颯爽と会場に
こうしてTSな女体化魔王様ヤードが仲間になってくれたわけなのですか、
「や、やぁああっ、このっ、締め付けるな、私を誰だと……あうっ」
音声だけでお届けすると、とてもエロく聞こえます。
実際にエロい事になっているというか、たまたま歩いていると触手系の魔物に襲われ、魔王様はなすすべもなく触手で絶妙な形に締め付けられています。
しかも頬を染めてくぐもった声を上げている辺りがエロいのですが、これは獲物をしびれさせて動けないようにするという目的だけです。
ちなみにこの触手生物は動物の肌に触れて魔力を吸収するだけなので、ただ触るだけです。
それも吸い取ってもそれほど問題なさそうな、大人のみを狙います。
なので私達は近頃の創作物の現状を鑑みたかのような、スルーっぷりです。
しかたがないのでエロい女性魔王様の写真を取ることにしました。
これは裏で売れる……そう私は確信したからです。
「……ルナって、鬼畜だよね」
「稼げる時に稼いでお小遣いをためておかないと、次の手を打ちたい時に、打てないでしょう? よしこれで大量っと」
そこでようやく放してもらえたヤードが私に近づいてきて、
「いいから今すぐその恥ずかしい写真をよこせ!」
「えー、高く売れそうなのに」
「売るな! と言うか返せ!」
私が写真を持って逃げるように馬車に乗り込み、馬車に乗って再度争奪戦です。
ちなみに今魔王様は魔力の殆どをユーグに封じられています。
理由はユーグをすぐに痛い目に合わそうとするから、だそうですが。
その辺の事情はどうでもいいので省略!
「それで次は、弓の名手、カルロ君との接触ですね。確か六歳の頃からその天賦の才を見せつけていたかと」
「ふん、気に入らんな。天賦の才を示すクソガキか」
「いえ、確か作中は凄くいい子なんですよ。初めは年上が好きだったのですが、後にユニちゃんにほだされるのです」
「……年上はいいものだ」
どうやらこの魔王様は姉萌えのようです。
さて、そんなこんなでやってきた私達ですが、その目的の人物が何処にいるのかと思って、観光と称してその町を歩いていったまでは良かった。
やがて登場人物カルロ君の家にやってきた……わけではなく。
「弓技大会?」
なぜか開かれたこの大会……そういえばカルロ君が仲間になった理由は、この大会で優勝して力を積み、この力でユニの力になれるとかいう展開だったような気がする。
ではその実力を拝見しましょう、ということで私達は会場に向かうが、
「もう観客の切符は売り切れだよ。最年少の弓使いが生まれるかもって抽選だったし」
切符売り場のおじさんがそう告げる。
私達はじゃあ出てくるのをまとうかという話になるが、大会が終わった後夜どうして、感染者だけの宴会があるらしい。
ちなみに私達はここを明日には立たないといけない。
なぜなら、それが私と両親との約束だからだ。
「私、挑戦してきます」
貴族の嗜みで弓ぐらいなら打てるのである。と、
「では私も挑戦しよう。弓などという武器は、面白半分で使ったことがあるからな」
魔王様も乗り気である。
よしこのメンバーで大会にと思ってそこで私はユーグを見る。
ユーグはにこりと私に微笑んで、
「じゃあ僕はこのへんで待っていますので」
「おじさん、三人で大会に出るわ。弓は貸して頂けるんですね?」
「いやぁああああっ」
逃げようとするユーグの襟首を掴み、私達は颯爽と会場に向かったのだった。
目的のカルロ君は、他の候補者に囲まれて近づけない。
しかたがないので私達は予選を突破することにする。
そうすれば周りの近づける人間も減るだろうという目論見だ。
まずは私の番からだ。
「風速、距離の概算、位置、重力、矢に与える力……“時間停止”」
定める中心。
狙いを定めたその矢が小さく揺れるのを、矢の幾つかのポイントを停止させることで安定させ、放つ。
特殊能力故に、こんな小さな会場では見つかることのない魔法だ。
放った矢はまっすぐに飛び中心を射抜く。
子供から大人までまとめて行われる大会だが、まずは予備審査として矢を一本放つらしい。
そして中心を射止めた私は、もちろんクリア。
次に矢を構えるのはヤード。
女声になってもその凛とした美貌は損なわれておらず、真っ直ぐに的を見据えて放つ。
もちろん中心を射抜いている。
「ふむ、この程度私には容易だな」
「凄いですね、ヤードさん」
「そうだろう! 武器はあらかた使えるが、美しさの観点から魔法しか使わないがな」
ヤード魔王様は、御機嫌なのを見て、こうやっておだてて使ってしまおうと私は考える。
人が良くて力も強くて美人な女性なら危険があまりない。
そう思っているとユーグが弓を構えて、矢を放つ。
ぴったり的の中心を貫く。
「わーユーグ、すごーい」
「……こう見えても神様ですから」
はにかむユーグに、こうやって見るときれいな顔をしているなと私が思っているとそこで、
「ほら、次行くぞ、次。次はくじ引きだ」
そして私達はくじを引いて順番を決めたのでした。
予備を抜けるとカルロ君に会えたのですが、
「僕は信じられません、そのうち世界を救う度に出るなんて」
「本当は段階を踏むのだけれど、事情があって、ね」
「……分かりました。ではこの弓の勝負に貴方方が勝てたなら、僕は信じましょう」
それはカルロくんにとっ、て信じるわけ無いだろう胡散臭い、と言っているのと同意語だと私には分かる。
なのでその勝負を受け、一回戦であたった私は、カルロ君を負かせました。
本日の一番の期待の星だったカルロ君が第一回戦で敗退し、雰囲気が悪くなってしまいましたがこちらは切羽詰まった事情があるので譲れませんでした。
途中私とユーグが当たりましたが、さり気なくユーグが魔法を解除しやがって失敗しました。
そして決勝戦は、ユーグと魔王ヤードの一騎打ちになり、連続して的の中心を当てていき、最終的に引き分けとなった。
そして賞金と宴が開かれたのだけれど、
「それで信じてくれるかしら」
「……約束ですから」
うつむくカルロ君だが、やはりショックならしく俯いていると、
「別にこれから頑張ればまた次の機会がある。お前はまだ子供なんだし」
「……はい」
魔王ヤードがカルロ君の頭を撫でている。
そこはかとなくカルロくんが嬉しそうなのは何故だろう。
そう思っているとそこでカルロ君が魔王ヤードを見上げて、
「僕、将来もっと強くなります。その時、お嫁さんになってくれませんか?」
「ええ! え、えっと私は……」
「駄目なのですか?」
カルロ君が泣きそうだ。
それに魔王ヤードはそれ以上何も言えなくなって、頷く。
まあ子供の約束だから大人になる頃には忘れているだろうと思えるのだが、走って行き約束だよと言って去っていくカルロ君。
彼を見送った魔王ヤードだがそこで私に、
「一つ聞いていいか」
「何でしょう」
「どうして私が男に惚れられているんだ?」
「絶世の美女だからでしょう」
そこで魔王ヤードは、ユーグを追いかけまわし、早く私を元に戻せと叫んだのだった。