、男が好き……」
それに眉をひそめる宰相のメルト。
「男なんてゴメンです。ですが、男の方が男心が分かって良いという話はありますね」
「ふ、ふざけるな、私は男だ!」
「貴方は女です。本当にもう、二人がかりで陵辱し尽くしてしまおうと狙っていたのに、信頼させるように装って協力していたというのに、腐っても魔王様なので逃げられてしまった」
「……もういやだこいつら」
絶望的な呟きをこぼす女魔王様ヤード。そこで、軍師のソルトが嗤う。
「な、俺の言ったとおりだろう? あの魔王様が素直に言うことを聞くはずないって」
「そうですね、仕方がありません。力づくで従っていただきましょう」
二人揃ってそう告げる。
ふわりと浮かぶ魔力と殺気に私は、ここで戦闘をするのは危険と判断する。
確かにこの二人くらいはのせるが、現在魔族を主にまとめているのはこの二人で、できれば協力関係においておきたい。ならば、
「すみません、お二人と交渉がしたいのでよろしいですか?」
そう私は告げたのだった。