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本人の前で下克上計画

 こうして嫌がる女魔王ヤード様を無理やり宿のとある部屋に連れ込んだ私ですが、そこには優雅にお茶を飲むフィフスの姿がありました。

 ただお茶を飲んでいない方の手には書類の束のようなものがあり、そこに目をさっと通している。

 と、そこで私達が入って来たのに気づいたのか顔を上げて、


「やあ、数日ぶりかな?」

「そうですね。一番最後に会ったのがフィフス様ですから」

「僕が一番最後だったのか、ふむ。でもこうやってまた再会できてうれしいよ、特に、可愛いヤードには、ね」


 含みを持たせるように告げたフィフスにヤード魔王様が、ひぃいいいいっと悲鳴を上げています。

 しかもそんなヤード魔王様を見て、


「か弱い悲鳴を上げるさまも可愛らしいですね。しかも今はメイド服ですか。これもまた良いものです」

「がたがたがた」

「どうしてそんなに震えているのですか? 僕はまだ貴方から相当の距離がありますよ?」

「……お前はいつもそう言って余裕めいた声で、私を騙す気がする。魔王の座を巡っての勝負の時も、お前の口には散々惑わされたからな!」

「言葉で相手を操るのも、必要な能力の一つですよ。と言いたい所ですが、直情型であまり考えないで突っ込む貴方に負けてしまったので、その能力はどの程度有効なのでしょうね」

「……そうやって今、話しながら何か企んでいるんじゃないのか?」

「酷いですね、そんなに僕が信用できないですか? ……もっともそれは正解なのですが」


 にやりと笑うフィフス。

 そこでふっとフィフスの姿が消えて、ヤードの後ろから手が伸びて……ヤードが何かを感じ取ったのか後ろに向かって肘鉄をくらわした。

 もっとも、それはかわされてしまったが。と、


「やれやれ、相変わらずヤードは元気ですね」

「い、いつの間に背後を」

「この部屋に入ってすぐですよ。新しい魔法を思いついたので試してみましたが、そこそこ有効なようですね」

「……まだ魔法の研究をしているのか」

「ええ、このままヤード、貴方を倒して魔王の座に返り咲き、貴方を花嫁にしてしまうのも手ですからね」


 楽しそうに告げるフィフスにヤード魔王様が、


「わ、私は男だ」

「前も言ったように好みの相手は性別は気にしない主義なのですよ、私は」


 そう言って再びフィフスがヤード魔王様に手を伸ばそうとした所で、宰相のメルトが、


「フィフス様。我々もヤード魔王様を狙っているのですが」

「では三人で分け合う形に? 三人でかかれば倒せそうですし」

「……なるほど。そして魔王の座にはフィフス様に戻って頂くとして……」


 などと話し始めた宰相のメルトにヤード魔王様が、


「な、おまえ、良いのか!」

「ヤード魔王様の数十倍の速度で書類関係の仕事は終わらせますからね、フィフス様は」

「……」

「余りにもそちら方面はアホだったので、男だったときはこのアホ上司、そのうち下剋上してフィフス様に手土産にもっていってやろうと思ったものです。今は……フィフス様と三人がかりで倒しに行くのも手ですね。どうですか? ソルト」


 そこでメルトが軍師のソルトに声をかけると、


「……この女体化ヤード魔王様が手に入るならそれもありだな」

「なるほど、これで話は決まりましたね」


 嗤うフィフス、メルト、ソルトの三人にヤード魔王様が凍り付いているのですが、そこで私は手を上げました。


「素敵なお話ですが、今は協力して頂きたいので後でにしていただけませんか?」

「そういえばそうだね。アレは放置をするのが危険だしね……すべてが終わってから、計画を練って、ヤード魔王様を罠に落とし込みましょうか」


 そう、にこやかにフィフスが告げて、ヤード魔王様下克上計画は先送りになったのでした。


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