彼らが来た
宿のドアが数回叩かれた。
けれどその魔力の気配に、誰が来たのかすぐに私は気づく。
同時にヤード魔王様が、ベッドの後ろに隠れた。
彼らが来たと悟ったのだろう。
隠れえいるヤード魔王様はそのままにしておいて、私達はドアを開き、そこにいたフィフスと宰相メルトと軍師のソルトに、
「お待ちしておりましたわ。お茶とお菓子をすぐに用意いたしますね」
「お菓子はこちらで手土産に持ってきましたから、問題ありませんよ」
そう言ってフィフスが何やら紙袋を私に見せてくる。
なんだろうと思っているとそこで、私の後ろから声がした。
「そ、それは、私の大好物の“メルカバ店のシュー・ア・ラ・クレーム”」
「そう、ヤードが好きなものですよ。僕が会いに行くと全力で逃げるのに、この手土産がある時は大人しくしていますからね」
「……警戒して近づかないようにしていただけで、私には逃げてなどいない」
必死で言い訳するヤード。
それをにこにこと微笑みながら見ていたフィフスが、
「ヤードのお菓子を食べるユスは可愛かったですからね」
「……やけにニコニコ笑いながら私を見ていて、あの時、男色家の噂は本当なのかと一瞬思いながら、まさかとは思っていたが……」
ぶるりと震えたヤード魔王様。
と、その背後から宰相のメルトが嘆息するように、
「まさかあの時はフィフス様が倒されるとは思いませんでしたからね。けれど実力は見届けた我々がよく知っていますのでそこは否定しませんが。あの後も時々城に来ていて、随分と気に入られているな、と思いましたね。男の時は何処がいいのかさっぱり分かりませんでしたが」
そう言い切った宰相のメルトだがそれに軍師のソルトが頷き、
「そうそう。書類関係ならまだしも戦闘ならと思ったら、女を侍らせてデレデレというか……女に弄ばれているというか」
そこでソルトが絶大な地雷を踏もうとしている気がした。
だって、多分、ヤードがハーレムと思っているものは……。
とりあえずそこで私は、
「あ、ここで立ち話もなんですので中に入りましょう。そのお菓子は……」
「そうですね、折角ですからヤードに直接僕から渡しましょう」
フィフスがそう言って部屋の中に入ってきて、少し警戒したようなヤード魔王様に近づいていきます。
ですが近くまで来たのにやはり特に何もされ無さそうと思ったのか、ヤード魔王様は恐る恐るその紙袋に手を伸ばし……そこで、フィフスがヤード魔王様の手首をつかみ抱き寄せた。
「ひ、ひぃいいいっ」
「やはり女の子になると、隙が増えますね。ふむふむ」
「あ、あの、放して欲しい……」
「……丁度すぐそこにベッドが」
「ブルブルブルブル」
ヤード魔王様がまっ青になって震えています。
ただ現状では、このままいくと話がいつまでたっても進まないので、
「フィフス様、話を進めたいのですがよろしいですか?」
「……やはりすべてが終わった後再挑戦ですね。邪魔が多すぎますから」
そう楽しそうにヤード魔王様を放す。
ヤード魔王様は全力で逃げ出し、またも私の後ろに隠れる。
何だかなと思いながら私は、
「実はこれから白い霧に関して少し現地の情報を集めようと思ったのですが、どうでしょう?」
それにフィフスが、
「こちらの現地にいる魔族にすでに話は聞いていますが……我々も少しくらいならば話を聞いてもいいかもしれません。ただ、その分この白い霧が広がるでしょうが」
「どれくらいの速度で広がっているかご存知ですか?」
「後3日くかくらいでこの町に到達しそう、といった所かな」
「では、十分に時間がありそうですね。まだ初期のはず。私の知っている範囲では……すでにこの町は飲み込まれているはずですから」
そう私は答えたのだった。




