すでに予定とは違っていた
現れたヒロインの名前は、ユニ・リーフェちゃん。
現在六歳の、柔らかなピンク色の髪に青い瞳の美少女だ。
だがここで、本来であれは魔王が隠したと言われるこの世界の根幹をなす、時間を巻き戻して太古の木を蘇らせるはずだったのだ。
確かヒロインの、健全な状態まで時間を戻すという特殊勝つ強い力が物語の鍵となるのだ。
そしてその力の目覚めは、昔、幼馴染と一緒に魔物に襲撃されてきた時に、攻撃を受け死にかけたのがきっかけだ。
ちなみにその幼馴染の男の子、茶色い髪に緑色の瞳のシーク・クフリンは、それを気に彼女を守れるだけの男になろうと決意して剣の道を極め、冒険にも付いて行くのである。
心の支えにもなる重要な彼との深いきずなもその時出来たのだという。
そこでもう一度考えて欲しい。
私は今、とっさに二人の少年少女を助けた。
その二人はゲームのヒロインと幼馴染という登場人物だ。
その人物達は六歳の時に魔物に襲われ一人は才能を開花させて、もう一人は強い決意を手にする。
だがそのイベントは、悪役令嬢である私の手によってへし折られてしまった。
いや、この程度の魔物がこの私に牙をむく何手と思ってしまったんだから仕方がないじゃん!
私は悪くない!
そう自分に言い聞かせてみても、どう考えても私がミスした事実は変わらない。
本当にどうしよう。
私がそう顔を青くしている所でお礼を言ってくるユニ。
だから私は、そこで彼女の肩を掴み、
「貴方にお願いがあるの。もう一度魔物に襲われてくれない?」
「ええ! え、えっと、助けてくれたんじゃ……」
ユニが困ったように私を見つめるが、そこで彼女の幼馴染のシークが私の手を振り払い、
「ユニを助けてくれたからと思ったのに、やっぱり敵だったんだな。ユニの力が目当てなのか!」
シークはユニを自分の背後に隠しながら私にそう叫んだ。
だがそれを聞いて私は、ん? と思う。
だってユニが力に目覚めるのは幼馴染と一緒に魔物に襲われた時で、まさか。
「ユニに、時間を巻き戻す力がもうあるというの?」
けれどそう呟いた私をシークは睨みつけて、
「やっぱりその力が目当てだったんだな! 悪の組織め! ユニは絶対に渡さないからな!」
「悪の組織って、子供の妄想みたいな……それでその力に目覚めたのはいつか、それだけは教えてちょうだい」
「……一週間前だ。それで、お前は一体何者だ!」
傍にあった木の枝を剣に見立てて私に向けてくる少年。
こんな気の枝なんて紙きれのようなものだと私は思いかけたが、良く見ると魔力が木の枝を覆っている。
これは強化の魔法。
この魔力密度からすれば、鋼程度の硬さと粘性はあるだろう。
それでも私にとってのそれは紙切れ以外の何物でもなかったが。
「何者、ね。私の名前はルナ。ここの村に来た貴族の令嬢よ」
「そういえば昨日、そんな話を聞いたような……でも貴族の令嬢がいったい……」
「貴方達二人は、いずれ世界を救う度に出るの。でもその力に目覚めるのは魔物に襲われて偶然発現するはずだったの。あなた達、以前魔物に襲われてその力に目覚めたの?」
その問いかけにシークとユニがお互いかおを見合わせて、次に怪訝そうに私に、
「いえ、偶然玩具を壊してしまって、どうしよう、怒られると思っていたら元に戻ってしまって」
そう答えるヒロインに私は、側にいた新米神様ユーグをじろりと見て、
「どういうことなの?」
「わ、分かりません。でも予定では確かそんな感じで目覚めるように設定が」
「でもそうじゃなくて目覚めている。……そして勇者な私は悪役令嬢……ユーグ、貴方色々物語、運命を改変していない?」
「……実は力の使い方を少し間違えた気が。ほら新米なので」
「……あーんーたーはー。ええわかったわ。どうにかしてやろうじゃない。でも二人に力がある、そして出会えたのは幸運だわ。これから、こまめに連絡を取りましょう!」
私が提案をすると二人は困ったような顔をする。
でもうんと言ってもらわないと困るので私は、まずユニに、
「世界を救うためにあなた達の力がどうしても必要なの。特にユニ、貴方の力が」
「え、で、でも突然そんなこと……」
「まだずっと先だけれど、その時が来て迷うよりも今からその力をうまく使えるように訓練しなさい。けれどその力が知られないように」
「む、難しい……」
「でもその力が世界を救う鍵になるの。だからお願い」
それにユニは小さく頷いた。これで彼女は大丈夫だと私は思い次にシークに、
「貴方にはユニを守ってほしい。貴方にはそれだけの剣の才能がある。精進すれば必ずユニを守る力になるわ」
「本当か! ……でもお前、何でそんな未来のことが分かっているみたいな言い方をするんだ?」
シークがそこで胡散臭げに私に言うがそこでユニは、
「預言者様なのですか?」
言われてみればそれっぽいわね私と思いながら、
「本来起こるはずだった話を知っている、確かにそうとも言えるかもね。そしてこれから貴方方とこまめに連絡を取りたいの。きたるべき日のために」
「……確かに魔物をあんなふうに倒せる方は普通じゃない。そして貴族令嬢のあなたなら特別かもしれません。分狩りました、僕たちは貴方方を信じます」
「私も貴方を信じます。えっとお名前は……」
「ルナよ。よろしく」
そして神様のユーグに無理やり遠距離通信の球を作らせて、シークとユニに渡したのだった。
そしてまた明日も会う約束をして宿に戻った私にユーグがふと呟いた。
「本物の悪役なら、悪役なんて悟らせないのではないかと」
「何が言いたいの?」
「……ルナは悪役令嬢ではなく、ただ抜けているだけなのかも、と」
言われてみてうなづきそうになった私は、ユーグに、体が訛っているからと闘いを挑む。
逃げまわる彼を追い回す運動を終えた私は、体を綺麗にしてベッドに横になる。
そんな私の部屋に、ある人物が襲撃を仕掛けてきたのはその夜遅くの事だった。
書いていたら、昔書いていた予知能力を過去に持っていた魔王という悪役?主人公の話を思い出しました。ただ予知能力がある時期はさらっと流して設定だけだったのですが。ゲームのこうったことが起こるというのが分かるのも、他のキャラから見れば予知能力みたいだよなと思ったり。